日本一“熱い街”熊谷の社長日記

組織論の立場から企業の“あるべき”と“やってはいけない”を考える企業アナリスト~大関暁夫の言いっぱなしダイアリー~

ソニーは一刻も早くテレビを捨て、金融業として再生を目指すべきと思う件

2014-05-23 | 経営
ソニーは昨日、今年度の企業経営方針説明会を開きました。三度にわたる業績の下方修正と大幅な赤字。出口の見えないリストラ策での場つなぎ。絵空事が続くエレキ部門黒字化計画。アベノミクス効果による好決算に湧く我が国の大企業群をよそに、ソニーの現状は過去の栄光を捨て思い切った大手術なくして根本的再生は不可能であると思わされるものであると、認識を新たにさせられる内容でした。
◆日経新聞 http://www.nikkei.com/markets/kigyo/gyoseki.aspx?g=DGXNASFL220RN_22052014000000

昨日の説明会に関し報道された方針内容を見るに、同社の現状を鑑みれば、その中身はまだまだ中途半端なものであると感じさせられます。基本は、エンタメ、金融部門を成長の核に位置づけ、エレキ部門の今年度黒字化をめざすという指針。この程度の物言いは、エンタメ、金融部門の収益に頼っている現状を考えれば至極当たり前のものであり、これまで何年も言い続けながらリストラの瞬間風速的黒字を除いて実現されない「テレビ事業の再建、エレキ部門の黒字化」に、これと言った策もなく今期赤字予想を臆面もなくしながら、4Kテレビの奇跡を待って未だ見切りをつけられないあきらめの悪さに、「先行き今だ見えず」を感じざるを得ないのです。

井出時代以降の苦境に陥ってからのソニーに何を見るかと言えば、文系的な手法でイメージ戦略を繰り返し身の丈をはるかに超えた背伸びを続け「世界のソニー」を標榜したことが、結局はかえって町工場時代を引きずる中小企業体質が抜けていないことを露呈させ、その代表的現象である経営の私物化が今も続いているということに尽きるのです。文系経営者による技術系企業の私物化が三代続いたことで、「技術のソニー」はもはや再建が難しいほどにまでガタガタに崩されてしまいました。結果残ったものは、エンタメと金融が支える文科系企業への変貌であったわけです。

技術的な詳しいことは専門の方々にお譲りしますが、4Kテレビが本当にエレキ部門再建の切り札になるのでしょうか。いや、もっと言えば、4Kテレビは家電市場で近い将来本当に消費者に求められる商品なのでしょうか。過去の栄光にすがって、苦し紛れに4Kテレビを軸に据えた再建計画を立てているのなら、もはや期限を切って見切りをつけるべき段階に来ているのではないかと思うのです。

すなわち、「今年度、テレビ事業の黒字化が出来ないなら撤退する」という、日産リバイバルプラン時にゴーン氏が見せたコミットメント経営、すなわちまずは組織の執念を結集させダメな時には見切りをつけるというあるべきトップの決断力こそが今のソニーに欠けているではないかと。あるいは、本気で「技術のソニー」を蘇らせようとするのなら、エレキ部門を先導できる専門家にトップの座を譲ることも必要ではないかと思うのです。結局、今回の説明会でもトップの本気度が感じられない最大の理由は、そんなところにあるのです。

ソニーが実質出井院政から抜け出せない文系経営者による経営私物化の下で経営を続けていくのであれば、残された道は金融業への転換でしょう。すべての優秀な人材を金融業に振り分け、日本の金融業界に一石を投じるような全く新しい金融企業を作り上げる、それくらいの気概を持ってソニーの第二創業に着手する。銀行&保険業、にこれまでに蓄積された同社のIT技術を絡め、すべての経営資源をそこに集中させるなら金融本来のストックビジネスの土台の上に新たなフロービジネスを次々構築して金融の常識を打ち破るような全く新しいソニーが生まれるのではないかと思うのです。金融界の技術革新はまだまだ利便性向上や効率性重視にとどまっており、本当の意味での技術革新はこれからなのですから。

なぜエンタメでなく金融なのかと言えば、エンタメはどこまでいっても結局はソフトが勝負を決める世界で、自社の力量云々以上に社運はソフトの作り手に頼らざるを得ない“あなた任せ事業”であり、ソニー本来の企業精神を活かし切るには決してふさわしい部門であるとは思えないからなのです。金融は違います。根底はストックビジネスではありますが、蓄積された技術力を新たな形で活かしストックの積み上げと新たなフロー収益の創造は、まさしく「技術のソニー」復権にふさわしいフィールドであると思うのです。

コアコンピタンスを最大限に活かす事業ドメインの選定は、企業戦略を考える上で基本中の基本であるはずです。説明会報道における現状のソニーの苦境と技術的無策ぶりを見るに、テレビ事業の時限性ある見切り対応とエレキ部門の縮小ならびにそれを受けた明確な金融業事業ドメイン化へのシフトを、真剣に検討することも必要な状況にあると切に感じされられた次第です。

最新の画像もっと見る

コメントを投稿