goo

No974『水玉の幻想』~芸術が舞い降りる瞬間~

カレル・ゼマンのチェコアニメ。
日曜日に観て、そのよさがわかるのに、一晩かかった。
1948年の11分の短編カラー映画。
セリフもなく、ガラス細工による
ストップ・モーション・アニメーション。
本当に繊細できらきら美しい世界。
昨晩は、そのきれいさしか、わからなかった。

一晩たって、感じたこと。
何よりすばらしいのは、
たんぽぽの綿毛がふうわりと飛んで、
葉っぱの上の水滴(水玉)の上に舞い降りること。

水滴の中には、おとぎ話のように
海中の世界が広がっていて、
魚が泳いでいたり、海草があり、貝が口をひろげている。
これらすべてがガラス細工でできていて、
きらきらして、とってもきれい。
貝が吐いた泡が、氷の上に達して、ガラスの少女が生まれる。
少女は、氷の上を、スケートで滑走していく。

たんぽぽの綿毛は、水滴の中に入って、
地表の氷に着地するなり、
くるくる変身してピエロに姿を変える。
糸のような洋服を着たピエロ。

疾走するガラスの少女を一目見て、
ピエロは恋に落ちる。
氷の上を追いかけて、追いかけて…
でも、氷の壁ができて、
ピエロは、少女のいる世界に声さえもかけられないで
終わってしまう。

ピエロの想いは届かない。
砕けてしまった恋心。
でも、作家は、ガラスを壊したり、なんて野暮なことはしない。
ガラスの壁が壊れるシーンはあるけれど、
ピエロが氷の破片の上に乗って、水の上を流れていく美しいシーンにつながる。

ピエロは、また元の綿毛の姿に戻り、
水滴は、葉の上を零れ落ちてゆく。
きっと水溜りの中に吸い込まれたのだろうか。

カメラは冒頭と同じく、
雨が降る窓越しに見ているガラス細工の青年の顔に戻る。
すべては、青年の空想だったのかとも思わせるつくり。

この綿毛が舞い降りる瞬間がすばらしいのだと
あらためて思った。
はかなく、切ない綿毛が、
壊れやすくて、きれいだけど冷たいガラスの世界に
入り込むという発想のおもしろさ。

音楽のカケラが舞い降りる…、
そうして、音が生まれ、リズムが重なり、
詩が生まれ、歌となり、人の心をつかむ。
そんな繊細な芸術の世界が、
この映画に描かれているような気がした。
なんて、これも一観客の勝手な想像の産物かもしれないけれど…。 

コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )
« No973『クリス... 帰省第2弾~... »
 
コメント
 
コメントはありません。
コメントを投稿する
 
名前
タイトル
URL
コメント
コメント利用規約に同意の上コメント投稿を行ってください。

数字4桁を入力し、投稿ボタンを押してください。