Kimama Cinema

観た映画の気ままな覚え書き

TOO YOUNG TO DIE! 若くして死ぬ

2017年06月24日 | 2010年代 邦

TOO YOUNG TO DIE! 若くして死ぬ

日本 2016年
監督・脚本:宮藤官九郎
製作:長澤修一、市川南、藤島ジュリーK.、井上肇、畠中達郎、長坂まき子、高橋誠、宮本直人
出演:長瀬智也、神木隆之介、尾野真千子、森川葵、桐谷健太、清野菜名
撮影:相馬大輔
編集:宮島竜治
音楽:向井秀徳


修学旅行中の高校生たちを乗せたバスは、崖の下に真っ逆さまに転落。
そのバスの中の高校生のひとり、大助が目を覚ますと、そこは地獄だった。
大助は想いを寄せる同級生・手塚ひろ美に再び会うため、赤鬼のキラーKに
導かれ、現世での転生と死(地獄へ直行)を繰り返す。

テレビサイズの枠を外れた宮藤官九郎監督作品だからこそ!どんな突拍子もない
地獄をみせてくれるだろう、と期待していたら、なんともハリボテちっくな
安っぽい舞台装置が・・・これ、地獄なん? 学校もあって、鬼も軽音部で
「地獄図(ヘルズ)」なんてバンド組んでてバンドバトルもあって・・・って
コントかよ? 拍子抜けさせられながらも、ぐいぐい展開に魅せられていく。
早くも手玉に取られてる感覚が、快感でもある。 

獣として現世に戻る畜生道を選んだ大助は、生前通っていたスタジオパンダを基軸に
鳥になったり、ザリガニになったりして、同じよーなところをいったりきたり
しながら、バス事故から生き延びた同級生ひろ美の人生を追いかける。
キラーKも実はスタジオパンダのさえない店員だったりして、なんてミニマムな
輪廻転生だろう。

いや、しかし煩悩と執着によって生命は輪廻転生するのだから、案外みんな狭い
世界で生き死にしてるのかも、そうなのかも?なんて妙にしっくり納得してしまった。

火 Hee

2016年09月07日 | 2010年代 邦


ウイルあいちで開催された「あいち国際女性映画祭2016」にて
桃井かおりさん監督・主演の映画「火 Hee」、ドキュメンタリー「Hee and She 映画『火 Hee』を
作った日々」、特別企画トークショー「「~監督、そして女優として~」を観てきました。

火 Hee

2016年 日本
監督:桃井かおり
製作:奥山和由
脚本:高橋美幸、桃井かおり
出演:桃井かおり、佐生有語、藤谷文子、クリス・ハリソン、ブライアン・スタージス
撮影:ギンツ・ベールズィンシュ


カーテンをそのまま服に仕立てたような、トリッキーなワンピースを着た女が
アメリカにある精神科のクリニックで、独り言を重ねていく。
医師は無表情で聞いているのか、いないのか。
うつろな目の女の言うことはどこまでが虚言で、どこからが本当なのか。
はっきりしないまま女は去り、医師は普段どおりの生活を続けていく。

そして街中で、その女を見かける。
一度は狂っていないと診断した女、医師としての自分を認めなかった女。
医師は声をかけず、女をじっと見つめた。

それからまた、女はクリニックにやってきた。
今度は放火による殺人犯の容疑者として。
再び、女は自らの恵まれない半生を語りだす。

男を家に連れ込むような母親に育てられ、アメリカに渡ってからは
娼婦として生計を立てるようになった彼女。途切れ途切れに事件が
明らかになっていくようだが、どれが真実か。

彼女は向き合ってもらうことを必要としていて「見られる」ことにより
語りを進めていくが、「見られる」からこそ演じることもあるだろう。
「見る」ことで、他人へ与える役割もあるだろう。
「見ること、見られる」ことの重みを感じる作品だった。

とはいえ、発端となる事件のあらましは極めてわかりづらい。
続くドキュメンタリー「Hee and She 映画『火 Hee』を作った日々」の上映を観て
やっとストーリーの全貌は理解できた。

