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「火花」~芸の道において、愚かなほどに真摯で、憎めない、その人への思いを綴る~

久しぶりに小説を読んだ。
「火花」。
著者の又吉直樹さんが、芸人で、
芥川賞をとって話題になっており、
雑誌「文芸春秋」にも掲載されているというので、
買ってみた。

2、3回に分けて、あっという間に読んだ。
今日も、お風呂で読み始めて、
途中でやめるつもりが、止まらなくなり、
夜更かししてしまった。

漫才の芸人の世界を描く。
破滅型だけど、ストイックで、
純粋で古風な芸人の先輩、神谷にあこがれる主人公の徳永。
ある意味、神谷は、
徳永の心の中の、もう一人の自分であるような気がした。
自分がありたい自分。

芸人として、どう芸を究めるのか、
自分だけの芸とは、何か。
世間とどう関わるのか。
自分の中の芸の基準をどこに置くのか。
徳永は、神谷の姿をとおして、
自分の進むべき道を見つけようとする。

徳永は、神谷を慕いながらも、
どこか冷静に観察し、分析もしていて、
自分のありようを模索する。

その距離感が絶妙で、
徳永の神谷さんへの率直な思いが伝わり、
二人の関係がとてもいい。

芸を究めるということは、平凡な生活を捨てることでもある。

ふと、藤本義一さんの書かれた小説で、
映画化された『鬼の詩』という映画を思い出した。
明治末期の上方落語家・桂馬喬の芸に対する執念を描く。
芸を突き詰めるということは、ここまでいくのかと、
圧倒されたのを覚えている。

神谷もまた己の芸を究めようとしているが、
孤高というよりは、
むしろ、極端で、危なっかしく、愚直ともいえる。

そういう神谷を、徳永は、突き放すこともなく、慕い、
いつからか、後輩として支えもする。

神谷と徳永のありようをとおして、
読み手は、人間が愛すべき存在であることを諭される。

最後の花火のシーンは、
生きていることそのものを肯定する思いにあふれていて、
心に残る。

「神谷さんの頭上には泰然と三日月がある。
その美しさは平凡な奇跡だ。
ただ神谷さんはここにいる。存在している。
心臓は動いていて、呼吸をしていて、ここにいる。
神谷さんはやかましいほどに全身全霊で生きている。
生きている限り、バッドエンドはない。
僕達はまだ途中だ。これから続きをやるのだ」

その人がそこにいて、息をしていて、それだけでいいと思える。
こんなふうに、人は人に出会い、影響を受け、
時に傷だらけになっても、後悔はなく、
その人を追いかけながらも、
懸命に自分の道を生きている…。

花火、温泉、徳永の漫才の舞台と、
いろんな光景がリアルによみがえる。

書き手自身が、漫才という芸の世界を究めようとした人で、
話に説得力があり、
一気に小説の世界に引き込む力があり、読みごたえありました。

追記
初稿において、愚かにも「火花」という本のタイトルを間違えて、
「花火」と書いてしまい、大変失礼しました。

「火花」というタイトルが示すとおり、
この物語は、
徳永と神谷とがぶつかりあう時の「火花」、
それぞれが、漫才という芸の道を突き進む上で、
世間やら、自分自身やら、あちこちとぶつかる時の「火花」の記録でもあり、
なんとも、ぴったりの題名でした。

本当のタイトルを知って、なるほどと思いつつも、
思い込みの怖さと、
自分の愚かさに、ただもう反省です。。。

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コメント
 
 
 
芸人の裏話 (iina)
2015-08-24 09:20:48
iinaは文藝春秋で芥川賞受賞作を読むタイプです。最近はご無沙汰でしたから、ひさしぶりに買いました。

「火花」は、芸人の裏話ですね。
問題を起こす先輩タイプは、いるものです。本心か芸のこやしで演じているのか、わからぬ者もいますネ。師匠宅でウンチ
してしこたま叱られたと方言するのは、果たしてどちらでしょうネ?
川柳川柳がその本人ですが、熱烈なファンも多く笑わせます。川柳が出た寄席に、後で出演した師匠が楽屋で何ごとか
あったらしく、枕で川柳のことを狂ってると怒ってました。 問題児といっても84才ですが、日頃から問題行動を起こす
芸人のようです。
http://eplus.jp/sys/T1U14P002155985P0050001

さて、又吉直樹さんは、次は何を題材に選ぶのでしょうね。

 
 
 
Re:芸人の裏話 (paraparaeiga)
2015-08-31 16:29:18
iinaさまへ
コメントありがとうございます。
遅くなってすみません。川柳川柳さん、面白そうです。関西に来られることがあれば行ってみたいです。破天荒という感じでしょうか?
こういう変わった人ほど描写は難しいのでしょうか。
「火花」の次の題材をどの世界に置くか、確かにとても興味深いです。
 
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