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No577『アウトレイジ』~出口のない権力闘争…裏切りとだましあいの果てに~

笑いが巻き起こるバイオレンス・エンタテインメントなんて宣伝文句を
目にしていたので、どんな作品か、少し心配だった。

でも、観てみたら、やっぱりいつもの北野武の映画だった。
ストーリー自体はわかりやすくなっているが、
どこか観客をつき放している映像。
無言で映像を差し出していく感じは変わっておらず
説明過剰でもなく、安心した。

果てしなく繰り返される裏切りは、
私には、とてもゲームとか、エンターテインメントには
みえなかった。

組の会長は、
「杯をやる」なんて買い文句でつって
配下の組長どうしを抗争させたり、
子分は、組長に気付かれぬよう、上層部とつながって、
組長亡き後の跡目を狙ったり、
愚かしいほどに、己のことしか考えていない。

北野武演じるのが、
これまた下っ端の弱小ヤクザの組長。
親分からは、いやな仕事ばかりまわされ、
嫌々ながらも、言われるままに殺しでも何でも済ませていく。
しかし、とうとう好き放題、嘘ばかり並べ立てる親分に愛想が尽き、
会長に直訴にいけば、
会長の若頭の三浦友和にはチンピラ呼ばわり。

己を貫くなんてかっこいい奴はどこにもおらず、
金や地位や名誉や権力がほしくて
その場しのぎで権力のある者とつるもうとする輩ばかり。

なかには、たけしから離れることなく、
つき従う頼もしい配下もいるけれど、あっさり殺されてゆく。
その殺され方は、結構、残酷というか、かなり冷徹。

全編一環して、情もなく、冷たい感じ。
『ソナチネ』にあったような、遊びの要素はほとんどなく
主人公もいない。ひたすら利権抗争と殺し合いが続く。

冒頭、やくざの車がずらりと並び、その前で
部下たちが、それぞれに、自分のボスが会食を終えて戻ってくるのを
手持ちぶさたに待っている姿を、
延々と横移動の長回しのカメラで追っていくショットは、
なんだかすごい気がした。
そして、ベンツが整列して走っていくのをとらえる美しさ。
タイトルの入り方も、いつもながらに印象的。

野球のシーンが少しうれしかったのと
ドーランの塗りすぎで顔が浅黒すぎる三浦友和のお芝居ぶりと
弱いはずの警察の汚職幹部の小日向文世がいきなり武を殴る早業には驚いた。

映画として、わるくはないのだけれど、
愚かで、薄気味悪い男たちの、出口のない闘いを観終わった気分。
どの輩も、結局、一つの駒でしかなく、
結局、駒を動かし、支配しているのは、得体の知れない
人間の権力欲のようなものだろうか。

石橋蓮司と国村準との兄弟分といいながらの騙し合いも
ひどいなあと思いつつ、あのサウナのシーンの強烈さ。

東映映画で、指を切ったり、血が流れるのは慣れてしまっていたせいか
ほとんど痛くも怖くもなかった。
椎名桔平は、あまり好きじゃないが
こういうあまりしゃべらず、少し凄みのあるやくざの子分にはうってつけ。
警察の前でにやにやと煙草を吸うシーンもよく似合っていた。

水曜レディス・デーに梅田ピカデリーで観たら
大きな劇場にお客さんは30人ほど。
というのも、近くにあるブルク7でほぼ同時刻で上映しているから。
なんかもったいないことです。
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