まあ監督の桃井さんによると、観て直ぐに理解できなくても良い、ジワジワくれば、
とのことだったけれど。
上映後に行われた元・黒澤映画制作助手の野上照代さん(御年89歳の日本映画界の重鎮、
「母べえ」)とのトークショーでは野上さんの第一声からして「わからん映画だったでしょ」
との切り出し。ちゃちゃを入れながらの掛け合いでテンポよく、更に謎もとけて良かった。

タイトルをなぜ「Hi」ではなく「Hee」としたのか。
彼女(患者)が主役のようで、実は彼(医師)が主役だからなのかなあ、と私は何となく
想像していたけれど、監督の意図は「火」を”Fire”のようなボウっと勢いよく燃え上がる
イメージにさせたくなかったとのこと。
女性の心の中に、常に燃え続けている微かな「火」を表現したかったと、いうのが
表記として「Hee」になるのは独特でおもしろいなと思った。

Filmusic in 中川運河・夏

2015年12月23日 | 2010年代 邦
 
「Filmusic in 中川運河・夏」

2015年 日本
名古屋の中川運河を舞台にしたオムニバス映画4本。

(1)「ドラムマンz バチがもたらす予期せぬ出来事《名古屋版》」
監督・脚本・編集:田中要次
出演:ミスター小西、中村達也、スティーヴ エトウ、藤村忠寿
音楽:フラワーカンパニーズ
撮影:寺田緑郎、ウォン・オン・リン

『水曜どうでしょう』の藤村ディレクターによる「フラワーカ ンパニーズ」の
インタビューから映画がスタート。
あ、このインタビューが名古屋限定版らしい。
話題が、フラワーカンパニーズでいうところの「お母さん役」がグレートマエカワで、
ドラムのミスター小西の家族的立ち位置は「犬」だね、となったところで回想スタート。

ここのところ、ミスター小西の人生はうまく回っていない。
10年続けているアルバイト先にあっさり首を切られ、バンドの練習ではリズムに乗れきれず
ギターの竹安に飲み屋で「ヘタクソ」と怒鳴られ、同棲中の彼女と暮らすアパートに帰ると、
彼女は他の男を連れ込んでいて・・・
ミスター小西は自暴自棄になって夜中の道を走りまわる。

、、、って、なんで円頓寺を走っとんの?
うわー、ここ私の家から100mも離れてない。
ぎゃー、その角まがっちゃダメっ!!
  
はーー、毛穴がぶわっと開いた・・・!

で、辿り着いたのは中川運河の淵(んーむ、なんで彼処から彼処へいくんだ?)。
ヤケになってドラムのスティックを投げ捨てると、運河から金のスティックを
もった巨大な中村達也が出現し(こ、怖い・・・そんなにデカくなくても迫力十分なのに)、
さらに頭にスティックが刺さった巨大なスティーヴ エトウがでろりあん。いやあ、もうなんというか。

2人のドラム神はミスター小西そっちのけで揉め始め、運河の上での叩き合い対決が勃発!!!
小さな浮き舟に乗った中村達也とスティーヴ エトウがドラムをドラム缶を叩く!叩く!叩く!
これ、生で見たかったなあ~。音はスタジオで撮ったのかな。
そのまんまも聞いてみたかったけど。

こうして有無を言わせぬ神々の力に圧倒され、ミスター小西は黙って自分のスティックを拾いあげ、
「あーあ」って感じで帰っていって、続けよかーってなるのもフラカンの強さで、懲りなさで
なんか良かった。


(2)「アーリーサマー」
監督・撮影:中村祐太郎
脚本:木村暉、中村祐太郎
出演:GON、川瀬陽太、福本剛士、打越梨子
音楽:町あかり

裕介は、女性関係のトラブルから東京を追われるように出て、親戚の叔父さんがいる名古屋へと
やってきた。ガソリンスタンドを経営している叔父さんは、心ここにあらずといった様子の彼を
自分の住処に招き入れ、ガソリンスタンドでの作業を教えていく。

