Kimama Cinema

観た映画の気ままな覚え書き

美しき運命の傷跡

2014年12月28日 | 2000年代 欧州
 
美しき運命の傷跡(L' Enfer Hell)
 
2005年 フランス=イタリア=ベルギー=日本
監督:ダニス・タノヴィッチ
製作:マルク・バシェ、マリオン・ヘンセル、セドミール・コラール、定井勇二、ロザンナ・セレーニ
脚本:クシシュトフ・ピエシェヴィッチ
出演::エマニュエル・ベアール、カリン・ヴィアール、マリー・ジラン、キャロル・ブーケ、ジャック・ペラン、
ジャック・ガンブラン、ジャン・ロシュフォール、ミキ・マノイロヴィッチ、ギョーム・カネ、マリアム・ダボ、ガエル・ボナ

 ポーランドの巨匠クシシュトフ・キェシロフスキ監督の遺稿を元に脚色された、ある三姉妹にまつわる地獄の物語。

 冒頭で、カッコーが他の鳥の巣に卵を産み、孵った雛が他の卵をすべて下に落としてしまうところが大写しになる。
話に聞いたことはあっても、映像として見ると思わず身を竦めてしまうようなシーンが、重々しい影を落とす。

 三姉妹の長女ソフィは夫の浮気に悩み、浮気相手を調べ上げてベットまで侵入するような執着ぶりをみせる。次女のセリーヌは、
人との距離の取り方がわからず、恋人がつくれない。また姉妹たちにも自分の居場所を教えることなく、ひとり体の不自由な母の
世話をしている。三女のアンヌは、父親の面影を追いかけてか、妻子ある大学教授との不倫に溺れている。

 彼女達は家族が崩壊した過去の悲劇に囚われて彷徨っているのだ、というのは後から明らかになってくる。ひたすらに愛を求め、
苦しむ三姉妹の表情が映しだされる。キーとなる人物であるセバスチャンは自分の罪を告白するため、セリーヌを探して近づいて
いく。セリーヌは何も知らないまま、そんな彼に惹かれていく。

 長女エマニュエル・ベアール、次女カリン・ヴィアール、三女マリー・ジランという名女優たちがそれぞれの悲劇を余す事なく
みせており、その母には圧倒的な存在感を持つキャロル・ブーケ。
 世間には「トラウマなんて無い」という説(過去に負った傷を現在の自分の言い訳にしている)もあるが、傷跡そのものより
この母がいるからこそ三姉妹は運命に囚われてしまったのだろう。

 ラストシーンで母が突き放した未来の先が気になってしかたない。

西遊記~はじまりのはじまり~

2014年12月09日 | 2010年代 中

西遊記~はじまりのはじまり~(原題:西遊 降魔篇)

2013年 中国
監督:チャウ・シンチー、デレク・クォック
製作総指揮:エレン・エリアソフ 、 ドン・ピン 、 ビル・コン
製作:チャウ・シンチー 、 アイヴィー・コン
脚本:デレク・クォック 、 チャウ・シンチー 、 ローラ・フオ 、 ワン・ユン 、 ファン・チーチャン 、
ルー・ゼンユー 、 リー・シェン・チン 、 アイヴィー・コン
出演:ウェン・ジャン、スー・チー、ホァン・ボー、ショウ・ルオ、クリッシー・チョウ、シン・ユー
リー・ションチン、チウ・チーリン


「ドラゴンボールから発想を得た」とチャウ・シンチー監督がインタビューで語れば
「銀河系最強のおもしろさ!!」と鳥山明がコピーを寄せている大公認のオマージュ。
孫悟空が満月を見上げてのドラゴンボールのアレも同構図で観れる、号泣号笑の痛快娯楽劇! 

 西遊記のはじまりの部分、のちの三蔵法師となる玄奘が若き妖怪ハンターとして奮闘し、
水の妖怪(沙悟浄)、豚の妖怪(猪八戒)、妖怪の大王(孫悟空)を従えていくまでを描く。
 女妖怪ハンター「段」役のスー・チーのコメディエンヌっぷりも見事だし、空虚王子や
足じぃ等、続々出てくるオリジナルキャラも凝ってて抜かりない。

 今回、ドラゴンボールを意識したというだけあって、日本の観客にかなり寄せて来てるなあ
という印象。チャウ・シンチーの持ち味であるお下劣ネタは封印気味で、ひたすらに小ネタを
突っ込んでくる。ダイナマイト1発ぶっこんでくるタイプではなく、あらゆる角度を狙う
ミサイルランチャー。鉄板もあり、変わり種もあり☆ 
そこまでする~?と思ったのは、孫悟空と玄奘が剥いたバナナを受け渡ししようとしてるところへ
女が登場したとたんに「あら、お邪魔だったかしら」って台詞言わせるなんて、1ミリも隙間ナシ! 
どん欲に笑いを塗り重ねていく。

 しかもチャウ・シンチーが凄いのは、中国が世界からどんな目で見られているかを全て承知した
うえでひっくるめて、茶化してしまえるところ。タブーなんて無い!と叫びながら、タブーを侵す
確信犯だと思う。








北ホテル

2014年12月07日 | 1930年代 欧州

北ホテル(原題:Hotel du Nord)

1938年 フランス
監督・脚本:マルセル・カルネ
台詞:アンリ・ジャンソン、ジャン・オーランシュ
出演:アナベラ、ジャン・ピエール・オーモン、ルイ・ジューヴェ、アルレッティ、アンドレ・ブリュノ、
フランソワ・ペリエ、ポーレット・デュボスト、ベルナール・ブリエ、ジャーヌ・マルカン、シモーヌ

パリの運河のほとりに建つ北ホテル。
その一室で、ピエールとルネは心中を図る。
が、男は彼女をピストルで撃った後で怖くなって逃げてしまった。

すぐに手当されて命をとりとめたルネは、そのまま北ホテルでメイドとして働き始め、
常連客の男たちは何かと言えば彼女に声をかけ、チャチャを入れ、放っておかなかった。

それもそのはず。ルネを演じるアナベラの常人離れした可愛さ、というか、
この頃の女優さんって・・・同じ人間とは思えない。
妖精にちがいないって惑うくらいの軽やかさでフロアをターンするのです。

ルネは、刑務所に入れられた心中の相手・ピエールに面会し、待っていることを伝えるも
返って来たのは、すげない返事。そこで、ホテル常連客のエドモンに知らない土地へいって
一緒に人生をやり直そうと駆け落ちを持ちかける。
エドモンが昔の仲間に狙われていることを知りながら。

うむむむむ、悪い男だと認識してて、選ぶなんて愚かすぎると思うけど
現代の感覚とは違うのですよね。
さらに自分を撃った男を忘れられないなんて、愚の骨頂だよ。
北ホテルで働き続けるのが良いと思うけれど、ルネの情動はそうさせてはくれません。

ホテルでは、ベッドの金網をバーナーで焼いて南京虫対策をしていたり、お湯を沸かして
大タライに入れ行水の準備をしたりと、往時のライフスタイルも垣間見ることができ、
1コマ1コマが面白い。

そして、誰もが恋に走り、恋に生き、恋のうちに死ぬ。
愚かで愛おしい、そんな時代があったのだと知る。