日本一“熱い街”熊谷の社長日記

組織論の立場から企業の“あるべき”と“やってはいけない”を考える企業アナリスト~大関暁夫の言いっぱなしダイアリー~

日本も「チップ制度」をそろそろ検討したらどうだろう?

2012-06-13 | ビジネス
欧米に出るといつも「あっ、そうだった」と思い出させられるのが「チップ制度」。若い頃は「なんだよ面倒くさいな」と思わされたりもしたものですが、よくよく考えると提供側にも購入側にも「サービス=有料」を明確に意識させるものとして、今の時代「格安」に対する正しい理解を醸成する観点から、日本でも導入を検討してもいいのではないかと思ったりもします。

日本のお店は、外国人から見るとどこもおしなべてサービスがいいと言われます。しかしながら、とりわけ「日本の価格はサービス料込みだから」と意識されているわけではなくて、日本人は「サービス=無料」が当たり前で来てしまっている。だから、スカイマークエアのような「低価格=サービス抜き」という商品の登場に、一部で戸惑いが出るのでしょう。「サービス=有料」は、随分前から日本でも言葉では言われているものの、正しい理解がされているかと言うとかなり疑問であるわけです。

先日ハワイで入ったスタバ、日本に比べるとサービス水準はかなり低かったです。店員はつっけんどん、説明は不親切、テーブルも汚れている…。でも、ファーストフードはチップ不要ですから、これが当たり前。それが嫌ならチップでサービスを買うカフェでコーヒーを飲めばいいわけです。マクドナルドの「スマイル=0円」も、あちらの理解は「笑顔はサービスじゃありません。自然のものです」という意味です。サービスなら有料だからです。一方日本では、「笑顔のサービスは無料で提供しています」という意味に受け取られています。この理解はよく考えると、その分は商品価格に入っているということ(教育コストの価格反映)かなと。これまさしくサービスの価格の不明確化の端的な例であり、日本人のサービスのプライシング音痴を利用した上手な戦略のようにも思えます。

そんなサービスのプライシング音痴な日本人相手の商売として、ハワイあたりで一番いい加減なのは、日本人経営で日本人スタッフ雇用の店なのに請求書に「チップ15%」などと書いて堂々とサービス料をチップで請求するケースです。別にメニュー表示価格がその分国内の同水準のお店と比べて安わけでもない、単なる“便乗”か都合のいい和洋折衷でしょという感じで、ここまでくるとちょっと面白くないですね。そういう便乗商売を目にしたことも、日本人のサービスのプライシング音痴を矯正する「チップ制度」が必要なのではないかと思った所以です(もちろん、国内商品価格の値下げはチップ制度の大前提ですが)。

上記のような便乗犯は論外としても、モノ価格とかサービスとか、提供側も購入側も価値感が多様化している今の時代に至っては、やはり「サービス」は明確に「有料」を決めたほうがいいのではないかと思います。そうなれば、LCCを代表格とする商品の低価格化に対する正しい理解はもっと得やすくなるでしょう(スカイマークのサービスコンセプトの表現の問題は別として)。LCCなどは、まさにコストのかかるサービスの切り落としであり、旅客輸送のファーストフード化であると理解すれば誤解はないわけですから。

「サービス=有料」に関する本当の理解が進むならば、LCCが安いのは「サービスを省いているからでありリスクが高いからではない」ということももっと伝わりやすくなるのではないかと思います。裏を返せば、格安夜行長距離バスがなぜ安いのか、他のバス会社に比べてサービスの省略が見当たらないのなら、「もしかして運行に無理が生じるような商品構造で顧客リスクが高いんじゃないの」という話にもなるわけです。すなわち、不可解な安売りに対する警戒感や敬遠といった気運も醸成しやすくなり、無理なハイリスクの商品を市場から駆逐することにもつながるのではないかとも思うのです。

「サービス=有料」を明確にする「チップ制度」。いきなり日本にこれを導入定着させるのは難しいかもしれませんが、時代の流れと共に現象化するデフレ下のでの価格とサービスを巡るさまざまな出来事に対して、国民の正しい理解をもってあるべき生活向上につなげていくために、産業界は本気で議論してもいい時期にきているようにも思いますがいかがでしょうか。

※余談ですが、東電も「サービスは悪くなりますけど値上げはしません」というプランを検討したらどうでしょう。実現可能であるなら、利用者に支持されると思います。もちろん、削るものがあるほどの対利用者サービスというものが、東電に現状存在していることが前提ではありますが。