日本一“熱い街”熊谷の社長日記

組織論の立場から企業の“あるべき”と“やってはいけない”を考える企業アナリスト~大関暁夫の言いっぱなしダイアリー~

ソニーは終わってしまうのか?平井新体制に欠けているもの

2012-06-28 | 経営
ソニーの株主総会が27日開かれました。就任時に若い力に期待したいと当ブログでエールを送った平井CEOの対株主初お目見えでもありましたが、その船出はとても合格点は与えられない非常に物足りないと言わざるを得ないものでした。

何よりもまず不満なのは、4000億円もの史上最高損失を計上した企業のトップとして、あまりにも危機感に欠ける言動に終始していた点であります。当社にとって一番の課題であるエレクトロニクス部門の立て直し策について、株主説明および株主質問に対する回答は、通り一遍の「得意分野であるデジタルイメージング、信号処理技術、レンズなどの開発を強化し、商品力の強化と差別化を図ってまいります」という、好調時と何ら変わらぬトーンでの説明に終始。最大の赤字源であるテレビ事業の再建についても“モグラ叩き的”施策の説明ではなく、もっともっと再建に対する根本的な姿勢の説明があってしかるべきではないのかと感じました。

すなわちこの初の株主総会は平井丸の船出式でもあるわけで、当然業績V字回復に向けた“平井ビジョン”が自らの口から聞けるものと思っていただけに落胆を禁じえないといったころです。これまでのストリンガー路線と基本的に何が違うのか、それすらも何ら伝わらない、同社が出井時代に身に付けた悪癖であるブランド志向にいまだにすがりつくかのような「ワン・ソニー」などといういらぬ形ばかりのコピーワークだけがむなしく響く、中身の薄い見通し説明でありました。

思い起こせばソニーの“終わりの始まり”は、出井時代のブランド構築偏重による技術開発力の軽視にありました。出井氏はスタイルやイメージにこだわることと折からのITバブルにも乗り自社のブランド価値を高め、背伸びをして世界有数のブランド企業に押し上げたものの、経営者として技術面を疎かにしたことでブランド力に技術力が見合わないという不均衡が生まれ、ブランド力は急降下を余儀なくされます。後を受けた”ストリンガー氏もまたハリウッド出身の“技術音痴”であり、ソニーを本業部門において見るも無残な状況にまで陥れ、“終わりの半ば”を見事に演出してしまった訳なのです。

ストリンガー氏に関して言えば、総会で株主からも指摘を受けていましたが、業績の説明において自身の指揮の至らなさを詫びるのではなく、真っ先に「東日本大震災やタイの洪水」など経営環境を収益悪化の最大要因として掲げるという、経営者として自己の責任を省みずに言い訳に終始する最も恥ずべき弁明を、退任のあいさつとして申し述べると言う失態をも演じてもくれました。これまさしくソニーが危機感欠如のまま“終わりの半ば”から“終わりの終わり”への橋渡しがなされようとしている絵を見る思いでした。

このような経営の危機的バトンリレーの中、約2時間平井氏の数々の発言を聞き私が感じたのは、顧客目線は一体どこにあるのかという疑問符であり、ソニーがブランドと言うプライドを捨てて利用者のところにまで下りてこようとする姿勢の欠如でありました。平井氏は「海外拠点を回って、世界中のソニーのスタッフに語りかけ意識の共有をはかり、グループ一丸となるワンソニーの考え方を浸透させている」と内向きの活動に意気込んでいましたが、むしろ今彼がすべきことはその逆、トップとして先頭に立って世界中の利用者目線を知りそれを肌で感じる努力ではないのでしょうか。それこそが出井時代以降、ブランド力と言う幻想に惑わされプライドの上に胡坐をかいた結果失った大切なものだと思うのです。

ソニーの技術力がいかに高度なものであろうとも、それが顧客から求められないものであるのなら、いや競争相手との比較の中で顧客目線で見たときに劣後するものであるのなら、勝ち目はないのです。近年のソニーの連戦連敗はまさしくそこに原因があったのではないでしょうか。平井氏の口からは、「ワンソニー」「スタッフ一同」「あらゆるグループ事業」等々内向きの言葉ばかりが強調され、ついぞ「利用者」「消費者」という言葉が重要な文脈で使われることはありませんでした。ブランド意識の高揚が生んだ「プロダクトアウト」的精神が組織風土の根底に張り付いているのでしょう。もう一度基本に立ち返えるなら、トランジスタラジオもウォークマンも、ソニーが利用者目線でそのニーズを先回りした「マーケットイン」型の開発あればこそ成し得たものであったはずなのです。

彼が口にした「必ずや感動を与える商品をつくる」との意気込みは立派ですが、顧客目線なくして利用者の「感動」はあり得ません。平井CEOは一日も早くその事に気づき、自ら先頭に立って生きた利用者情報の収集(決まりきった特定先訪問などとは全くの別モノ)に徹底的に取り組むべきであると考えます。企業の大小に関係なく、ビジネスの基本として「悩んめる時の答えは顧客の中にあり」なのです。このままソニーブランドのプライドに胡坐をかいて顧客目線を忘れたまま組織の指揮を執るのなら、平井新体制の行く末にソニー“終わりの終わり”は意外に早い段階でやってくるのではないか思うのです。出井時代に幻想の深い眠りにつかされたソニーは、このまま永遠の眠りについてしまうのでしょうか。