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No1164『家族の灯り』~待ちつづける顔~

レオノール・シルヴェイラがひたすら美しい。
失踪した夫を待ちながら、義理の両親とともに暮らす。
ほとんどしゃべらない。
けれど、その心境が、無言の表情から、たたずまいから伝わる。

冒頭、海岸の船をバックにたたずむ青年の姿が
波の音とともに、絵のように美しく映された後、
街のシーンに移ると、
部屋の窓から、石畳の路を見つめている
シルヴェイラ演じるソフィアの後姿。
路のガス灯に火が入れられてゆく。

ソフィアが、おもむろに、外に出て、
同じ窓を、今度は、外から部屋の中を眺める。
義母が奥から出てきて、目が合い、ソフィアが微笑む。
この不思議な行為が、なんともよくわからないけれど、心に残った。

ソフィアはじめ、クラウディア・カルディナーレ演じる義母と
マイケル・ロンズデール演じる義父ジェボは
息子ジョアンの帰りを待っている。

嘆くばかりの義母を優しくなだめる、
ジェボとソフィアの知性と寛容さが際立つ。

ジョアンはふいに帰ってくるが、
自分のことは棚に上げて、両親をなじったり、
親不孝者を絵にしたようなありさま。

挙句の果てに、夜中、
ジェボが仕事で預かっている大金を奪って、逃げていく。
ソフィアが追いかけて、路にとびだしていくが、
やがて、一人、肩を落として帰ってくる。

このとき、彼女が、マリア像を見上げた時の
なんとも美しい表情が、忘れられない。

義父のジェボの体をいたわり、
雨で濡れて帰ってこれば、心底心配する。

ジェボが食卓で仕事をしている隣に座っている時の、
幸せそうで、落ち着いた表情。
時に手と手を重ねたり、静かなる絆を感じる。
ソフィアは、ジェボのそばにいたら、幸せなのかなと思うほどに
食卓に腰を掛けて話したり、
そのたたずまいから、目が離せなかった。

紅茶の注ぎ方も、なんとなく、ジェボのカップに注ぐ時が
一番丁寧だったような気がするのは、先入観のせいか。

彼女にとって、それだけ、失踪した夫をじっと待つ辛抱の時間を、
ともにするジェボの存在、ジェボとの心の絆が大きかったということ。

街灯の灯り、部屋のランプの灯りが、こんなにきれいな映画はない。
それだけに、ラスト、乱暴に入ってきた者たちとともに
窓からさしこむ朝日がなんともまぶしくて、痛々しかった。

実を言うと、この土曜はリベンジで、2回め。
1回めは、疲れていて、前半ほとんど寝てしまい、
件のジョアンが逃げていくシーンだけが、くっきりと脳裏にやきついた。

顔の映画。
人物が、皆、正面を向いて、会話することが多く、
どうしても少し眠くなってしまった。
その中で、ソフィアが、どこにいて
ジェボをどんなふうに見守っているのかと思って見ると、
結構、ほんわか心あたたまりながら、観れた。

おまけ

『ある過去の行方』というイラン映画の予告編が上映され、
字幕に「手続き」とあったのを見て、
思わず「手続」と修正したくなった。
ああ、重度の職業病。
自分ながら、思わず苦笑いしてしまった。

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