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「ラングから黒沢清へ」濱口竜介監督のお話①~復讐~

連休の中日の日曜日、神戸映画資料館で
「はたのこうぼうのアメリカ映画研究会#2」があり、
「ラングから黒沢清へ」と題して
濱口竜介監督のお話がありました。
考えさせられるところの多い、興味深い発表でしたので
少しご紹介したいと思います。

まずは、お話の前に上映された、
黒沢清監督の『蛇の道』(97年)について少し感想を。
  
冒頭、普通の住宅街の道路をまっすぐ進む
車のフロントガラスからのショットに、
なんだか不穏な空気が漂っていて、
乗っているのが、哀川翔と香川照之。
なにやらとんでもないことをしでかそうとしているのが
口調からわかり、復讐劇が始まる。

映画が終わって、陰鬱な気分というか救われない気持ちになった。
8歳の娘を惨殺された父親の香川が、犯人と思われる男を
次から次へと、哀川の力を借りて、探し出し、
捕まえては、拷問し、殺してしまう。
黒幕の真犯人を見つけ出そうとするが、
最後は、仲間と思っていた哀川が…という展開。

廃工場、水たまりと、黒沢監督の大好きな舞台設定がいっぱいで、
俯瞰ショット、長回しと、映画的におもしろいシーンに満ちていた。
とはいえ、観終わった正直な感想は、
いいんだけど、なんかなあ~という感じ。

というのも、前日、用事があって、
愛知の北のはずれの実家に帰省していた。
朝、母からは、映画なんかいつでも観れるから、ゆっくりしていったらと言われたが、
トークがあるからと、振り切ってきた。
母に、こういう映画を観てきたと話したら、「何それ!?」という感じで
さぞ驚くことだろうと思うと、
なんだかおもしろくもあり、苦笑してしまった。
と、そんな気分でいたところ、
濱口監督のお話が始まった。

開口一番、
「救われない話、嫌な話ですね、
相手をいためつけることしか考えていない人物ばかりで、
一人もいい人(大人)が登場しません。
ひどい世界観です。
でも、この映画を観ていて、
どこか世界の見え方が変わってしまうような、
ある種の興奮が伴っているとも思います」

この言葉に、共感した。
シネフィルみたいに「黒沢監督、すごい」ではなく、
「すごいとは思うけれど…」という、
普通の観客の率直な気持ちを汲み取ってもらえた気がして、
さすが、話のとっかかりが上手いと思った。

話は悲惨でも、
この映画にひそんでいる、
「なんだかひきつけられるもの」
「心をひきつけて、止まないもの」、
言葉にできない魅力は、いったい何だろう…。
知りたいと思った。

脚本ユニット「はたのこうぼう」のアメリカ映画研究会では、
アメリカの古典的ハリウッド映画の通俗的なおもしろさ、
いわゆる、血湧き肉躍るような、単純に“おもしろい”映画を
生み出してきた監督として、
フリッツ・ラング、アルフレッド・ヒッチコック、エルンスト・ルビッチに焦点を当て、
通俗的なおもしろさと同時に映画的なおもしろさをもあわせもった映画を
どうしたら、今に、呼び戻せるかについて、考えていく、とのこと。

今日のテーマは復讐。

黒沢清監督による復讐シリーズの映画は、4作品あるそうで、
『復讐 運命の訪問者』(1997年)
『復讐 消えない傷痕』(1997年)
『蛇の道』(1997年)
『蜘蛛の瞳』(1998年)
復讐シリーズではないが、
一連の中では、『CURE』(97年)が最高傑作とのこと。

さて、以下は、濱口監督のお話の内容として、書きます。

ドイツの映画監督フリッツ・ラングは、
ハリウッドの古典的形式に則って、映画をつくっている。

“因果の連鎖”で物語が進む。
Aが元でBが起こり、Bが元でCが起こり…と
よどみなく物事が起っていくので、
観客はどの出来事にも意味を見いだせる。
単純化された世界、図式といえるから、どんな観客も受け入れられるし、
実際、こういった映画が、どんどん世界にひろがっている。
その典型的なテーマの例が“復讐”。

ここで、ラング監督による『復讐は俺に任せろ』(53年 グレン・フォード主演)の
ワンシーンが上映された。

主人公の刑事が、自宅で、愛妻と娘と楽しげな時間を過ごしている。
妻とのキスシーン、愛に包まれた幸福なシーンの直後、
いきなり、家の外で爆発音が聞こえ、
主人公の自家用車に仕掛けられた爆弾により、
車を運転しようと鍵を回した妻が、爆死してしまうシーン。

どうしてこんなあたたかい幸せが理不尽に奪われるのか、
観客までもが、主人公と同じ「復讐」の心情に駆られる。
そのとき、観客の心理を含め、映画を操っているのは、「(物語の)語り手(つくり手)」であり、
観客は、その意図にのせられる。

(以下、②へ続きます。)
注:いつもながら、走り書きで読めない(汗)メモと、
ますますおぼろげになる記憶力に基づいて構成していますので、
言葉づかい、文体など、監督の意図とは、若干祖語が生じているおそれがありますが、
どうぞご容赦くださいませ。

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