はじめのうちは、気力ないまま流されるままにフラフラしている裕介だったが、バイトをしている
同僚の芝居を見に行った時に、スイッチが、再び入る。

その芝居にでていた女の子に、急速に惹かれていくのだ。同じ劇団員になり、真面目に練習を重ね、
思いを寄せる彼女とも語り合う。
ストーカー気質の彼が狂おしく思いを重ねていくのが怖くもあり、切なかった。

他の短編が”中川運河”を「地元の」「みんなの」運河として描いているのに対して、本作は外からの
視線で捉えた運河の風景で、新鮮な感じがした。


(3)「せんそうはしらない」
監督・脚本:神保慶政
出演:大村明華織、クレシ明留、紀那きりこ、沼波大樹、 岩崎聡子、柏木風太朗
音楽:飯田泰幸、▲s(ピラミッドス)
撮影:仁宮裕


「お腹の(中にいる)前は、私って居なかったの?』「月はどうして光ってるの?』
好奇心いっぱいの6歳の少女には、尋ねたいことがいっぱい。

咲菜はラップに包んだご飯を持って、近くのモスクへ。
ムスリムの少年アミンと川沿いを歩く小さな旅にでる。
夏の日の太陽がさんさんと輝き、中川運河に反射する光の粒がふたりをそっと見守る。

咲菜の無邪気な質問に答えるアミンの声がとても優しくて、この映画がこのタイトルで
無ければいいのに、と思った。
ふたりがとても可愛くて、戦争とか宗教とか巻き込まないであげてほしい、と思った。
でもそれは現実的でなくて。

短いけれど、心に沁みてくる作品だった。

(4)「ケツにラジヲ」
監督・脚本・編集:山田 雅和
出演:伊藤成人、小池祥、長谷川千晶、宇佐美すみれ、山下七海、伊井遥香、岡本昌司
音楽:立仙易大
撮影:佐久間 篤司

中川運河コミュニティ FM局でリポーターを勤める銀次は、今日も町の人たちに無茶ブリ
しながら放送をすすめていた。勢いを増していく銀次の暴走ぶりに地元の商店街からは
総スカンをくらい、FM局はクレームの嵐を受けて銀次に謹慎処分を言い渡した。

FM局は新しく女子高生リポーターを迎えて放送を続けるが、その実、スポンサーが
つかず、継続が難しくなってきていた。それをしった銀次は、大好きなラジオ局を
守るため、地域の人たちに頭を下げて営業してまわることに。

そこで出てくる地元の会社の人たちは、実際の事務所だったり、勤めてる人なんだろう
なあという、紛れもない「名古屋」感。リアリティ。ところどころ棒読みというか、
演技してる風でもないし、一瞬、ドキュメンタリーだっけ、これ、という錯覚にも
陥ってしまう。こういうコミュニティFMがあって、こういう展開があっても不思議
じゃないなという、私が地元っ子だからだろうけど肌に馴染んでくる感覚があった。


この上映が終わったとたん、山田監督と主演の銀次さん役の伊藤さんがスクリーンの前に
出てきてのご挨拶があった。さらに女子高生レポーター役と魚屋のおかみさん役の女性が
観客として観にきていて、呼ばれて登壇。
監督挨拶回だと知っていたためか、旦那さんが何役で出演してた、とか、お姉さんが何役で、
とか出演者の知り合いの方々が観に来ていたみたいで、そんな会話がザワザワと。
そういう回だと全く知らず、最前ど真中で張り切ってみていたので、ドギマギしてしまった。


バケモノの子

2015年09月03日 | 2010年代 邦

バケモノの子  The Boy and The Beast

2015年 日本〈アニメーション〉
監督・脚本:細田守
製作:齋藤優一郎、伊藤卓哉、千葉淳、川村元気
声の出演:役所広司、宮崎あおい、染谷将太、広瀬すず、山路和弘、津川雅彦、リリー・フランキー、大泉洋、宮野真守、山口勝平、黒木華、大野百花
キャラクターデザイン:細田守、山下高明、伊賀大介
作画監督:山下高明、西田達三
美術監督:大森祟、高松洋平、西川洋一
編集:西山茂
音楽:高木正勝


