Kimama Cinema

観た映画の気ままな覚え書き

自由を我等に

2015年07月30日 | 1930年代 欧州

自由を我等に(原題:À nous la liberté )
 
 
1931年 フランス
監督・脚本:ルネ・クレール
製作:フランク・クリフォード
出演:レイモン・コルディ、アンリ・マルシャン、ロラ・フランス、ポール・オリヴィエ
音楽:ジョルジュ・オーリック
撮影:ジョルジュ・ペリナール
編集:ルネ・ルエナッフ

 ルネ・クレール監督のトーキー3作目になる痛快コメディ。はじめのうち、ほぼセリフが無く、歌だけでミュージカル仕立てに進んでいく。フランスでは無声映画人気が根強く、すぐにはトーキーが根付かなかったらしいけど、創成期とは思えないほど音楽の使い方が見事!

ストーリーは、刑務所で同部屋のルイとエミールは脱獄を図るが看守に見つかり、ルイだけが逃げ通すことができたところから始まる。逃げている途中で自転車乗りにぶつかったルイは、その自転車を奪って走りだすと、なんとレースで優勝。
この仕掛けって今でもよくあるなあ。コメディの定石を知り尽くした流れだと思う。
そこからルイは盗んだお金を元手に、露店へのレコード売りから蓄音機の店を持ち、更には大きな工場を持つ蓄音機メーカーの社長へと、とんとん拍子に転身をとげる。

一方、出所してきたエミールはなんとなーく求職者の列に並んで工場に就職するが、そこはエミールが社長を務める会社だった。再会を喜ぶエミールに、強請られると思って札束やピストルで説得を試みるルイ。やがて誤解は解け、二人の友情が戻る。

終始とぼけた動きのエミールは「良い人」が張り付いているような表情。エミールがつかまっていたのは、何の前科だったのやら。

ルイは表情も動きも、実にコミカル。いちいち追いかけっこが挿入されてるのが、なんともくだらなくって楽しい。特に昔の刑務所仲間がルイを脅しはじめてからは、こんなドタバタする?ってくらいに、ひっくりかえしたような大騒ぎ。犯罪者に対しての倫理はてんで無視しつつ、当時の階級社会や大量生産の物質社会化を明るく軽妙にスキップ鼻歌まじりで皮肉っているのが、スカッとする後味。「自由を我らに」の歌がピリリッ効いてます!

北ホテル

2014年12月07日 | 1930年代 欧州

北ホテル(原題:Hotel du Nord)

1938年 フランス
監督・脚本:マルセル・カルネ
台詞:アンリ・ジャンソン、ジャン・オーランシュ
出演:アナベラ、ジャン・ピエール・オーモン、ルイ・ジューヴェ、アルレッティ、アンドレ・ブリュノ、
フランソワ・ペリエ、ポーレット・デュボスト、ベルナール・ブリエ、ジャーヌ・マルカン、シモーヌ

パリの運河のほとりに建つ北ホテル。
その一室で、ピエールとルネは心中を図る。
が、男は彼女をピストルで撃った後で怖くなって逃げてしまった。

すぐに手当されて命をとりとめたルネは、そのまま北ホテルでメイドとして働き始め、
常連客の男たちは何かと言えば彼女に声をかけ、チャチャを入れ、放っておかなかった。

それもそのはず。ルネを演じるアナベラの常人離れした可愛さ、というか、
この頃の女優さんって・・・同じ人間とは思えない。
妖精にちがいないって惑うくらいの軽やかさでフロアをターンするのです。

ルネは、刑務所に入れられた心中の相手・ピエールに面会し、待っていることを伝えるも
返って来たのは、すげない返事。そこで、ホテル常連客のエドモンに知らない土地へいって
一緒に人生をやり直そうと駆け落ちを持ちかける。
エドモンが昔の仲間に狙われていることを知りながら。

うむむむむ、悪い男だと認識してて、選ぶなんて愚かすぎると思うけど
現代の感覚とは違うのですよね。
さらに自分を撃った男を忘れられないなんて、愚の骨頂だよ。
北ホテルで働き続けるのが良いと思うけれど、ルネの情動はそうさせてはくれません。

ホテルでは、ベッドの金網をバーナーで焼いて南京虫対策をしていたり、お湯を沸かして
大タライに入れ行水の準備をしたりと、往時のライフスタイルも垣間見ることができ、
1コマ1コマが面白い。

そして、誰もが恋に走り、恋に生き、恋のうちに死ぬ。
愚かで愛おしい、そんな時代があったのだと知る。

にんじん

2014年07月05日 | 1930年代 欧州

にんじん (原題:POIL DE CAROTTE)

1932年 フランス
監督・脚本:ジュリアン・デュヴィヴィエ
出演:ロベール・リナン、アリ・ボール、カトリーヌ・フォントネ、コレット・セガル

ジュール・ルナールの名作小説の映画化。
「にんじん」と呼ばれる赤紙の少年フランソワは、家族の愛情を感じれずに育った。
生まれてすぐ里子に出された後、生家に戻ったものの、兄姉は彼に冷たく、母はうるさがり
父は素っ気ない。
女中のアネットだけが「にんじん」の味方をしてくれるのだが、そのために母と揉め、
余計に嫌われてしまう。

この少年役が痩せっぽっちで、そばかすだらけで、まさに「にんじん」。
クヨクヨしたり、開き直ったり、わかってるようでわかってない感じをうまく演じているけれど
本当はもっともっとハツラツとした子なんだろうなあ。

愛情表現がうまくない親達と、自分を認められず悲観主義に陥っていく子ども。
現代からすると里子に出したり戻したりなんて、ひどい話だが昔は普通のことだっただろうし、
家族に見向きもされない末っ子なんてザラにいたと考えられる。

この作品に思い入れしているデュヴィヴィエ監督は(無名時代にも同作品を製作しており、2度目の映画化)
たぶん少年期に似たような気持ちの動きがあったのではと、思わなくもない。