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No792『人斬り』~ぎらぎら光る勝新の目~

土佐の剣士、岡田以蔵(人斬り以蔵)を勝新太郎が演じる。
武市瑞山(半平太)に仲代達矢。
勝が演じることで、腕っ節はあるけど、賢く立ち回れず、仲代を師と慕い、
知恵者の仲代には、いいように使われ、やがて捨てられる
組織の末端の武士の悲運が、鮮烈なイメージを残す。
ラストは、磔でも、
これでやっと人間に戻れるという笑みが勝の顔に浮かぶ。
なんとも壮絶なドラマ。

以蔵は、武市の門下に入り、
「お前の剣は邪険だから」と、
まずは、仲間による暗殺現場を見るように言われる。
夜、怒涛のような雨の中で、
陰に隠れた勝の目がぎらぎらと光る。

武市率いる土佐勤皇党の躍進のため、
密名にしたがい、人斬りを続ける以蔵。
「天誅」と唱えながら人を斬るのだ、と仲間に話し、
少し人間くさいところがいい。
でも、いくらがんばっても、認められず、便利な「犬」扱い。

浪人として捕えられて、牢に入れられ
以蔵と名乗ったものの、
武市らは「これは偽の以蔵だ」と言って
他人のふりをされてしまう。
拷問と、数か月の牢生活の後、
無宿者として、放免。
しかし、戻った土佐でも、
武市から差し入れられた酒には
毒が入っており…と、
なんともえげつない世界。

仲間だった石原裕次郎演じる坂本竜馬だけが
一緒に九州へ渡ろうと誘いにくるが、
勤皇党の、武市の犬としてではなく、
人間として生きたいと願った以蔵は、
毒入りの酒で仲間を亡くし、怒り心頭に発し、
お上を訪ね、
今までの、密名による天誅(暗殺)の罪を自白し、
磔になる。
このとき、武市はどうなるのかと尋ねるところが、朴訥でいい。
「政治犯だから、切腹だ」との答えに、
彼が何を思ったか。
季節は春で、春祭りの囃しが聞こえるというのが
映画的だ。

思い切り血しぶきがあがる殺陣の連続で
迫力満点。
勝新太郎の気合いのこもった演技で
以蔵の人生が、悲劇として、
でも、最期は、自ら罪を吐露することで
自由を獲得した、反抗する人間として、描かれる。

以蔵のエピソードで印象的だったのが、
武市と離反し、
他の藩に雇ってもらうよう、あちこち懇願して
駆けずり回るが、どこも受け入れてはくれない。
酒屋であびるほど酒を飲めば、
賀原夏子演じる、店の女主から、
お前の飲み代は、土佐藩ではもう負担しないと聞いてるから
自腹で飲むよう言われて、ますます荒れる。
薩摩藩士の友達、田中新兵衛が、
「武市も薄情なことをする、俺がおごってやるから飲め」と
安心させ、以蔵は涙。
男の友情にほんわかさせられる。
この役を三島由紀夫が演じていて、
三島と勝新太郎の組み合わせの妙に酔った。

ところが、武市は、
観念して配下に戻ったばかりの以蔵に
密かに手に入れた新兵衛の刀を使って、
朝廷側の姉小路公知を討ち、
現場に刀を残せと、命じる。

罪をなすりつけられた田中新兵衛は、
犯人として捕えられ、
いきなり、取調べ中に、自刃。
思わず三島の鍛えられた腕、肩に見入ってしまった。

梅田ガーデンシネマでの「三島由紀夫を【観る】』特集で
唯一観れた1本。
上映ぎりぎり、というか、本編始まり1,2分遅れで(顰蹙者ですみません)
汗だくで駆けつけると、スタッフの方が
「人斬りですね、少し始まってますけど」と言って
劇場の入口のカーテンを開けて、静かに入れてくれた。

こっそり後ろの端の席に滑り込み、勝の渾身の演技に見入った。
こういうとき、スタッフの方の優しい笑顔は、
映画と同じくらいに、心にしみると感じた1本でした。

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