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No571『股旅 三人やくざ』~人情あふれる男気を、さりげなく最後にみせる男たち~

これだけ傑作続きの上映だと、
とりあえずコンビニおにぎりで空腹を満たし、
軽い疲労感を覚えながらも、スクリーンに釘付け。
終わってもなお余韻が残り、頭の中では、
男たちが斬りあう喚声が聞こえてくるようだ。

沢島忠監督の詩心が結晶した、
やくざ家業の男たちの
弱きを助け、強気をくじく、
仁義を守り、人情を大切にする姿が
なんともいとおしくて、やりきれねえ物語が3つ。

仲代達矢の秋の章では
冒頭、川の堤を急ぎ歩くシルエットの美しさにうっとり。
桜町弘子が、威勢のよい芸者っぷりで、惚れた女の寂しさと、
いい味を出している。
仲代達矢は、ここでも本当に渋くて凄みがある。

松方弘樹の冬の章では
松方は、勢いばっかりの若いチンピラやくざで
老いぼれ渡世人の志村喬を、誤解して
激しく殴り倒したりもする。
でも、いざ、その素性とわけを知ると
自分の子どもの頃も思い出し、さらりと一肌脱ぐ。
そのたんかのよさと
雪の中に残された位牌に泣ける。

追い詰められてふっと変わる、
人情味あふれるいい男になりやがる。
そのうしろ姿があんまりかっこよくて、切なくて
観客としては、心を全部持っていかれる。

中村錦之助の春の章でも同じだ。
度胸もなく、腕もさえない、たよりない旅人やくざが
最後、ぎりぎりで変わる。

菜の花畑が一面に広がる中、のんびりと錦之助が歩いていく。
小川で小便している子どもとのやりとりには、大いに笑える。
村の衆に頼りにされても、
全然自信がなくて逃げたくなる気持ちがよく伝わる。
自分の弱さと、義理人情との間で揺れる心情を
すごくリアルに演じている。
でも、腰がひけてても、義侠心だけは失っちゃいない。

そういえば、厨で、賄いの浪花千栄子さんが
旅人の仲代達矢に話しかけるシーンのすばらしさにはしびれた。
あんた、親御さんはいなさるのか、とたずねる。
やはり浪花さんは凄い。

『十三人の刺客』でも、刺客を志願する若い侍に
大将が、親兄弟はいるのか?と尋ねるシーンがあった。
そういえば、子が親より早く死ぬのは一番の親不孝だというセリフが
『トロッコ』(新作で公開したばかり)にもあった。
そんな親のつらい心情を汲んだ脚本で、見事と思う。

日本人の心意気、時代劇の美しさがいっぱいつまった
お薦めの逸品です。
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