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No1126『怒りの葡萄』~さりげない優しさ~

水曜日の晩、J・フォード監督の喜劇『ドノバン珊瑚礁』を観て
元気を出そうと、上映時間ぎりぎりで
なんとかプラネットに間に合った。
チケットを買って中に入るとお客は、6、7人。
座席に座って、うきうき待っていると
受付のお姉さんが、
「ただ今よりJ・フォード監督の『怒りの葡萄』を上映します」と告げた。

あれ!?一瞬、目が点になった。
でも、すぐ気がついた。
そういえば、火曜が『ドノバン珊瑚礁』で
水曜が『怒りの葡萄』だった。
『怒りの葡萄』は前にも観たことがあり、
火曜に行きたいなあと思っていた。
現実は水曜なのに、
いつのまにか、頭の中は火曜日にすり変わっていた…。

スタインベックの小説の映画化(1963年)で、
アメリカの農民の反骨精神を静かにうたいあげる。
農場で、賃金カットされて、ストがおき、スト破りのために
農場主が、貧農を雇い入れたり、
殺伐とした中で、
ひとつの家族を描く。

貧しい農民たちも力をあわせれば、力があるはずだし、
僕にも、民衆が立ち上がるために、何かできることがあるかもしれない、
とヘンリー・フォンダ演じるトムがつぶやく。

映画はトムが
まっすぐの一本道を歩いているところから始まった。

数年前に観たが、結構中身は忘れていた。
疲れていて、前半やっぱり眠くなって少しうとうとしてしまった。

刑務所を出て故郷に帰ってきたトムが
家族と再会するものの、凶作で
オクラホマからカリフォルニアまで仕事を求めて旅することになる。
ポンコツのトラックに、
じいちゃん、ばあちゃん、父、母、弟、妹夫婦、子どもと
いっぱい乗って旅に出る。

あまりにおんぼろで、食事も少なく、
途中、ガソリンスタンドの店員には
貧農と言われ、人間扱いされず、ひどい悪口をたたかれる。

でも、ドライブインの食べ物やで、
じいさんが孫を二人連れて、
食べ物を買いにいく。

パイがほしいが、10ペンスしかないというと、
パイは高いからパンしかだめという。
女店員がパンをとってくると
10ペンス分だけに切ってくれと頼む。
料理をつくっている店の主人は、いいから全部あげなさいと
女店員に言う。
古いパンだからいいのよと、女がいうと
じいさんは、安心して受け取る。

店の入り口横にある、あめ玉を子どもがほしがる。
いくらか、老人が尋ね、
女は、2つで1ペンスよ、という。
老人は、ほっとした顔で1ペンス渡すと
子どもたちは大喜びで飴玉をにぎりしめて、店を出ていく。

店で食事していた他の客が
「そのあめ玉は、1つ5ペンスじゃなかったのかい?」と尋ね
女は、「いいのよ」という。

しばらくして、その男の客二人は
「釣りはいいぜ」と言って、店を出ていく。

女店員が店の主人に
「いい人もいるものね」と言ってにっこり笑う。

このシーンがすごく印象に残っている。
女店員は、はじめは、お金を持っていないじいさんに冷たいあしらいをしていたものの、
店の主人は、好意的で、愛想はないけど、
パンをわたしなさい、とぶっきらぼうに言う。
対応しているうちに、女店員の態度が変わっていく。

それをちゃんと見ていた、運転手らしき他の客が、
さりげなく多めに払って、店に敬意を示す。

このやりとりが、なんともすてきだった。
女店員の表情、一言がすごくよかった。

なかなか私にはできないことで、
さりげなく優しくできるといいなと思う。

トムの洗礼をしてくれた元宣教師ケーシー役のジョン・キャラダインもよかったし、
トムの母親役のリンダ・ダーネルもよかった。

リンダのシーンでは、最後のトラックの座席でつぶやく
民衆は生き続けるみたいなところより、
可愛い息子のトムを送り出すシーンが好きだ。
「さよならもいわないで、出ていくのかい?」
「キスなんてする柄じゃないけど、キスしていいかい?」と言って
頬にキスをする。
母は、息子にもう会えないかもしれないと不安を消せないものの、
会えるはずと信じようとしている。
強さと弱さ。

この母は、やっとキャンプにたどりつき、
家の外でたき火をしてシチューをつくる。
すると、あちこちから、お腹をすかせた子どもがやまほど出てきて
じっと鍋を見つめている。

この一家にしても、今はシチューがあっても
この先すぐにも、食べ物がなくなることはわかっているし
皆、長旅での空腹で疲れきっている。
でも、目前に、飢えてじっと見ているこどもたちがいると
耐えられないものを感じる。

母は、家族にそれぞれシチューを分け与え、
家の中で食べろといい、
残りのシチューを子どもたちに分け与える。

こうして思い出してみると、いいシーンがいっぱいで
人間って、どうありたいのか、と考えさせられる。
やはり、J・フォード監督特集、みごたえがあるなあと実感しました。

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