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No234「切腹」~孤高の武士の最期の気迫~

うちのめされた。
侍の美学たる武士道、武家社会を、これほど痛烈に批判した作品があったとは。
時代劇ベスト20には確実に入るだろう傑作。

浪人、津雲半四郎を演じる仲代達也の気迫のこもった演技が凄い。
井伊家に一人乗り込み、何十人もの家来を前に、
「待たれぃ」と片手をあげて、相手の動きを制する堂堂たる声。
落ち着き払った佇まい、腹のすわった声、威圧する威厳・・・。
当時、30歳という若さで、これほどの悲哀、覚悟を感じさせるとは。

井伊家の家老、斎藤勘解由を演じる三國連太郎も、負けてはいない。
津雲の魂胆がみえてくるにしたがい、予想外の結果に内心、うろたえながらも、
決して表には出さず、最後まで、「武士の体面」「家の名」を保とうとする。
映画の最後で、斉藤が下した命令の愚かさは、斎藤の強気な表情ゆえに
より痛烈に感じられる。

天下泰平の時世、武家屋敷を訪ねて、仕官の口もなく、明日への希望もない今、
切腹のために庭を拝借させてほしい、と頼む浪人が後を絶たない。
困った武家は、やむなく、少々の小銭を与えて、浪人を帰すらしい。

井伊家の門前にも、ぼろを着た若い浪人が現われ、案内をこう。
井伊家の面々は、本気で切腹をする準備を進める。
若侍は、思惑がはずれ、顔色を変え、一両日待ってほしい、と懇願するものの、
切腹したいと申したは貴殿、今更、何を血迷ったか、と相手にされない。

しかし、仲代は言う。「よくぞ、血迷うた」
暖かみのない武家社会で、侍のメンツをたてることよりも、
恥も掻き捨てて家族のことを思ってくれた若侍の心情をほめるシーンは
なんだか痛々しい。

家老たちに、ねちねちといじめられる若侍の最期について、
井伊家の侍の誰も、彼の気持ちを察してやれなかった。

ファーストショット。立派な甲冑がでかでかと屋敷内に飾ってある。
いかめしく見えても、冑身の中はからっぽ。
武家社会の象徴。見栄と外面ばかりを気にして、
なんと非人間的で、お粗末な中身なんだろう。
気づけば、私の目も節穴になっているのかもしれない。
誰かの必死な声も聞こえなくなり、鈍感になっているかもしれない。

緊張感あふれるサスペンスのつくりで、、息の詰まるような展開。
決して明るい映画ではない。むしろ陰陰滅滅たる気分になる。
しかし、こんなに力強く、骨太に、腹の底から訴える力のある作品をつくりあげた
小林正樹監督らに心から敬意を捧げたい。
名代の、死を覚悟した鬼気迫る表情、ギョロリとした目は
しばらく忘れられそうもない。。

満足度★★★★(星5個で満点)
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