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No43「風音」東陽一監督

舞台は沖縄。
強い風が吹くと、「風音」(ふうおん)と呼ばれる音が
浜辺から聞こえてくる。
崖の中腹にある風葬場に頭蓋骨が置かれており、
銃弾が貫通した穴を通りぬけるときに、
出る音だと、最初に語られる。
頭蓋骨はいつも、崖の狭間に広がる海を見ている。
戦争の傷跡。

沖縄の実家に和江(つみきみほ)と子どものマサシが、
都会から帰ってくる。
わけありの老女、志保(加藤治子)が、何かを探しにやってくる。
島で無邪気に遊ぶ少年たちに混じって、遊ぶマサシ。
村はずれで、孤独に暮らす、寡黙な老人。

DVで離縁された和江の元夫が沖縄にやってくる。
美しい砂浜で、和江が夫に迫られ、暴行されるシーン。
カメラは二人から離れ、静かにパンして、
砂浜の小さなウミガニをアップでうつす。
ウミガニのじっとりした、ねばねばした動きと
夫の手荒な声が重なって
なんとも残酷なシーンに、どきりとした。

最後がすばらしい。
志保が、何十年も大切にしていた手紙を
帰途につくタクシーの車中で、やおら破り始め、
散り散りになった手紙を、窓からほうる。
風に乗って、紙ふぶきとなって
舞い上がり、落ちていく。
カメラがひいて、遠景となった美しい光景に
バッハの曲、アリアが重なり、
悲しさがにじみでる、心に残るシーンになった。

最後に、もう一度、
頭蓋骨の目からみた青い、青い海が
静かにうつしだされ、
今度は、
海の方から、海辺にいる子供たちを撮った風景に
きりかえされて、終わる。

子役は決して演技達者ではないが、素朴で好感がもてる。
老人達を演じるのも、沖縄の素人の人々で
朴訥とした存在感がいい。
重なり合う風景、人物たちから
静かに、静かに反戦のテーマが伝わる。
この伝わり方に、なんとも風情があっていい。
とりたてて、すごくよかったよと
騒ぎたくはないが、
静かに、何度も思い返したくなるような佳作。
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