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No143「シンデレラマン」ロン・ハワード監督

守るべきものがあるとき、人は強くなれる。
ジム・プラドックは、23歳で世界タイトルに挑み、負傷、惨敗。
負けを重ね、ボクサーのライセンスも剥奪。‘29年の世界大恐慌では全財産を失う。
3人の子供と妻との生活を支えるため、港湾で積荷の仕事をし、生活保護も受けた。
貧乏のどん底にいた30歳も間近のジムに、一度だけということで、試合のチャンスがめぐってくる。
父として夫としての家族の中でのありようと、厳しい時代背景が丁寧に描きこまれ、
深いメッセージの伝わる、みごたえある作品となった。

ボクシングの殿堂マディソン・スクエア・ガーデンの試合会場に集まった観客の熱気。
教会やバーに集まって、ラジオを聴きながら応援する人々の真剣なまなざし。
失業し、苦しい生活を強いられている人々にとって、ジムがいつしか希望の星になっていた。
そして家族。彼を送り出す妻の心配と愛情の入り混じった笑顔。子供たちの無邪気な笑顔。
応援する人たちの心がジムを支えた。
見えないつながりの尊さ・・。

ジムは、名誉や野心でなく、子供たちのミルクのため、生活のためにリングに立つと言う。
ジムを演じるラッセル・クロウが、子どもたちを見つめるまなざしが実にいい。
リングの外では、一人の平凡な父親。
ひもじさのあまり盗みをした息子に、二度としないと約束をする。
暗いながらもどこか暖かみのあるアパートの明かりの下、夜、子どもにボクシングの真似事を教える。
試合から帰って、子供と目をあわせ、笑い、抱きあげる。
一つ一つから、子どもへの深く強い愛情が伝わる。
子どもたちの、父を思う繊細な表情もすばらしい。
ラジオを聞かせないでねと言って母に預けられた叔母の家では、
地下室の階段にこっそり隠れて、
タイトルのかかった父の試合をラジオで聴いている。
それを見つけた叔母も、子供たちの真剣なまなざしに、何も言えなくなる。
私はこのシーンが好きだ。

ラッセル・クロウはハリウッド・スターの中では、地味な方の風貌だが、
家族を何よりも大切にしている無骨なジムに、まさに適役。
大柄でもなく、そんなにたくましくも見えないクロウだが、リング上で撃たれても撃たれても倒れずに踏みとどまる姿は、観ていて怖くなるぐらい。
表情もまるで違う。ひとたび、リングに立てば、闘う男に変わる。
最終ラウンドになっても、相手の無敵の右パンチを恐れることなく
果敢に相手の胸元に飛び込んでいく。
この男をここまで、駆り立てるのは何だろう。
「人生をこの手で変えられると信じたいんだ」というセリフがよみがえってくる。

リング上の迫力は、見ごたえある。
ラッセル・クロウの奮闘に拍手したい。
「サイドウェイ」のポール・ジアマッティが、ジムのマネージャーを好演。
コートサイドから、まさに観客の気持ちを代弁するような熱狂的な応援を見せてくれる。

満足度 ★★★★★★★(星10個で満点)
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