Kimama Cinema

観た映画の気ままな覚え書き

お早う

2014年11月22日 | 1950年代 邦

「お早う」

1959年 日本

監督:小津安二郎
製作:山内静夫
脚本:野田高梧、小津安二郎
出演:佐田啓二、久我美子、笠智衆、三宅邦子、杉村春子 、設楽幸嗣、島津雅彦、
泉京子、高橋とよ、沢村貞子、佐田啓二


戦後10年以上経って、高度経済成長期に入った日本。
電化製品が出回り始め、ご近所では誰が洗濯機を買ったかなんていう話題に夢中。
子どもたちはオナラ遊びに興じている。

父親に「子どものくせに余計なことを言うな」と怒られ
「大人だってコンチワ、オハヨウ、イイオテンキデスネ・・・余計なこと言ってるじゃないか」
と反論する実と勇の兄弟。
ここから実と勇のダンマリ作戦が決行される。
家の中だけでなく、近所でも、学校でも、口を聞かない。
ご近所の奥さん連中は、子ども達が挨拶をしなくなったのを邪推し、不穏な空気がたちこめる。

「お早う」という至極シンプルなタイトルをつけて平平凡凡たる日常を描いているようで、
いやはや、この時代の界隈の理(ことわり)を示している。
これを無言コミュニケーション社会の現代に観るのも、面白い。

なかでも飛び抜けてるのが、子役の勇ちゃんの存在感。
いつも兄の後ろを追っているようでいて、確乎たる意見を言うし、独自の「美意識」がある。
おませさんとは、この子のためにある言葉か、という表情をするかと思えば、
手のひらをお皿代わりにご飯を食べたり茶をすすったりする豪傑ぶり。
まったく目が離せない。勇ちゃんこそが、物語の駒を進めている。

それにしても、子どもは子どもの事情で動き、大人は大人の事情でしか動かないのだな、
やっぱり。

天才スピヴェット

2014年11月17日 | 2010年代 欧州

天才スピヴェット(原題:L'extravagant voyage du jeune et prodigieux T.S. Spivet)

2013年 フランス=カナダ
監督・製作総指揮:ジャン=ピエール・ジュネ
脚本:ジャン=ピエール・ジュネ、ギョーム・ローラン
出演:カイル・キャトレット、ヘレナ・ボナム・カーター、カラム・キース・レニー、ニーアム・ウィルソン、ジェイコブ・デイビーズ、
ジュディ・デイビス、ドミニク・ピノン


10歳の天才少年スピヴェットは、科学賞の受賞スピーチをするため
モンタナからワシントンD.C.を目指し、家族には黙って一人家を出る。
信号機を赤に塗りつぶして、貨物列車をとめ、無理矢理に飛び乗る無謀っぷりに
わくわくさせられっぱなしの旅。



家族から離れ、知らない世界に飛び込んだスピヴェットは、
去年亡くなった双子の弟・レントンの死をはじめて受け止めようとしていく。
天才児が独自のアイデアを駆使して大冒険のロードムービーとくれば、ほうほう大好物ダナ~と
劇場に観に行ったけど、どよーーーんと落ち込んでしまった。

あまりに、あまりに・・・
変わり者ばかりの家族の中で
無邪気な「子どもらしい、子ども」であるレントンが、とにかく可愛いから。
双子の片割れであり、誰からも愛されるべき存在だったレントン。
スピヴェットは失ったものが大き過ぎるし、背負ったものも辛過ぎる。

そうだった、ジャン=ピエール・ジュネ監督がこっそり掘ってる落とし穴は、
思っていた以上に深くて這い上がってこれない時があるのだ。
(もちろん落とし穴なんかに、はまらないで
彩り鮮やかなキュートな世界を堪能している人が大半なのは承知の助)


時間が経っていくのにまかせて、レントンの役回りをもらい受けることもできただろうに
スピヴェットは執拗に人間観察を続けるし、愛を求めている。
これからだ、彼がもっと死に向き合っていくのは、これからなんだと思う。

これは、スピヴェット少年のはじめての家出の物語。
この先、何度でも彼は嘘をつくだろう、家出をするだろう。
繰り返して繰り返して成長していくんだと思う。

キミが選んだのは、イバラの道。
がんばって大人になるんだよ。