大阪九条のシネ・ヌーヴォで始まった「浪花の映画大特集」の1本。
谷崎潤一郎の原作「春琴抄」を
伊藤大輔監督、京マチ子が盲目の娘お琴を演じた(1954年)。
35年の「春琴抄 お琴と佐助」(島津保次郎監督 田中絹代)に続く
2度目の映画化。
山口百恵、三浦友和の76年の『春琴抄』(西河克己監督)が
記憶に新しいが、どちらも未見で、比較ができないのが残念。
上映は16ミリで、少しザーというフィルムの走行音が入るが、
白黒の世界の中の、京マチ子の美しさは格別。
画面は全体に少し暗め。
冒頭、商家の娘で、全盲のお琴と、
丁稚に入るため父に連れられてきた少年の丁稚とが出会う。
このときから、佐助の運命が決まったともいえる導入場面の美しさ。
お琴が手を差し出せば、すぐ佐助がその手をとる。
いつも何かと甲斐甲斐しく、お琴の身の回りの世話をする佐助。
ところが、佐助が目を針で突いて、自ら失明してしまうと
お琴の伸ばした手は、佐助の手と触れ合うことなく、
二人の体がすれ違ってしまう悲劇。
でも、歳月が、二人を救う。
暗闇の世界に慣れた佐助とお琴は、
二人一緒に馬車に乗って、佐助の生家を訪ねる。
このとき、馬車の中でしっかり握り合う二人の手を
カメラはとらえる。
手を振って迎える佐助の両親。(私の好きな浦辺粂子!)
馬車からみえるのは、
山々の向こうに広がる、光あふれる入り江の景色を映して「完」。
二人は、同じ盲目の世界に入ったとはいえ、
琴と三味線という芸の道を追求する同志として
追いかけ、追いかけられる者として、
幸せに生きたと思われるラストに
やっぱり伊藤大輔監督の美学を感じた。
お琴と佐助が、合奏で琴をひくシーンがあり
とてもすばらしい演奏で、
二人の芸の世界の深みも感じた。
さすが、宮城道雄が作曲・演奏・指揮を担当しただけあると思う。
琴を習っている方は、ぜひ観てほしい。
針をつくシーンでは、暗闇の中、針だけがきらりと光る照明のうまさ。
突く行為の怖さでなく、尖った針の怖さを描く。
「映像読本伊藤大輔」(佐伯知紀編)では、
取扱いも小さく、あまり期待していなかったけれど
監督のこだわりを見つけることができて、よかった。
実は、日曜の晩は、
この作品の前に上映された溝口健二監督の『浪華悲歌』がメインで
張り切って出かけたものの、
中盤、疲れで沈没してしまい、がっくり反省。
ラスト、橋の欄干にたたずむ山田五十鈴さんの姿は見届けたものの
再見の機会を楽しみに待ちたい。