老夫婦が万策尽きて、家も土地も明け渡すことになり、
救貧農場まで、手提げ荷物一つ抱えて
とぼとぼと歩いていく。
その姿をとらえたショットがどうしてこんなにも
心をひきつけるのか。
流れてくるのは、何度も映画の中で流れた讃美歌のメロディ。
手前で落ち葉がほろほろと落ちていく、
その落ち葉にピントがあい、
遠景で、道の向こうにとらえられた老夫婦のうしろ姿。
落下する落ち葉に、迫りくる抒情に、思わず目頭が熱くなる。
一本道を歩く二人の姿が、ロングショットでとらえられ、
曇った空、山間の風景といい、
どのショットも、まるで絵のように美しい。
二人の道中に込めた、作り手の思いが画面からあふれる。
元地主の息子ティム(ダナ・アンドリュース)が運転する車と偶然出くわし、
ティムは、救貧農場まで行く途中だと告げる二人を車に乗せてくれる。
遠い農場まで、ずっと歩き続けることになるかと、
意気消沈していた二人に笑顔が戻る。
着いたところは、なんと元の我が家。
ティムは、100ドルは無理だが、
半年分の地代50ドルを工面して払ったと言い、
10ドルを肥料、苗代として渡すから、
これで畑を耕してくれ、と励ます。
一度は頼りにして、援助を求めたものの、
力になれないと、冷たく断られていただけに、
まさかのティムからの温かい申し出に、
老夫婦は、うれしさを隠せない。
感謝の言葉を繰り返し、ティムを見送る。
荒れ果てた我が家に帰った二人。
老人は、「これから俺が何をやると思う?」とにこにこしながら妻に言う。
「畑を耕すんだ」と張り切りながらも、
まずは、一休みといった呈で
いつもの玄関のポーチに座り込む。
すると、家の中から老犬がとことこ出てきて、
老人の膝に座り、ジ・エンド。
さすがジョン・フォード監督。
人間賛歌というのか、
見事な終わり方に、なんとも胸がいっぱいになった。
アースキン・コールドウェルの有名原作の映画化。1941年作品。
舞台は、1930年代の南部ジョージア州の田舎。
かつてはタバコ・ロードと呼ばれた農地が広がり
地主も金持ちだったが、
今ではすっかり寂れ、不毛の土地となっている。
多くの人々が、別の場所へと移り住む中、
今も頑固に暮らし続けるレスター一家の物語。
一家の主人、老人ジーターを演じるのは、チャーリー・グレープウィン。
豪快さで笑わせてくれる。
開巻いきなり、薪を山ほど載せたポンコツ車であらわれるが、
エンジンからは火が噴いたり、タイヤは大きな音でパンクしたり、
それでも乗り続けるすごさ。
妻エイダ(エリザベス・パターソン)とともに、貧乏と飢えに耐えている。
娘婿(ウォード・ボンド)が、嫁の愚痴を言いに、カブを持ってやってきたら、
家族皆で力づくで奪い取って、
生のままかじって飢えをしのぐという悲惨さ。
とにかく前半は、どたばた劇というほどに、騒がしい。
老夫婦の息子デュード(ウィリアム・トレイシー)が、やたら乱暴者で、性格もめちゃくちゃ。
信仰に熱く、やや狂信的な未亡人と結婚。
老人は、その財産をねらい、
なんとか地代100ドルをせしめとろうとするが、
未亡人は、結婚したその足で、ありったけの保険金800ドルをはたいて
豪華な新車を買ってしまう。
しかし、その新車も、デュードの暴走運転で、あっという間にポンコツに。
これほど、めちゃくちゃな運転はないと思うほどで、
デュードはかんしゃくを起こして、自ら、車の屋根の幌も壊してしまうからあきれる。
警笛をやたら鳴らすのは、騒々しくてまいったが、
未亡人が、讃美歌が大好きで、デュードと合唱を始めると、
結婚届を出しに行った役所の人達も皆歌いだしたり、
車の販売所の店員のおじさんたちも歌い始めたり、
歌の連鎖がおもしろい。
讃美歌は、「Sowing in the morning」
「Shall we gather at the river」
「In the sweet bye and bye」などなど。
浮浪者をフランシス・フォードが演じていて、
いつも道の真ん中をふらふら歩いていたりして、
車の邪魔になる役回りがおもしろい。
老夫婦の娘エイメイ(ジーン・ティアニー)がお嫁に行ける、と聞いて、
喜んで、草原を走り、小川を突っ走って渡る姿がいい。
泥で汚れた顔を水で洗ってきれいにして、帽子をかぶる可愛さ。
前半の騒々しさと、ラストの静けさとは、あまりに対照的で、
終わってみれば、あのやかましさも、なんだか必然のように思えるから、
映画はおもしろい。