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No1393『第九交響楽』~音楽好きな男たちのシークエンスが妙味~

大晦日。派手なパーティ騒ぎから始まり、
一転、雪の公園で、酔っ払いが、ベンチでじっと動かない男に話しかける。
男は動かず、自殺していた。

冒頭と同じダンス音楽が流れ、街で騒ぎに浮かれる人々。
アパートの一室にいた男の妻ハンナのもとに、
夫が自殺したと警察が告げにくる。
ハンナは、公金を流用した夫とともに、ドイツからアメリカに亡命してきた身。
絶望して病床の身になり、食べ物も受け付けない。

医者が、ハンナを診た後、
隣人らしい歌手の男と、部屋でラジオを聴く。
流れてくるのは、遥かドイツ、ベルリンでの演奏会でのベートーヴェンの第9交響曲。
医者はスコアまで持っていて、画面に、その譜面が大きく映し出される。
映画は、丁寧に第9の演奏風景も描きとる。

隣室から流れてくる音楽を聴いて、死を思っていたハンナの瞳がキラキラ輝いてくる。
医者は、ハンナが寝ている部屋にラジオを持っていって、一緒に聴き、
ハンナに生きる希望がわいてくる。

このシークエンス、音楽好きの医者と歌手の男のやりとりが楽しそうで、とてもいい。

ハンナには赤ん坊のピーターがいたが、足手まといになるため、
亡命前に、ドイツで、里子に出した。
しかし、ピーターは里親とうまくいかず、施設に入れられる。

施設の博士も音楽好きで、フルートを弾いていると、
先述の演奏会で第九の指揮をした男がやってきて、
部屋にそっと入って、チェンバロ?かで、伴奏し始めて、
博士が気が付き、合奏になる。

こういう音楽を愛する男たちのシークエンスにあたたかみがあり、
心がくつろぐ。

指揮者は妻シャルロッテとうまくいっておらず、子どもでもいたらと、
ピーターを引き取ることになる。

一方、アメリカで、病から立ち直ったハンナは、
ピーターを我が腕に抱きたいと決意し、故国ドイツへ戻る。

ここまでの展開を、ドイツとアメリカ、
海の波の映像をはさんで、交互に描くのが、テンポよく進む。
音楽の使い方もおもしろい。

ハンナはピーターの居場所をつきとめ、
博士に頼み込んで、母であることを隠して、
指揮者の家の住み込みの乳母として雇ってもらう。

ピーターは母であるとは知らず、ハンナになつく。

可愛そうなのは、指揮者の妻のシャルロッテ。
ピーターはなつかないし、
恋仲にあった占星術師のいけすかない男と別れようとするが、
手切れ金を要求されたり、だらだらと関係が続いてしまう。

若くて美人のハンナは、指揮者とも音楽の好みが合い、仲がよい。
シャルロッテは、年も重ね、夫と音楽の好みも合わず、
それでもなんとか上手くやっていきたいと必死になるほどに
空回りで分が悪い。

シャルロッテの苦悩を、アップでとらえるカメラ。
手鏡で自分の顔を見て、年をとったとつぶやくシーンは、
ピーターが、指揮者とハンナに見せる人形劇の白雪姫で、
継母が鏡に問いかけるシーンと重なる。

ハンナが観に行ったオペラの劇中に、劇薬をたらして殺すシーンがあり、
それが、現実と重なっていく。
このあたりの映画らしい語り口も上手くて、見入ってしまう。

後半、サスペンスとなり、法廷シーンまで出てきて、意外な展開。
最後は、音楽の演奏会で終わる。クラシック好きの人は、特にお薦め。

監督は、ダグラス・サーク。1936年の作品。
リュミエールのビデオ鑑賞。

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