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「ラングから黒沢清へ」濱口竜介監督のお話②~運命~

ラングから、黒沢へと話は戻る。
『蛇の道』では、
すべてを把握し、黒幕のような存在だった哀川翔が
続編となる『蜘蛛の瞳』では、
殺された娘の復讐を果たして、生きる目的を失い、
いろんなことに振り回される存在になる。

『蛇の道』での復讐を遂げられるかという緊張した流れが
『蜘蛛の瞳』では、明らかに停滞している…。

旧友のダンカンと偶然再会するシーンを観ても、
どこか“ゆるみ”、“あそび”が感じられる。
(ほかにも、
化石探しが趣味のボス菅田俊を、
延々とジグザグに追いかけるロングシーンや、
ダンカンが釣りをしているシーンなどなど。)
そういったシーンが、いわば「緊張の連鎖をほどいてしまう」。

動機が描かれず、わからないまま、いきなり殺したり殺されたりと、
復讐は復讐でなくなり、
ただの暴力、原因を欠いた暴力へと変質していく。

誰かに帰属していたはずの暴力が、誰にも属することなく、
ただの暴力となり、
暴力そのものが、我々を行使する。
そうしたいからではなく、そうせざるをえないから“する”。(動機の不在)

シーンとシーンがぶつかりあう中で、
「力」がよどみなく進もうとする。
潜在する力の現れ。
そうして、映画は
世界のありようを直接示してくれる。
そのとき、明らかになるのは、
私たちが、力(暴力)の前で、“とるにたりない存在”であること。

『蜘蛛の瞳』では、
そうせざるをえない存在としての哀川を肯定したうえで、
力が人間を蹂躙していくことの“痛み”を、映画はつきつける。

その痛みは、
ラングの『復讐は俺に任せろ』で、
主人公が、妻を殺され、
いためつけられた果てのすがすがしさに通じる…。
映像にできないはずの「運命」が「映画にたちあらわれる」瞬間。

濱口竜介監督のお話は、こんな感じでした。

黒沢清監督の『CURE』では、
いろんな人が次々と殺人(暴力)をし、
暴力の連鎖が続いていくのですが、
監督は、この『CURE』について、

「もともとその人が持っている殺意が
催眠療法によって、引き出されただけで、
世界に暴力(殺意)は潜在している。
その暴力が噴出しただけにすぎない」

こんな濱口監督のお話を聞いているうちに、
『CURE』が怖いのは、
いつのまにか「誰かの暴力」ではなく、
暴力そのものが、映画にあらわれ出ているようで、それで
あんなに怖かったのかと、あらためて得心がいきました。

未見の『蜘蛛の瞳』も、すごく観たくなりました。
そういえば、『蛇の道』にも、
ゴルフ場で復讐相手(柳ユーレイ)を捕まえて、スタンガンで意識を失わせ、
寝袋かに入れて、緑の芝生の広場を
哀川と香川照之が二人でずるずる引っぱっていくのを
子分たちが追いかけるロングショット(写真のちらしの絵)、
なんだか、ちょっとあそびっぽくも見えて、印象的でした。
復讐劇がいつのまにか追いかけっこになったり、
釣りやらのシーンになっていく、脱線、逸脱のおもしろさ。
そういうシーンを観ているうちに、心に湧きおこってくる思いって、何だろう。
映画が、一方向でなく、どの方向にも延びていけるおもしろいものだと実感しました。

お話の最後に、ラング監督の『仕組まれた罠』のラストシーンを観ました。
前進する電車の線路がまっすぐ伸びていくラストショットが
「運命」、人間がいやおうなく進まざるをえないものを示していると
お話が締めくくられました。

ここで、ふと、私の記憶力のなさをさらすようで恐縮ですが、
ラストショットは、確か線路だけを映していたのですが、
もしも、同じ線路を映すにしても、
カメラの角度を上げて、線路の前方の空も一緒に写せば、
それはそれで、今度は、その先に何かありそうな、
すがすがしさをも感じさせることができそうで、
やはり、ちょっとした違いで、ずいぶんと印象が変わるものだと
思いました。(初歩的な感想ですみません)

今回の濱口監督の、復讐の連鎖、暴力、運命へと広がるお話は、
一本の映画が「物語」という枠を越え、
逸脱、脱線していくおもしろさを教えてくれました。

映画をとおして、私たちは、世界の複雑さ、不可解さ、不穏さを垣間見ます。
映画というのが、どこまでも触手を伸ばしていく不可解な生き物であることを実感し、
そのおもしろさ、楽しさをもっと追いかけてみたくなるような、
そんなときめきに満ちたお話でし た。

さて、神戸映画資料館での
次回、「はたのこうぼうのアメリカ映画研究会#3」は
2014年1月13日(月・祝)です。
「ヒッチコック―—『交換』から『交換不可能』へ(前編)」
13:30からヒッチコック監督の『海外特派員』の上映、
研究発表は15:45からで、
「はたのこうぼう」の「は」の濱口監督からバトンを受け取ったのは、
「た」の高橋知由(脚本家)さんです。 
ぜひお楽しみに!

(おわび
②の掲載が①からひどく遅れてすみませんでした。
このところ睡眠不足が続き、
目の下の隈がいっそうきつくなり、
自分ながらに、鏡を見てぞっとするような顔になってしまいました。
お酒を飲んで、元気が出るついでに治るものなら、どれだけでも飲むのですが、
こればかりは、いかんともしがたいです。
書きたいことは山ほどあり、時間がほしい!
されど仕事は忙しいし、溝口監督の特集上映は始まっているのに全然観れてなかったりで、
困ったものです)

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