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No137「はたらく一家」成瀬巳喜男監督1939年(成瀬特集その5)

~貧乏の話~
映画評論家の蓮實重彦氏が、少年たちがでんぐり返りをするという、なんでもない場面に目頭が熱くなったと、話された。
一体どんなシーンなのだろう、興味深々で映画館に駆けつけた。

1939年(昭和14年)の作品。
成瀬監督は、「たいへん気持ちよく撮れた、好きな作品です。僕の一番よくわかっている貧乏の話ですからね」と回想している。
印刷工の父、内職に励む母、7人の子供に祖父母と、一家11人が小さな長屋で暮らす。
3人の息子は、小学校を出てすぐ工場へ働きにでている。

朝ご飯をちゃぶ台で、交替で食べていくファーストシーンから、一家の生活ぶりがよく伝わる。
3人の息子が皆、母親が「ご飯をよそおうか」と言うのを断って、自分で山盛り入れていくのが、息子と母の距離を感じさせてうまい。
(きっと母によそってもらうと少ないのだろう)

今の工場の勤めでは、結婚してもろくに家族も養えないと考えた長男が、学校に行って技術屋になりたい、と頼み込む。
自分の将来に焦りながらも、家を出た後、家族がちゃんとやっていけるのか、気になり、親孝行について真剣に悩む姿がいじらしい。

父親はといえば、
長男の気持ちはよくわかる、しかし、一人許せば、次男も三男も家を出て行ってしまうだろうし、そうなったら一家はお終い。
息子の真剣な願いを、無碍にいかんとも言えず、父は父で、悩める日々。

母の方は、苦しい生活に息子の小遣いまで借りっぱなしと、もちろん息子の考えには猛反対。
兄を心配そうに見守る次男、三男。
小僧に行くより学校に行って勉強したいと願う四男。

大人は子どもの様子を気にし、子どもは大人の顔色をうかがう。どっちも真剣。
家族の心理描写がとても上手く、情に富んでいて、ほろりとさせられる。

冒頭でご紹介したシーンは、ラスト。
夜、部屋の真ん中に座布団を置いて、
3人の息子たちが、順番に、次々とでんぐりがえりをするシーンを、成瀬監督は、窓越しにとらえる。
貧しい中でも、けなげに、優しい心を失わず、前を向いて生きていこうとする元気が、でんぐり返りの“動き”から伝わり、見事。
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