goo

No490『その前夜』~切ない恋心~

1938年に、出征した中国で戦病死した山中貞雄監督の追悼映画として企画された作品。池田屋騒動を、向かいの宿屋の家族にスポットを当てて描く。脚本は鳴滝組の面々の共同執筆で梶原金八。監督は山中の愛弟子、萩原遼。

池田屋が商売繁盛しているのとは対照的に
傾きかけた宿屋・大原屋では、
山田五十鈴演じる姉娘が芸子に出ており、
兄の中村翫右衛門は、洗濯屋を営む。

山田五十鈴が、宿屋の長逗留の客の絵描きの武士に
惚れているのが切ない。
恋心は胸の内に隠して、
一人酒屋で日本酒を飲む姿の色っぽさ。
そこに、将棋友達と喧嘩別れした父親がやってきて
さしつさされつ。
酒屋の店の親父といい、なんと味のあるシーンだろう。

祇園祭の日。
普段は、五十鈴が実家に来ていると、
やたら遊びにくるなと諌める兄が
祭りだし今日はゆっくりしていけと笑顔で言う。
兄妹の愛情の深さ。

普通に、どこにでもありそうな家族の愛情を味わい深く描いていて、
なんとすばらしい追悼作品だろう。
この家族の情深いシーンを観ただけで、
新撰組の騒動のシーンは、ちょっと眠かったりしても
いい映画を観たなあと心底思える。

高峰秀子演じる妹娘も可愛らしく、
来年1月に神戸のKAVCで上映されるマキノ雅弘監督特集の1本
『阿波の踊子』で高峰秀子が同じく宿屋の娘を演じているのを
観るのが楽しみだ。
コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )
« No489『華岡青... No491山中貞雄... »
 
コメント
 
コメントはありません。
コメントを投稿する
 
名前
タイトル
URL
コメント
コメント利用規約に同意の上コメント投稿を行ってください。

数字4桁を入力し、投稿ボタンを押してください。