goo

No186「るにん」奥田瑛二監督~おおさかシネマフェスティバル報告その1~

~ラスト15分の思わぬ展開、迫力に息を呑んだ 恐るべき松坂慶子の女優魂~

2月3日から5日まで、第1回おおさかシネマフェスティバルが鶴見区民センターで行われた。
最終日の5日には、
主演男優賞の藤竜也さん、新人監督賞の李闘士男さん、脚本賞の渡辺あやさんのほか、
新作「るにん」の公開間近(大阪では3月4日から)の奥田瑛二監督らが駆けつけた。

渡辺あやさんは、
「シナリオを書く時は、物語がどこかにすでにあって、探しにいく感じで書く」そうだ。
すらりとして、おとなしそうにみえるが、周りに影響されることなく、わが道をいく感じ。
もう少しお話を聞きたかった。

藤竜也さんはスーツ姿で颯爽と現われた。
本フェスティバルの前身となる「おおさか映画祭」の創始者の、
大森一樹監督と高橋聰実行委員長が、
スターを前にして、まるで一映画ファンに戻ったかのような興奮した面持ちで、
70年代の作品「野良猫ロック」の話をきいている姿が、なんだか微笑ましかった。
藤さんは、「今まで変わった役ばかりだったが、やっとまっとうな役がきた」とコメント。

奥田瑛二監督も、
たたきあげで頂点までのぼりつめた自信と貫録が、さりげなく感じられた。
大森監督とのトークでは、
「るにん」の製作費が積み重なり、ゼロ・ピクチャーズという奥田監督の会社が倒産の危機に瀕したが、
タイミングよく、文化庁の助成が出て、3作目もつくることができた、とコメント。

大森監督が、
「役者出身の監督がつくる作品には、アート系のものが多いが、
この作品は、壮大な歴史ロマンであり、大娯楽映画で、
何十本と撮っている古参の監督がつくりそうな作品だ」と驚きを表わすと、
奥田監督は、「スターにあこがれて、この業界に入り、主演までたどりついた。
監督になっても、メジャー路線を貫きたい」とコメント。
大森監督いわく、
「るにん」は、1973年のスティーヴ・マックイーン、ダスティン・ホフマン主演の
「パピヨン」(監督フランクリン・J・シャフナー)なんだそうで、
映画史を踏んでいることも、評価されていた。

奥田監督は、
「人が人をどんなふうに愛し、どうやって人を憎み、どんな生涯を送ったか、その人生と背景を描きたい。
人間に、その生き様に興味があり、人を撮っていきたい。
過去の映画作品を踏まえ、オマージュを忘れることなく」

松竹のかつての看板女優だった松坂慶子に、出演を依頼したとき、
「蒲田行進曲」「死の棘」の頃の松坂にもどってほしい、
1年かけて10キロ近く減量してもらって、撮影にのぞんでもらったそうだ。

物語は、史実をもとにした歴史ロマン。
江戸時代末期、八丈島を舞台に、
流人たちが飢餓に苦しみながらも必死に生き、“島抜け”に挑んだ姿を描く。

火付けをして流された花魁の豊菊を演じる松坂慶子の女優魂が遺憾なく発揮された。
島の男たちに体を売って生活しながらも、江戸に帰るのを強く待ち続けている。
どん底まで落ちながらも、やさしさを忘れない、妖艶な魅力。
「あたしは、こんな女を女房だって言ってくれただけで幸せ。それだけでもう十分だ」

豊菊と同じように、吉原に火付けをして流人となった若い花魁、花鳥役の新人、麻里也が、
少女のあどけなさと、女の性の妖しさをみごとに体現して、強烈な印象を残す。
島に来た時は、決して体を許さず、おとなしく見えたのが、いきなり、女へと変わっていくすごさは、撮影当時16歳とは思えない色気だ。

テーマはずばり、「愛」。
豊菊の愛の相手が、同じ流人の喜三郎。
バレエダンサーの西島千博が、映画初出演ながら、気迫のこもった演技で好演。
韓国のチョン・ウソン(「私の頭の中の消しゴム」「武士―MUSA」)を思わせる、美男子。

(以下、ねたばれぎみです)
そして、ラスト15分の展開に圧倒された。
それまでの物語の展開で、ここをもっと描きこんだらとか、ここはもっと省略できる、と思う箇所もあったが、
そんな思いを一気に消し去ってしまうほど、このラストはすごかった。
これは、伊藤大輔監督じゃないか、と思うような、大たちまわり・・。
そして、最後の松坂慶子の表情に、大女優ぶりをみた。

このラストは、「月刊シナリオ2月号」の掲載シナリオより、かなり省略されている。
奥田監督が、編集して、最初の仕上がりが3時間15分だったのを、
2時間45分、2時間37分、最後に2時間29分まで切り詰めたそうだが、
その作業の間で、
一緒に抜け舟をした娘お千代(小沢まゆ)のその後や、お千代との再会シーンを、
大胆にカットしたようだ。
この省略ゆえに、ぽんぽーんととんだ、映画のリズムが心地よい。
豊菊と喜三郎の愛が、強烈に心にやきつくラスト5分は、忘れられない。

満足度 ★★★★(星5個で満点)
コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )
« No185「天使」... No187「花つみ... »
 
コメント
 
コメントはありません。
コメントを投稿する
 
名前
タイトル
URL
コメント
コメント利用規約に同意の上コメント投稿を行ってください。

数字4桁を入力し、投稿ボタンを押してください。