 東京都・渋谷をさまよう身よりのない9歳の少年は、バケモノの“熊徹”の後を追って、もう一つの世界【渋天街(バケモノ界)】へと入り込む。少年は“九太”と呼ばれ、弟子をほしがっていた熊徹に武術を習い育てられることになった。

 【渋天街】は、市場が立ち並ぶ賑やかな街で、バケモノたちが所狭しと行き交いしている。まず「向こう側の世界」に広がる光景がどれだけ魅力的なものか、というのが冒険物語において重要なところだと思うのだけれども、さほど異世界感は無い。人間と同じようなものを食べて一戸建ての家に住んでいるし、バケモノたちの造形もデフォルメ感なく、獣を人化して特徴を無くしたような、いや人を少し獣っぽくしたような。。。武骨な熊徹に九太の世話ができるのかと案じて日参する多々良と百秋坊、そっと見守ってくれている長老の宗師もいて、どうも安心安全な世界に見える。

 しかもバケモノ界では、人間は心に「闇」を宿して災いを呼ぶと言われ、避けられるという設定・・・! ということは、この獣人たちには心の闇が無いのだよね? それじゃあ人間の方がよっぽどバケモノっぽいじゃないか、と思う。天井対決であるはずの熊徹と、そのライバル・猪王山の戦いより、バケモノの子たち(九太と一郎彦)の戦いの方がよっぽど壮大でデンジェラスだし。

 九太は成長とともに人間界に惹かれていき、同じ年代の女の子を気にかけたり大学受験を考えたりして、異世界で育った割には「フツ―」の男の子になっていくようにみえる。しかし彼にとっては、自由気ままなバケモノ界よりも、人間界になじんでいく方がよっぽど冒険だろう。仮想現実に身も心もどっぷり浸した若者が、進路相談を前に現実へと目を向けていくよう。今やリアルも仮想現実のひとつかも知れないけど、ただ実生活には無数のルールがあるし自分自身や他人の心の闇とも闘っていかなくてはいけない。これは、逆冒険譚なのだなと思った。

野火

2015年08月11日 | 2010年代 邦
 
野火

2014年 日本
監督・製作・脚本・撮影・編集:塚本晋也
出演:塚本晋也、リリー・フランキー、中村達也、森優作


作家・大岡昇平が自身の戦争体験を基に描いた戦争文学の代表作を映画化。塚本晋也監督が自主制作映画として製作、主人公の田村一等兵も演じる。

舞台は、太平洋戦争末期のフィリピン・レイテ島。肺病を煩う田村は部隊から追放され、野戦病院からも拒否されて、空腹に耐えながら島内を彷徨う。繰り返される敵陣からの砲撃に脅え、窮地の中で現地人を襲い、かつての同胞とも殺し合う極限状態で、狂気の中に身を投じていく。

シンプルかつ不可避な、実際に存在した地獄。かなり切り取られた戦争の一部分ではあるけれど、戦地に駆り出された一般人が見る風景はこれなんだろうか。

「肉体的な痛みを感じてもらいたい」と監督のコメントにもあるように、観客の心をえぐり取るような映像がただただ続く。そういう意味では「人肉食」は、今だからこそもっと、顔を背けたくなるほどのまがまがしさで描けるだろうと思ったけど・・・大岡昇平の覚悟を継いで、そのうえで、まんまじゃなく「更新」してほしかった。

もちろん何百万人もの兵士がいたのだから、何百万通りの傷痕がある。どれもこれもを知るのは難しいけれど、静かなラストシーンが余計に心に染みた。遠くて遠くて、近い戦争を思う。

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それにしても中村達也のダーティさがツボの人にはたまらないカッチョよさだった。ニヤニヤして場違いな声をあげないように必死で口元を抑えながら見ていた。地獄の底までついて行くぜ、と決めた2015年夏。