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No1106『海辺の町で』~海に向かって紙飛行機を飛ばし続ける女の子~

鈴木卓爾監督の、少し力が抜けた感じの世界が好きで、
『ポッポー町の人々』も神戸映画資料館で観て、好きだった。(感想
監督のツイッターに、
「シネマ・インパクト」の上映がシネ・ヌーヴォで始まると知り、
今日(土曜)一日中、ブランチと洗濯以外は、ずっと寝倒して、
夕方まで寝ていたので、夜、頑張って、ヌーヴォまで行ってみた。
若い女性とかも数人、観に来ていて、少し華やいだ客席。
さてさて、どんな世界なのか、前情報一切なしでのぞんだ。

全体の印象を一言でいえば、相当に狂ってる作品が多い。
でも、この狂ってる度合も、作品それぞれで違うし、
どの作品にも、大きな声を出す人はいるが、狂ってない作品もある。

この狂ってる感じが、
おもしろいと受け取られるか、あまりに変で、受け入れられないかは、紙一重。
観終わって、友達と、感想を言いあうのが、楽しい観方かもしれない。
どれが好きで、どれが嫌いかは、人によって、相当、異なるかもしれない。

ちなみに、私は、今日、C、Aプロを観て、
一番好きなのは、廣木隆一監督の『海辺の町で』。
主演女優の怒った声に迫力があり、切なかったのが、深作健太監督の『胸が痛い』。
嬉しかったのは、『親密さ』の佐藤亮くんが、瀬々敬久監督の『この森を通り抜ければ』に
あの声、あの風貌そのままで一瞬登場してるのを発見したこと。
佐藤くんは、『胸が痛い』にも出ていて、これは少しイメージ違うが、
写真の時から、ひょっとしてと思ってたら、実際に画面に登場してきて、
ときめいてしまった。

観た順に少しだけコメントすると、
(ネタバレの要素ありなので、ご覧になる予定の方は後で読んでください。
知ってしまうとインパクト薄れる・・かもです)


『2.11』29分 大森立嗣監督
冒頭、排外的な感じで、排斥運動にみえた。
どんどん暴力が過剰になっていって、
もう狂ってるなあとしか、いいようがない世界。
終わり方もぶっとんでいて、インパクトは大。
でも、私には不可解なまま終わった。

『アルクニ物語』35分 山本政志監督
すごい奇抜な発想を、
徹底的に、ここまで過剰に描写できるのは、山本監督ならではと思った。
つくりものとわかっていても、ここまでされたら、
目をそむけたくなる・・。
しかし、すごい発想だなあとびっくりした。
透明のビニル傘の傘骨で武器を仕立てたり、
皆が同じ手作りの服を着た光景は、一瞬、ファッションショーのように華やいでみえたり、
レタスだらけの光景とか、
とにかく、ひとつの空間が、ここまでいろんな光景に変貌するのは、おもしろい。
ラストは、逆に、平和で平穏すぎる印象。
若者に交じっての、いまおかしんじ監督が、役者としてすごい存在感あり。もちろん相当に狂ってるけど。

しかし、この世界をどう感じるかは、紙一重。
変すぎて、受け入れられない人も多いかも。
山本監督の作品は、もう一本の『タコスな夜』方がおもしろいかもというのは、
私のだたの勝手なヤマ勘。

『海辺の町で』64分 廣木隆一監督
一番好きな作品。
廣木監督は、昔から好きで、(最近の大作は観てませんが)
今日も、これが目的。
ロングの長回しがいい。
ロングショットというのは、寄りたくても寄れない切なさ、もどかしさがある。
(実際は寄りたくなくて、あえて遠くから撮ってるのですが)
人物と、カメラを隔てる、殺風景な海辺の空き地の光景が心に痛い。
場所が福島だからよけいに。
この隔てられた距離は、
私たち観客とスクリーンの間の距離をも、感じさせた。
近寄れない、近づけない切なさ。

冒頭から、いい感じ。
地震で、すっかり流され、だだっぴろい空間になってしまった海辺。
殺伐とした空間に立つ若い青年。
小雪が舞い散る、寒い感じがいい。
カメラは、監督と同じ福島出身の鍋島淳裕。

群像劇。
施設で働いている、同じエプロンをした女の子二人のシーンが好きだ。
一人は、砂浜のテトラポットかに座って海を見ている。
彼女の姿を見つけて、
もう一人が、海の方へ、砂浜を走って行くロングショットのきれいなこと。
砂浜に足跡ができる。
隣に座って熱いお茶をさしだす。それだけでいい。
お茶のあったかさと、友達の優しさが伝わる。

紙飛行機がすてきだ。
後から駆けていったロングヘアの女の子が、紙飛行機を折って、
海から風が吹いていても、海に向かって飛ばし続ける。
それを見ながら、なぜか涙を流すショートヘアの子。
もともと、ひとりで、ずっと海をみていた彼女。
どんなつらいことがあって、どんな悲しみを抱えているのか全くわからない。
でも、友達が紙飛行機を飛ばすのを見て、微笑みながらも、
ぽろぽろ涙を流す女の子が、すごく切なくて、よかった。
海に向かって何度飛ばしても、紙飛行機は、海に向かうことなく戻ってくる。
それでも、飛ばし続ける…。
二人の姿は本当にすてきで、ぐっと心に迫ってきた。

車がエンコして、男の子が二人、車を押しながら、
おしゃべりしてる姿も、少しユーモラスでよかった。

『この森を通り抜ければ』50分 瀬々敬久監督
ちょっと私には理解を超えていた。
同じ群像劇で、どういう人かわからなくても、
それなりに、その存在感、抱えている感情が、なんとなく伝わるように思えた『海辺の町で』とは、
違って、映画自体と距離を感じてしまった。
あの少し太めの女の子は、とてもきれいでかわいかったけれど。

『海辺の町で』は、ボランティアは登場するけど、地震や放射能についてほとんど語らない。
「原発」「火力」という言葉が出てきて、やっと初めて舞台が福島とわかったぐらい。
でも、海辺の空き地の一角に花を手向ける人が、ロングで映されたり、震災の地だとわかるし、
悲しみが伝わる。
『この森~』では、放射能事故が南東北かで起きた映像がテレビで流れていて、
もっとひどい原発事故が再び起きたという設定。
あまりに具体的すぎて、逆に、伝わりそこねた気がする。

『胸が痛い』40分 深作健太監督
冒頭、スーパーの袋を下げて、疲れた様子で、
歩き方もおばさんぽく歩いてくる女と、いがぐり頭の若い男が
三叉路で会う。男はいきなり小遣いをねだったような…(記憶)。
暴力をふるう、息子ほどの年下の男に、惚れてしまった女の一途な愛。

主演女優の存在感になんともインパクトがある。
男に暴力をふるわれ、重傷を負い、
入院後、実家に戻った彼女。
子どもたちが、別れた夫を呼び、
寄りを戻さないかとの元夫の言葉に、
「もう遅いの」と叫ぶ。
惚れた男の名前を呼んで、「彼は天涯孤独なの」「彼が好きなの」と泣く女の、不条理な恋。
体当たりの彼女の演技は、とにかく迫力。
もう少しひとひねりあるといいのにと思いつつ、
実家の染物屋という設定がいい。
最後の彼女の優しい表情と、きっぷのよい言葉は後味がよかった。

以上です。
さてさて、全部で、7プログラムと盛りだくさんで
豪華な監督陣ですが、
どれを観るかは、まさに運と縁という感じがいたします。 

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