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No1165『ダラス・バイヤーズ・クラブ』~闘い抜いた男の“顔”の映画~

エイズで余命30日と宣告されたロン・ウッドルーフの実話の映画化。
死と向き合い、見事に生き切った男の顔に圧倒された。

ロデオとヤクと女が大好きなテキサス・ボーイ。
言葉も汚く、乱暴で、わがままで、
はじめは、全然好きになれなかったが、
映画が進むにつれ、どんどん引き込まれ、
目が離せなくなった。

「ゲイでもないのに、エイズになるはずがない」「誤診だ」と
はじめは医者にくってかかったロンも、
自らの体調の悪化に、真実を受け入れざるをえなくなる。

病院の処方する薬が、毒性の強いものと知り、
メキシコから
未承認の毒性の低い治療薬を密輸し、
患者たちに提供する会員制のクラブをつくる。

アメリカの製薬会社、国当局は、
既存の承認された薬の既得権益を守るべく、
ロンのクラブをつぶしにかかる。
病気で衰弱しつつある身体で、
政府をも相手に孤軍奮闘するロン。

映画の中で、ロンが鏡をのぞきこむシーンが何度か映る。
どんどんやせていく。
でも、悲壮感はない。闘志がみなぎっているようにも見える。
鏡の中の無表情な顔は、孤独で、
その胸中はうかがいしれない。

ロンを演じたマシュー・マコノヒーの21キロの減量が話題となったが、
ただ減量したから、すごいというのではない。
マコノヒーの顔が、そのまま、死を目前にした男の、
すさまじさ、懸命さ、怒り、迷い、悲しさ、さびしさとが入り混じった、
優しさをもたたえた顔になっていくからだ。

印象的なシーンがある。
女医のイブと二人、
レストランで食事をする場面。
二人は恋人でもないし、
イブは、たまたま最初に病名を宣告した医師の一人にすぎない。
無茶ばかりしているロンの病状を、
ひそかに心配するイブ。
でも、そんなイブから、
ロンは処方箋をこっそり拝借して、密輸に使ったり、微妙な関係。

でも、ロンの生き方が、いつしかイブの考えを変え、
製薬会社と結託して、毒性の強い薬が病人に与える害を知りつつ、
処方し続ける病院のあり方に
イブも、医者として、疑問を抱くようになる。

そんなイブを、ロンが食事に招待する。
ワインを飲みながら、
ロンが、イブに、どうして医者になったのか尋ね、
イブも、ロンに、どうして電気技師になったのかと尋ねる。
二人がそれぞれ、親が同じ仕事をしていた、といいながらも、
とても楽しそうに、仕事について語る。

いっしょに食事できたことを楽しみ、
優しくハグしていいかとロンが尋ねるのは、このシーンだったろうか。
ロンは、イブには、病気のことが怖い、死ぬのは怖いと
本当の気持ちを打ち明ける。
二人の友情、ありようが、とてもすてきだ。

国当局相手の裁判に負け、棄却の判決を受けて、
ロンが、すっかり意気消沈して事務所に帰ってくる。
ドアを開けると、あたたかい拍手が彼を迎える。
驚くロンを、
イブや、クラブの仲間の患者たちが、大勢、笑顔で迎える。
よく闘ったと、ロンを称える皆の気持ちが伝わる。
ロンの、さらにやせこけた頬、極限にちかいほどにやせた姿が
なんとも痛々しいだけに、
拍手が心にしみる、いいシーンだ。

そうして、ラストは、冒頭と同じ角度から写したショット。
ロデオの競技場の、暴れ牛に挑戦する者が控える柵の中。
柵の合間越しに見た、競技場でロデオをするロンの姿が、
ストップモーションになって、映画は終わる。
このラストの絶妙さ。
ロデオは、暴れ牛に何秒乗り続けられるか、死をも覚悟しての賭け事。

ロンは宣告から7年生きたという…。

一人の男の、国や大企業相手に闘った、
ある意味、むちゃくちゃな、
成功するかどうか、賭け事に近い、
でも、死を目前にしつつ、誠実に、真剣に、
闘い続けた男の生きざまを力強く、大胆に描ききった。

ロンが、聖人君子でもなく、
金儲けのために、クラブを運営していたというところがいい。
結果的に、それが、多くの患者を救い、アメリカの国の医療施策を変えたのだ。

大阪では、上映終了も迫り
日曜の午後、やっと観ることができた。
エンディングロールが流れた時、
なんと客席で、一人だけ、拍手をしている人がいた。
やはり、すごい映画なのだと、あらためて実感。

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