Kimama Cinema

観た映画の気ままな覚え書き

ハッシュパピー ~バスタブ島の少女~

2013年04月28日 | 2010年代 米

ハッシュパピー ~バスタブ島の少女~ (原題:Beasts of the Southern Wild)

2012年 アメリカ
監督:ベン・ザイトリン
製作:ダン・ジャンヴィー、ジョシュ・ペン、マイケル・ゴットワルド
脚本:ベン・ザイトリン、ルーシー・アリバー
出演:クワベンジャネ・ウォレス、ドワイト・ヘンリー


ルイジアナの湿地帯にある小さな島「バスタブ」に住む少女ハッシュパピー。
父親のウインクは男手ひとつで、娘を自然児のように自由に、タフに、育てている。
ふたりとも目が、ガラス玉みたいに澄んで美しく、野性的で強く、みとれてしまう。
この親子も含め、ほとんどのキャストがオーディションで選ばれているだけあって、
演技というよりも、もともとに彼らが持っている個性が強烈につきつけられる。


ある日、バスタブ島の学校の先生が言う。世界は変わってしまう、と。
南極の氷が溶けてきているので、世界は水に沈んでしまうのだ。
その日は思っていたよりも早くやってきてしまった。
大嵐がきて、湿地帯にあるバスタブ島は水の底に沈んでしまう。

ハッシュパピーは、父親と、父親のボートに守られ、生き延びる。
「パパのボートが無かったものたちは、みんな水の下で息をしたがってる」と
彼女は考える。ハッシュパピーの目には、水の下のバスタブ島も、氷河期に氷に
閉じ込められた獣たちも同じ事。現実と想像の世界の間を行き来する幼い少女の
視点が徹底して描かれている。
これはすべてファンタジーなのか、
バスタブ島っていう特別な場所だからこその物語なのか、
いや、わたしたちは、或る意味でだれもがバスタブ島に住んでいるんだ、と思う。
世界は変わってしまう。今にみんな、水の底だ。

父親は、重い心臓病を抱えながらも、娘に生き延びる術を教え続ける。
「むさぼれ!」それがオレたちの在り方だと。
逞しい父親に、さらにそれよりも逞しいハッシュパピー。
彼女の小さな小さな足どりに、力強さを感じ得ずにはいられなかった。

カルテット! 人生のオペラハウス

2013年04月22日 | 2010年代 欧州

カルテット!  人生のオペラハウス(原題: QUARTET)

2012年 イギリス
監督:ダスティン・ホフマン
製作:フィノラ・ドワイヤー、スチュワート・マッキノン
原作・脚本:ロナルド・ハーウッドキャスト
撮影:ジョン・デ・ボーマン
出演:マギー・スミス、トム・コートネイ、ビリー・コノリー、ポーリーン・コリンズ、マイケル・ガンボン



ダスティン・ホフマンの初監督作品!!
わたしは勝手に、ダスティン・ホフマンは、もっと早く監督をするんだと思ってました。
が、満を持して70歳での監督デビュー。インタビューを読むと、「これが撮りたいから」って感じではなく、
役がまわってきたから・・というスタンスですね。
しかし、この悲哀を含んだシニアクラスの物語の、全編に流れ続けるユーモアは、彼の持ち味ならでは!と思ってます。

年老いた音楽家たちが一線を退き、老人ホームで余生を過ごす「ビーチャム・ハウス」。
そこに、新たな仲間が入居してくることになりました。
彼女は、かつての名オペラ歌手ジーン。
一度はレジーの妻であり、シシー、ウィルフとともにカルテットを組んでいました。

このジーンと、レジーの再会が、まず見物です。
老年男女とは思えない、慌てぶり。純情ぶり・・・。恋は、いくつになっても、だよなあ。

断固拒否するジーンに、コンサートで往年の名カルテットを再び組み、一緒に唄うよう説得するシシー。
老人ホーム存続の資金集めでもある、コンサートに向けて、物語は進んでいきます。
若き日の栄光を抱き続け、あの頃のように唄えないから・・・と葛藤し続けるジーン。
円熟味を増した、名優たちの表情からは、いろんな意思が読み取れ、いちいち想像が膨らんでおもしろいです。
ホームに遊びにくる孫たちや、若い庭師たちの初々しい表情もいい。その対比に目を奪われます。

さらに、カルテットメンバー以外に脇を固める老人ホームの入居者たちは、実際に近代音楽を牽引してきた名演奏家たち。
さすが、舞台映えします!! こんな手があったのか。

ジーンが熟年の壁を乗り越えていったように、ダスティン・ホフマンも、この初監督作を受けたのは
気持ちの上で超えていったものがあったのでしょうか。深読みしすぎかもしれませんが・・・。
ぜひ次の監督作もあることを祈ります。

君と歩く世界

2013年04月07日 | 2010年代 欧州

君と歩く世界(原題:De rouille et d'os)

2012年 フランス=ベルギー
監督:ジャック・オーディアール
製作:ジャック・オーディアール、マルティーヌ・カシネッリ、パスカル・コシュトゥー
原作:クレイグ・デビッドソン
脚本:ジャック・オーディアール、トーマス・ビデガン
出演:マリオン・コティヤール、マティアス・スーナールツ、アルマン・ベルデュール、セリーヌ・サレット、コリンヌ・マシエロ



この邦題、このスチール写真、日本でのコピーは、「光射す方へ 一歩ずつ 二人で」

どうしたって、二人で歩んでいく物語だと思うじゃないですか。
ところが、ところが・・・
二人は、一緒にいても、それぞれ違う世界を生きているのです。

5歳の子どもを連れ、元格闘家だったアリは今は警備員の仕事を求め、点々としている。
シャチの調教師だったステファニーは事故で、両足を失ってしまう。
アリは、ステファニーを散歩へ連れ出し、海を見ると「泳ぎたい」と言って、急に自分一人だけで泳ぎだす。
光輝く海で泳いでいる彼を見つめていたステファニーは、そこで失っていた鋭気を取り戻し
膝下から無い足をさらけ出し、泳ぎだすのだ。
この光(影響)を受けて、変身を遂げる早さは、まさに女性ならでは。
ステファニーの強さは、凄まじかった。
彼女は両太ももに刺青を入れる。右足に右、左足に、左と。
それは義足のつける利便性のためかも知れず、損なわれた足の代わりかも知れず、
一歩一歩、右、左と前に出して歩んでいくためかも知れず。

一方、アリは、その時その時を真剣に生きている。
やりたいことをやる。自分の人生なんだから。
だから、彼には未来なんて考え方はない。
計画性のなさを指摘されても、どうもピンと来ない。大切なものを失ってしまう、その時までは。

どっちが良いなんて言えない。
男女の差は、遠いなあ・・・と思えた。

でもね、その遠さをものともせず、
ステファニーは義足で堂々と歩いていくんだよね、アリのもとに。
眩しいほどに強い女性です。

ああ、先月は「よりよき人生」でギョーム・カネに涙ぐまされたばっかりなのに
今月は奥さんのマリオン・コティヤールにやられちゃったなあ。