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ホドラー展~終わらないリズムの夢~

何も描かれていないように見えて、何か描かれている。
「トゥーン湖とシュトックホルン山脈」(1910年)
湖と遠くに見える山を描いた絵。
山は、曖昧とした色に染められていて、
全体に、ぼんやりとした印象。
でも、もやもやっとした中から、
何かが伝わってくるような気がして、思わず立ち尽くした。

兵庫県立美術館で開かれていた
19世紀末のスイスを代表する画家ホドラー展。

ちらしによれば、
フェルディナント・ホドラー(1853-1918)は、
「人々の身体の動きや自然のさまざまな事物が織りなす、
生きた「リズム」を描き出すことへと向か」った画家で、
展覧会は、
「リズム」の絵画を体感する場ともなる、と
書かれていた。

映画館に貼られていたポスターで思い出し、
最終日の今日、雨の中、ふらりと足を運んでみた。


「恍惚とした女」(1911年)の一部
(原画は、女性の足元と頭部まで入った
170センチ以上の大きな絵)

ちらしにもある、踊っている女性の絵は、
力づよく、今にも踊り出しそうな勢いがある。
でも、踊っている女性の絵を描いてるから
リズムというわけでもない。


「感情Ⅲ」(1905年)

4人の女がそれぞれに歩き出そうとしている絵は、
微妙にそれぞれ仕草も違い、
異なる身体の動きが、リズムを感じさせる気がした。

「ホドラーは確実に音楽家の仲間なのだ!
これほどに動きを結びつけては切り離す技術、(…)
もろもろの人間の感情を互いに響き合わせ、
こうした感情を表現するにあたり、
その編曲(オーケストレーション)に適した身振りやポーズを選ぶ技術を
身につけた者はほかにいない」
エミール・ジャック=ダルクローズ(音楽家)1928年

すごいほめ言葉。
5人の女性が髪を洗っている絵の習作をみても、
その配置、動きの違いが、
躍動感があって、テンポというか、リズムみたいなものを感じた。
リズムと感情について書かれた文章もあったが、
興味深いものの、まだまだ難しい世界。

ただ、今回私がとりわけ魅かれたのは、風景画。

冒頭に紹介したトゥーン湖とシュトックホルン山脈」の絵は、
ホドラーがもっとも繰り返し描いた対象で、
10年弱の間に33点も描いたそうだ。



冬の雪が積もっている山もあれば、
雲がかかっている山の絵もある。
夕暮れの絵は、山肌がもっとくっきりと彩られ、
湖の水面には、山の姿がくっきりと映っている。

それぞれ異なった絵が5枚、角をはさんで、
並べて、展示されていて、おもしろかった。
私が魅かれたのは、一番、ぼんやりした絵。

晩年、外に出られなくなってからも、
室内の窓越しかで
レマン湖とモンブランの山の絵を何枚も描いている。



「白鳥のいるレマン湖とモンブラン」(1918年)では、
手前に何羽も白鳥がいて、
なんかリズムになっている。
白鳥を6羽、ほぼ等間隔で、肢体を微妙に変えて
描いているところが、なんかいいなあと思う。

自然の風景で、
水面に映った映像が好きで、
山が湖に映っているのも、何枚も描いている。


これは、雲が映った絵で、「シェーブルから見たレマン湖」(1905年頃)
なんかユーモアがあって、いい。

テーマは、終生変わらない。
映っている世界は、彼岸のように思えたり、
陰と陽であったり、
パラレルな世界。

私は、この人の描く空や湖の
ぼんやりと青い感じ、もやもやっと青い感じが好きで、
緑にしても、青々とした緑というより、
少しくすんだ色合いに魅かれた。

「鼓動を打つように、描いた。」というのは、
今回の展覧会の惹句らしいですが、いい言葉です。 

そうそう、もう一枚、とても印象に残った絵は、
初期の「ベルン州での祈り」
2メートル×3メートル弱くらいの大きな絵。
何人もの人たちが祈っている中、
まん中に、祈っている少女の姿が、横から描かれている。
手をあわせ、ほんの少しだけ身体を前に傾け、瞳を閉じた横顔が美しく、
一心に祈る感じが、とても心に残った。

絵は、すぐ忘れてしまうほうですが、
たまには美術展も、心の栄養になっていいです。

最終日とあって、さすがに混んでいましたが、
苦になるほどではなく、夕方にはすいてきました。
小学生くらいの子どもを連れた女性も数人見かけました。

私も、中学2年になる甥っ子が美術部で風景画を描いてるそうなので、
プレゼントしようと、高価な分厚いカタログを買ってしまいました。
随分前に買ったコロー展のカタログといっしょに送ろうと
早速、弟にメールしたつもりが、
コローがミレーになっていたという、
美術音痴の自分を自覚したしだいです。

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