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No142「運命じゃない人」内田けんじ監督

見事な脚本。ぜひ運命のおもしろさをかみしめてほしい。
女の子をくどくこと、お金、という全世界共通のテーマを切り口に
シチュエーションの妙、運命のあや、微妙な間を生かして
実に愉快で、ウイットに富んだ作品が生まれた。

人のいいだけがとりえで、失恋の痛みをひきずったままのサラリーマン宮田。
宮田の中学以来の親友で探偵の神田。
婚約破棄で路頭に迷い、自暴自棄ぎみの女性、真紀。
宮田とつきあい、マンションまで買わせて行方をくらました結婚詐欺師の女、あゆみ。
あゆみが宮田の次に“かも”にしようとした、やくざの親分、浅井。
やくざなんてちょっと非日常的人物も巻き込みながら、
金曜の晩から土曜の朝にかけて、わずか12時間余り、
5人に起きた出来事を
宮田、神田、浅井の順に、それぞれ3人の視点から綴っていく。
同じ状況が、その場に居合わせた違う人間から見るとどうなっているのか、
次々と明かされる真実に、驚きと笑いが止まらない。

たとえば、合鍵で宮田の部屋に忍び入った神田がトイレに入った時、
玄関のあく音がして、宮田の声が聞こえてくる。
観客は、先ほど宮田の視点から描かれたばかりの情景を思い起こしながら、
鉢合わせになりそうでならない妙を楽しむことになる。
聞こえてくるのは、電気代の請求書の額にぼやく独り言であったり、
やたら遠慮だらけの会話であったり・・セリフや会話のつくり方もうまい。
観客だけがすべてを知らされているゆえに、思わずほくそえんでしまう。
いやいや、登場人物は、誰しも真剣なのだ。
傑作は、浅井がベッド下からのぞいた真実。
走り去る浅井の車から見た、宮田の驚喜する様も、
他人から見ればこんなふうなんだと世界の発見をしたような気分。

5人の性格設定も上手い。
お人よし宮田の純粋さと、やくざ組織を維持するための浅井のせせこましさ。
自信なく、迷ってばかりの真紀と、お金大好きで怖いもの知らずのあゆみ。
探偵のくせに、どこか面倒見のよすぎる神田。
脇役のタクシーの運ちゃん、便利屋の山ちゃんも存在感たっぷり。

冒頭とラストが真紀の視点になるところがみどころ。
「自分の幸せを他の人間に託しちゃいけない、一人で生きていくんだ」と決心しながらも、
行ったり来たりしている真紀が、
最後に下す決断は・・?
世の中には、
人をだまして、うまくやっていこうとする人間と
人を信じぬいて、疑わない人間といる中で、
真紀は、宮田にとって、「運命じゃない人」になるのか、「運命の人」になるのか。

「運命の人」を見つけるのも
「未来」や「明日の運命」をつくっていくのも
とにかく「自分自身」なんだと思えるラストがすがすがしくて、とてもうれしい。

満足度 ★★★★★★★★(星10個で満点)
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