goo

No358「花と龍・青雲篇、愛憎篇、怒濤篇」1973年~黙して語らぬ男の想い~

ほんの少し、一つのヒントを教えられて、
数ヶ月ぶりに、あらためて観てみると、
発見に満ちていて、より深みをもって、迫ってきた。
山根貞男さんいわく、
この作品はいわば「見せ場」集である。
といってもダイジェストでは決してない。
一人の男女の数十年もの人生を描く時、
どこを省略し、どこを丁寧に描きこむかで、
加藤泰監督のねらいが伝わり、
「監督の考える見せ場」が綴られてゆく。

冒頭の電車の線路のシーン、前回観た時は
主人公夫婦の香山美子、渡哲也の額に光る汗が印象的だった。
ファーストシーン、
まっすぐ奥まで続く線路を
幼い息子を真ん中に夫婦が、手をつないで歩いていく後ろ姿を
足元のアップに始まり、ロングにひいていく。
この映画、まさに、この3人の物語であり、
続いて、車内で弁当をかきこむ、威勢のいい女と男の姿が挿入され、
彼らが車内から外に放った弁当箱を、
香山の子供が拾い、ご飯粒を食べようとする、という具合に
主軸となる5人が、最初、ほんの一瞬とはいえ、運命を交錯させる。
この描き方のうまさ。
弁当を食べてるのが田宮二郎と任田順好。

田宮が、人妻と知りつつ、香山美子を密かに想いつづけるやくざを
演じ、絶品。言葉も少なく、目だけ、少しの仕草に、思いが伝わる。
折からの雨で、駅からの道、相合傘をしていた田宮と香山。
栢山が田宮に傘を差したまま、手渡しするシーン。
手と手が一瞬触れ合い、田宮がほろっとするところで
すかさず、任田順好が冷やかしを入れる。
加藤監督の十八番だ。
山根さん曰く、任田のつっこみは観客の思いの代弁で、
監督が得意とするところを、幾つもの作品で繰り返すのも
映画の楽しみとコメント。

冒頭の船のシーンで、やたらカメラがあおり気味だと思っていたら、
撮影期間の短縮のために海で撮影していない場面について
海でないことがわからないよう、という山根さんの指摘に納得。

倍賞美津子と香山美子が、玄関で仁義を切る場面。
香山美子の低く、気迫のこもった声、緊迫感といい、見事。
倍賞さんの少し腰をかがめた姿は、腰高の仁義と言うらしい。

香山、任田、倍賞と、女性がみなすばらしい。
コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )
« 水俣の海と人... No359『ミラク... »
 
コメント
 
コメントはありません。
コメントを投稿する
 
名前
タイトル
URL
コメント
コメント利用規約に同意の上コメント投稿を行ってください。

数字4桁を入力し、投稿ボタンを押してください。