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No696『歓待』~来訪者の登場により、きしみ始める家族の姿~

ぼーっとしていたら、
あっという間にアジアン映画祭が始まってしまった。

舞台は、東京下町の従業員1名の小さな印刷屋。
亡父が世話になった知人の息子加川がある日いきなりやってくる。
この加川の登場の仕方も、ふらっと掲示板に近づいてきて、という感じでおもしろい。
つかみどころのない、それでいて、気もきくし、話もうまく、
得体のしれないキャラで、非常にユニーク。
いつしか仕事を手伝ってもらうことになり、住み込みになり…、
主人公小林にとって、
若い妻の夏希と小さな娘エリコ、出戻りの妹清子との穏やかな生活が、
どんどんかき乱されてゆく。

エリコが前妻の娘だったり、夏希にもいろいろ事情があったりと
加川の登場により、家族の込み入った事情もしだいにわかってくる。
と同時に、加川が何を考えているのかが、わからず、
サスペンスのようで、引き込まれる。

加川たちが一家にもたらしたのは、
災いのようにみえて、実は、考え方を変えるいい機会だったのか、
いかようにも解釈できるエンディング。

とにかく、脚本が見事で、
クライマックスの大騒ぎに達した後の、方の付け方については
両論あるだろうが、
早朝、ひとりちゃぶ台につっぷした小林の長回し、
玄関に歩いてくる音、引き戸が開き…と
映画の終わり方は、余韻があって、とてもうまい。

家族という人間関係を中心に
昔ながらのつきあいが残る近所の人たち、地域全体へと視点も広げる。
地域をとりまく浮浪者、外国人に対する地元の意識も
冒頭での会話のあちこちにしのびこませておいて、
クライマックスではじける。

夏希と、義妹とはいえ年上の清子とのぎくしゃくした関係など、
人間関係のきしみを、それとなく感じさせる演出の見事さ。

青年団という平田オリザの劇団員が多数参加していることもあり
役者の演技力は抜群。

舞台となる印刷工場は、東京下町の墨田区で
輪転機の音も、映画の中で、見事に生かされる。
1階と2階という家のつくりを生かした物語の展開と演出も見事だし、
インコの使い方もうまい。

『東京人間喜劇』に比べると、
社会性を盛り込んだり、よりわかりやすく、テーマもはっきりしていて、
きっとより多くの観客に満足してもらえる作品。
(でも、監督自身の本来の趣向や好みは、『~喜劇』のような
もっとつかみにくくて、得体の知れない人間性の深い部分かもしれない)

いやはや職人肌の上手い監督さんが現れた。
3月8日火曜の午後9時から上映あるほか、
4月から東京で公開され、全国でも順次公開の予定だそうです。
乞うご期待。
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