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No1100-2『熱波』~深い愛の余韻は美しい音楽になって鳴り続ける…~

木曜日、『熱波』を観に、再び梅田ガーデンシネマへ。(前回の感想
お盆は休んで、レイトショーでの上映再開という粋な計らいが嬉しい。

好きなのは、手紙の朗読のシーン。
アウロラは、結婚して、夫の子を宿した若い妻。
流れ者のベントゥーラとの、許されない恋路。
深い愛で結ばれてしまった二人は、離れられない。

ベントゥーラがバンドの旅行で数か月、アフリカを離れる。
永遠の愛を誓いながらも、
もう会わない方がいいと、別れを告げる手紙を書くベントゥーラ。
アウロラも、別れを受け入れる。
「永遠のさよならを 愛しいあなた」
「でも、忘れないで、
望まれるなら、いつでも、この脈打つ心臓をあなたに差し出すわ」
と締めくくられるアウロラの手紙が、すてきだ。

朗読のバックで流れる映像もすばらしい。
らせん階段、アフリカの農園で働く人たちをとらえたショット。
バンドの旅行の合間、仲間たちと、サイクリングに興じるベントゥーラの姿を
横移動で、ずっと右へ、右へと進んでいく自転車を
カメラが長回しで追いかける。
ベントゥーラが、海辺の砂浜に、帽子を顔にのせて、横たわる姿も、どこか切ない。
なぜかアフリカの人たちがのった船が水面を移動していくシーンが映り、
横移動が美しい。

魂を奪われるほどの深い恋。
距離も時間も、2人の熱い想いを冷ますことはできない。
長期旅行から戻ったベントゥーラを、アウロラは空港に迎えにいく。
プロペラ機から降り立ったベントゥーラとアウロラとが、
無言で目と目が合うシーンが、二人の真実の思いを伝える。
二人は別れられないのだ。
夜になり、山すそをゆっくりと霧が上がっていく。

二人は、再び人目を忍んでの逢瀬を続け、
結局、駆け落ちする。
でも、国境の村で、誤って、親友を殺めてしまい、
ベントゥーラは、愛する女性を救うため、
最後に残った一抹の判断力で、
村の少年に夫を呼びに行かせる。
アウロラを誘拐しと親友殺しを告白するしかないと覚悟する。

アウロラは無事出産して、女の子が生まれる。
「~アクヤ~」という陽気な民族音楽の歌が流れる中、
夫がきて、ベントゥーラを一度殴った後、
アウロラと赤ん坊を車に乗せて帰っていく。
このとき、恋する二人が、言葉を交わすことも、
目と目で思いを伝えあうこともできないまま、
別れていくのがつらい。
ベントゥーラは村にひとり取り残される。
「アクヤ~」の歌は出産の祝祭の音楽かもしれないと、ふと思った。

続いて、殺人の罪が問われずに済んだという後日談のモノローグに、
アフリカの村の人々の日常の姿が映し出される。

そのあと、「9月」とテロップが出て、
いつもの虫や蛙の鳴き声が聞こえてくる。
明るい歌の世界から、静けさへと、音が変わるのが、すごくインパクトがある。
アフリカの屋敷で、
使用人の男たちが、車を磨いたり、鳥小屋にえさをまいたり、
庭を掃き掃除している姿が映る。
この使用人の顔や姿が、すごく印象に残っている。

熱い恋の物語が終わり、
日常の平穏で静謐な世界へと戻ったからだろうか。

ベントゥーラのモノローグは続く。
アウロラから最後の手紙を受け取った後、
アフリカに別れを告げ、インドに渡る。
数十年の歳月を経て、
またポルトガルに移り、アウロラに住所を伝えたが、返事はなく、
思い続けていたが、探さなかったと語られる。
このときの、アフリカの家の室内で使用人の女性たちが
黙々と掃除をしたりする姿もいい。

最後のエンドロールのピアノは、何度聴いてもすばらしい。
罪の深さを知りながらも、永遠の愛で結ばれた二人の不思議な運命が
哀しく心に刻まれる。
その余韻は、月の光となって、いつまでも、私たちの心を照らし続ける。
あの虫の鳴き声と、あのピアノの曲とともに。
二人の恋を象徴するかのように、
悲しい短調の調べで、時に激しいリズムに転調するピアノが奏でるメロディは、
いつまでも心の中で、鳴り続けている…。

予告編の冒頭に流れてくるメロディーです。
この曲、キーボードをひっぱりだして、弾いてみようとしましたが、
難しくて、全然弾けませんでした。ぜひ弾きたい…。

前半で、年老いたアウロラが
隣人の女性に、わたしのために祈って、と口癖のように言っていた。
ベントゥーラが、アウロラにあてた手紙に
「愛が人生最大の罪になるとは思わなかった。
神ではなく、君に祈りを捧げたい」とあるせいだろうか。

後半、映像と音と音楽で綴る、愛の映像詩のような物語。
サイレント映画のように、登場人物に声がない分、
心の中で、ドラマがどこまでも深くひろがっていきます。
ラストシーンは、二人が出会うきっかけをつくった、ワニで、
どこか神秘的な映像でした。

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