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No369「ホウ・シャオシェンのレッド・バルーン」~映画の世界に心地よく酔う快感~

この夏リバイバルで公開された1956年フランス映画の『赤い風船』と
そのアルベール・ラモリス監督に捧げられた本作。
台湾のホウ・シャオシェン監督が
フランスのオルセー美術館のプロジェクトに招へいされて制作。

ラモリス監督作品では、
少年と赤い風船は、いつも一緒で、
その友情の美しさに泣けた。

本作にも赤い風船が登場。
しかし、駅で見つけた少年が呼びかけても
降りてこようとせず、
空高くから、少年を見守っているばかり。
少年も、最後にもう一度、風船を見つけるまでは、
風船の存在に気づかない。

風船のありようは違っても、
風船の“心”、風船が少年を思う心は、
ラモリス監督作品も、本作も同じ。
そこに、
「オマージュとして捧げる」という
ホウ・シャオシェン監督の心意気が感じられ、
さすがだと思う。

特に何かが起きるわけでもなく、
少年とその母スザンヌの
淡々とした日常のある断片を切り取っただけ。
仕事のプレッシャーや、友人とのトラブルで
苛立ちが頂点に達しそうなスザンヌが
「大人って複雑なの」と少年を抱きしめる。
ほのかな変化のきざしも感じられ、少し嬉しくなる。

空をふわりふわりと漂う風船、
天窓からのぞく風船、
駅のホームで、乗降客の大人たちに見向きもされず、
地下鉄が動き出す風で舞い飛ぶ風船、
風船の絵が描かれた壁に近づく風船。

ガラス越しに風船をとらえたり、
とにかく、画面に映る風船の
たゆたうような動きの一つ一つに吸い込まれた。
ピアノの悲しげな旋律も、
最後の少しだけ陽気なシャンソンもすてき。

大阪、十三で、今週末から
ラモリス監督作品との併映が始まる。
夢のような2本立ての実現。
ぜひ、十三へ。
コメント ( 2 ) | Trackback ( 0 )
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コメント
 
 
 
Unknown (りんこ)
2008-08-30 21:01:08
こんばんは。私も見てきました。まさに「特に何かが起きるわけでもなく・・・淡々とした日常のある断片を切り取っただけ」という感じでしたね。
アルベール・ラモリス監督作品へのオマージュでありながら、あくまでホウ・シャオシェン監督独自の作品になっているところが感動的でした。
 
 
 
りんこさんへ (なるたき)
2008-09-02 02:13:44
お久しぶりです!コメントありがとうございます。
本当に、特に何も起こらないのですが、彼女たちが生活している、パリの空間、時間は、濃密に映像にうつしとられていて、たっぷりとその世界に浸った、という気持ちになりました。
この観終わった後、なんども思い返したくなるような、豊かな感じは、どこからくるのでしょう。本当にすてきな映画でしたね。
 
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