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開かずの踏切~雷の余波~

日曜日、十三の七芸で
羽田澄子監督のドキュメンタリー映画を観ようと起きたものの、
朝からすごい雷と大雨で、家を出る勇気をくじかれた。
雷は映画の敵、なんて思いながら、うだうだして、
夕方近く、雨もすっかり止み、
15年振りに新調した眼鏡を取りに、
少し離れたスーパーに出かけた帰り道、
開かずの踏切に遭遇した。

そこはちょっとしたターミナル駅で、
よく待たされる踏切ではあったが、
今回は、電車が一つ通過した後も、
なかなか遮断機が上がらず、電車も現れない。
普段から通行量の多い通りなので、
時間が経つにつれ、踏切のまわりは、ちょっとした人だかりができ、
自転車や人でいっぱいになった。

しばらくして回送電車が現れたが、
踏切の手前数メートルで停止してしまった。

私も急いでいることが多く、いらちな方だが、
その日は、なんだか映画もあきらめモードになっていたので、
人間観察でもしようと、のんきに構えていた。

前の方で、偶然、久しぶりに会った風の女性同士が、
にこやかにあいさつを交わしていた。
はじめ、とても楽しそうだったが、
あまりの待ち時間の長さに話も尽きたのか、
女性のひとりは、挨拶をして別の迂回ルートへと避難していった。

20分も経ち、しびれをきらした頃、
踏切の反対側から、
少し大柄で太った、柔道でもやっていそうなおっちゃんが、踏切を渡ろうと、
やおら遮断機を持ち上げた。
遮断機の動きに反応して、警報機が、一層高くて大きな音を鳴らした。
おっちゃんは、その音も構わず、むしろ、挑戦的な態度で、遮断機をくぐり、
堂々と踏切を横断していく。

さすがに、止まっていた列車の運転手がみかねて
「ポーピーポー」と警笛を鳴らし、緊張の空気が漲った。
おっちゃんは、無事、渡り終え、踏切の向こう側に残っている仲間に向かって、
「○○で待ってるからな」と二回ほど、大声を張り上げた。
どこかの居酒屋かと思ったが、今から考えれば、パチンコ屋かなと思う。

それでも遮断機は上がらず、列車は目前で止まったまま。
大方の人は、仕方ないわねえとか、急いでる人は大変だわと言い合い、
辛抱強く待っている。

そうしているうちに、さきほどのおっちゃんがまた戻ってきた。
一人ではさびしいのか、さっきの連れを呼びに、
再び遮断機を上げて、踏切を渡っていく。
運転手が、先ほどと同じように警笛を鳴らす。

おっちゃんは、仲間のいる方に一声かけ、
きっと、仲間は遮断機を上げてまで渡る気はないようで、
おっちゃんはまた一人で、余裕の呈で、踏切を渡って戻っていく。
運転手が警笛を鳴らすと、
おっちゃんは、「うるさいんじゃ、ぼけ」と怒鳴った。

そんなおっちゃんの行動を目前で見て、
「何考えてるんや」とか「だから余計に(電車が)遅れるんや」と
非難する小声も、まわりから聞こえた。
おっちゃんにつられて、踏切を渡ろうとする人は一人もおらず、
良識ある、ルールを守れる人ばかりで、よかった。

結局、25分位経った頃、駅から列車が出ていくと、
止まっていた目前の回送列車も動き出し、
やっと踏切が上がった。

これぞとばかりに、踏切の両側から、一斉に、人も自転車も横断を始める。
さながら、東南アジアかインドのバザールのような雑踏が出現した。
それでも、それなりに他者への気遣いはあって、
車は当然、控えめだし、
人も自転車も慎重に踏切を渡り、
それぞれが、思い思いの方向へと、
せいせいした感じで、気持ちよく向かっていった。

帰り、団地のエレベータで偶然一緒になったおばちゃんが、
「長かったわね」と声をかけてきた。
おばちゃんによると、最近、開かずの踏切になることが、よくあるらしい。
それにしても、
私もいつのまにか、おばちゃんに、しっかり見られていたようで、
後姿も気をつけなきゃ、と思った。

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