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No785『さよならをもう一度』~二人の男の間をさまよう切なさ~

イングリッド・バーグマンが、
らせん状の階段を駆け下りていく青年アンソニー・パーキンスに向かって
「私は年なのよ」と叫ぶシーンがある。
このセリフがなんとも痛切に響く。
私も年だから…だろうか。

結婚に失敗し、今は、室内装飾の店を営みながら、
ロジェ(イヴ・モンタン)と5年越しのつきあいを続け、
互いに自由な関係を謳歌していたはずの40歳のポーラ。

偶然会った25歳のフィリップが、ポーラの美しさに一目ぼれ。
(バーグマンは、中年になっても、やはりきれいです)
すらりとして、おしゃべりにみえて、実はシャイな青年が
一途な恋に落ちる姿がすがすがしい。

ロジェは、ポーラとつきあっていながら、
街で美しい女性をみかければ、声をかけ、
ポーラとの約束を、仕事だと嘘を言ってすっぽかすような男。
愛と好色は別物だと、ポーラに堂々と弁明する色男。
イブ・モンタンがぴったりだった。

そんなロジェに疲れ、フィリップのまっすぐな気持ちにほだされ
ポーラは同棲を始める。

印象的なシーンがある。
二人が初めて、共に一夜を過ごしたあと。
薄暗い部屋で、ベッドに横になったポーラが、浮かない顔で、宙を見つめている。
騒がしいジャズのレコード、明らかにフィリップの趣味と思われる音楽が流れ、
台所の方から、つまみの食べ物を用意しているフィリップの
陽気で明るい声が聞こえてくる。
ポーラの心によぎるのは、喜びなのか後悔なのか、
闇の中、おぼろげにみえるバーグマンの哀しみを帯びた瞳。
二人の恋が、いずれ破綻に向かうことを告げるかのような画面が印象的。

二人の同棲を知っても平気だったロジェが、
パーティでポーラに再会し、思わず愛を告白し、結婚を迫る。
承諾してしまうポーラ。

ポーラは、帰宅してフィリップに別れを告げる。
「僕はキューピッドの役をしただけなのか」と失望して、走り去るフィリップ。
ポーラが追いかけて、冒頭のセリフへとつながる。
「ごめんなさい、でも、だめなの。私は年なのよ」
なんとも辛らつというか、悲惨な展開。

ラストが巧みだ。
映画の冒頭で、パリの夜の街並みが映り、
急いでタクシーをつかまえようとするポーラの姿。
帰宅して、ロジェとの約束に間に合わすよう、
シャワーをあび、着替えの準備をメイドに言いつけたところで
電話が鳴り、仕事ができたと断るロジェの連絡が入る。
女が振り回されていることを表す象徴的なシーン。

このファーストシーンとほぼ同じ展開が
ラストで再び繰り返される。
そして、鏡台の前に座り、
化粧落としのクリームを顔に塗るポーラの顔で終わる…。

私は、てっきり結婚してもまるで変わらないロジェに幻滅し、
男に振り回される女の悲哀がテーマかと思ったのだが、
キネマ旬報のデータベースのストーリーをみると
「ロジェは相変わらずポーラとの会食をすっぽかす。
でも、これでいいのだ、とポーラは安らかに微笑む。」
と書かれていた。
最後の顔を、どう感じとるかで、印象は全く変わってくるメロドラマ。

TOHOシネマズなんばで観た「午前十時からの映画祭」の1本。
明日から西宮で1週間の上映。
1961年、アナトール・リトヴァク監督。
いつも満席のなんばの映画館が、なぜか、空席がぽつぽつあって
人気がない理由もわかるような気がした。

確かに、筋自体は、平凡なメロドラマの枠を出ないのだが、
バーグマンと、モンタン、パーキンスの演技で、
意外に、鮮明に記憶が残っている。
映画とは不思議なものだ。 

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