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2時間半の帰省帰りの道中~準備稿で読んだ寅さん映画~

今日、在来線で、名古屋から大阪まで帰った。
昔、ホームで寒い思いをして接続の電車を待って、風邪をひいて以来
新幹線で帰っていたので、ずいぶん久しぶりのこと。

帰省帰りのピークとニュースであり、
人でいっぱいの新幹線を避けたくて、
思いつきで、名古屋から米原行の快速電車に乗った。
しかし、同じようなことを考えて交通費を安くあげようとしている人はいるもので、
荷物を抱えた若者も多く、40分座れなかったので、
新幹線で立つのと同じくらいは立っていたかもしれない。

ただ、読みたい本があったので、ちょうどよかった。
「森崎東党宣言!」藤井仁子編。

年末、神戸映画資料館での映画講座の際、藤井さんが、
この本には、『男はつらいよ フーテンの寅』(シリーズ第3作)の
森崎監督らによる脚本で、没になった準備稿が掲載されていて、
今まで、映画自体が没になって、その脚本が本になることはあっても、
映画化が実現しているのに、没になった脚本が世に出ることはなかったと思う、
と言われていた。
編集者の中村大吾さんも来場されていて、
この準備稿の最後には、紅白歌合戦の場面が出てくるので、
年末に読むのに、うってつけです、と付け加えられた。
こういう宣伝文句は、心に残る。

1日に新幹線で帰省した際は、
キネ旬の読者投稿ベストテンを考えるのに必死で、時間がなく、
今回、ちょうど、在来線にぴったりじゃないかとのヤマ勘。
読み終わって、すごいマッチングしてたと実感する。

新幹線と違って、在来線には、頻繁に乗り降りする人がいる。
運動部の高校生たちが、OBらしき先輩と新年会の帰りみたいな感じで乗ってきて、
にぎやかに会話して、最後は、礼儀正しく挨拶をして別れたり、
おっちゃんたちが少し顔を赤らめ、
新年会帰りみたいな感じで4人シートで話に興じていたり、
後ろのシートからは、
バーゲンの戦利品の話に盛り上がるおばちゃんたちの声が聞こえてきたりする。

窓の外には、関ケ原近くで、雪がうっすら積もっていたり、
夕陽が斜めにさしている。
久しぶりに、ちょっと旅行気分を味わい、
やっぱり、旅に出なけりゃいけないな、なんて思った。
そこで読んでるのが、
フーテンの寅の物語って、いかにもですが、
この準備稿がすばらしかったのです!
さすがに車内で泣くわけにはいかないけれど、
目頭が熱くなったのは確か。

クライマックス、
テレビに流れる紅白歌合戦の描写と、
寅次郎が、惚れた女性とその家族のために、ひとり男を賭けた勝負に出る、
その重なり具合いが、すごい。
紅白といえば、家族で観る、あったかいもの。
そういうアナウンスが流れる中で、
寅次郎は、かなわないとわかった片恋の女性の幸せのために
何も告げずに、命を張る。
その侠気(おとこぎ)に泣ける。

しかもその姿は、高倉健のようにかっこいいものではなく、
むしろ、かっこわるいのだ。
強がってはいても、弱っちくて、ぶざまで、みじめにもみえる。
でも、だからこそ、観客(読み手)は、
寅次郎の孤独な背中に、“真の侠気”をみて、熱い涙がにじむ。

同書掲載の大澤浄さん執筆の「寅次郎の『ディグニティ』」によれば
「失意や恥辱をわが身に物理的に引き受けながらも
それを(メロドラマ的感傷やシニシズムではなく)怒りや笑いによって別次元に転化してみせる」

年末、編集者の中村さんが、紅白のことを口にした気持ちがよーくわかった。
ひとりもので家族を持たない私には、身に迫るものがあって、
もう本当にぐっと胸が熱くなった。

ま、私には、寅さんのような度胸も愛嬌もないから、
その男気に息をのんで、心に刻み込むことしかできないけれど、
こういうありようは、女のあたしでも、あこがれる。

寅さんのセリフには、
あっちこっちユーモアやらギャグがいっぱいで
思わず、お正月いっしょだった、ギャグ好きの甥っ子のことを思い出した。
寅さんのような、勢いのある、たんかをきれる男になってほしい、
今度、甥っ子の前で、この脚本を読んでみようかと思う。
教育上よろしくないかもしれませんが?

「その時から私は堅気になろうと決心したのでございます。善は急げ、フンドシは脱げと申します」

「ほうシキタリか、俺あそのシキタリつて奴もシタキリ雀も大キライでね、俺あ俺の流儀でやらして貰うぜ」

「問われて名乗る程のもんじゃねえ、名も戒名もねえ遊び人一匹、名乗つたところでご存じあるめえ、
その辺にころがつてる只の馬の骨よ、ころがりついでについ耳にした今の事情、大方は察しはついたぜ、
どうだい、この仕末(ママ)あ一つ、この俺に〆さしちやくれねえかい」

さて、大阪駅に着いてしまえば、いつもの大阪駅。
元旦の夜には、窓から眺めたら、人影も少なく
あんなに閑散としていた、イングの交差点のあたりは人でいっぱい。
現実が始まった・・という気がした。

快速電車の道中で、映画1本観た気分、
ひょっとしたら、これが心の中で観た、今年の初映画にちがいない。

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