日本一“熱い街”熊谷の社長日記

組織論の立場から企業の“あるべき”と“やってはいけない”を考える企業アナリスト~大関暁夫の言いっぱなしダイアリー~

スカイマークエア話題の「サービスコンセプト」を添削する

2012-06-11 | ビジネス
一度出したものをまた引っ込めざるを得ないことになったという、話題のスカイマーク・エアラインのサービスコンセプトについて、例によって「あるべき」「やってはいけない」の観点から感じるところを記しつつ一足先に添削してみたいと思います。
まず最初に、もう各所でさんざん出回っていますが、現状引っ込めさせられたその<サービスコンセプト>を以下に転記しておきます。


<スカイマーク・サービスコンセプト>
スカイマークでは従来の航空会社とは異なるスタイルで機内のサービスをしております。「より安全に、より安く」旅客輸送をするための新しい航空会社の形態です。つきましては皆様に以下の点をご理解頂きますようお願い申し上げます。

1. お客様の荷物はお客様の責任において収納をお願いいたします。客室乗務員は収納の援助をいたしません。
2. お客様に対しては従来の航空会社の客室乗務員のような丁寧な言葉使いを当社客室乗務員に義務付けておりません。客室乗務員の裁量に任せております。安全管理のために時には厳しい口調で注意することもあります。
3. 客室乗務員のメイクやヘアスタイルやネイルアート等に関しては「自由」にしております。
4. 客室乗務員の服装については会社支給のポロシャツまたはウインドブレイカーの着用だけを義務付けており、それ以外は「自由」にしております。
5. 客室乗務員の私語等について苦情を頂くことがありますが、客室乗務員は保安要員として搭乗勤務に就いており接客は補助的なものと位置づけております。お客様に直接関わりのない苦情についてはお受けいたしかねます。
6. 幼児の泣き声等に関する苦情は一切受け付けません。航空機とは密封された空間でさまざまなお客様が乗っている乗り物であることをご理解の上で搭乗いただきますようお願いします。
7. 地上係員の説明と異なる内容のことをお願いすることがありますが、そのような場合には客室乗務員の指示に従っていただきます。
8. 機内での苦情は一切受け付けません。ご理解いただけないお客様には定時運航順守のため退出いただきます。ご不満のあるお客様は「スカイマークお客様相談センター」あるいは「消費生活センター」等に連絡されますようお願いいたします。


私が最初にこのシートを読んだときに、真っ先に感じたことは、これは従来の国内航空会社の誤った認識に基づく過剰サービスを善しとするサービスの在り方に一石を投じるものとして大いに評価できるというものでした。誤った認識と言うのは、飛行機がごく一部の金持ちだけが利用する特別な乗り物であるというもはや今の時代には通用しないものであり、その考え方に基づいた不要なプライドの高さを感じさせるサービスは、今の時代にあってはおよそ見当違いなものであると言わざるを得ないのです。

しかしながら、このコンセプトシートを何度も読み返していくうちに、「ちょっと待てよ」という部分もいくつか出てきて、全面的には支持は出来かねることにも気がつかされるわけです。従来の航空会社のサービス姿勢を善しとしない姿勢まではいいものの、ちょっと行き過ぎた部分があるのではないかと。行き過ぎてしまった原因は、同社が航空会社をサービス業としてとらえていないのではないか、ということにあるように思えます。すなわち、今の航空会社のサービスが過剰であるとしても、正すべき水準は貨物輸送業ではなく旅客輸送業ではないのかということです。

その観点で、ひとつひとつの項目を見ていくと、明らかに行き過ぎであり書き換えが必要な点が明確になってきます。順にみながら「あるべき」に添削を試みます。

1は部分的にOKですが部分的にダメです。比較対象として電車を例にとるなら確かに、網棚に荷物を乗せるのは乗客自身がやることなのでここはいいでしょう。しかし年寄りや非力な女性が困っているところにスタッフが出食わしたら、それを可能な範囲で補助するのはサービス業としての「あるべき」です。「客室乗務員は収納の援助をいたしません」となぜ言いきるのか、これはいけません。この部分は削除すべきです。

2は条件付でOK。「従来の航空会社の客室乗務員のような丁寧な言葉使いを当社客室乗務員に義務付けておりません」は、バカ丁寧な言葉づかいはしませんよと言う意味であるなら問題ないでしょう。ただし、最低限サービス業の常識は守られるというのが条件ですから、「一般的にサービス業に求められる以上の」を「丁寧な言葉使いを当社客室乗務員に…」の前に挿入すべきです。

3も条件付OKです。私は銀行にいたので女子行員やパートスタッフの身だしなみについて、うるさすぎる環境下で育ったのですが、自分が支店経営を任された際には、「基本はお客様に不快感を与えない身だしなみであること」とだけ言い、自主性重視で管理をしてきました。その観点から言うなら、「自由」という言い方が誤解を生む可能性はありますから、「仕事とプライベートをしっかりと区分けし、お客様に不快感を与えないことを基本として、スタッフに自主管理を任せております」とでも言えばいいのだと思います。

4も同じく。服装の自由は別にOKです。ただし書き方として、3同様「お客様に不快感を与えないことを基本として、スタッフに自主管理を任せております」とするべきでしょう。

5「客室乗務員は保安要員として搭乗勤務に就いており接客は補助的なものと位置づけております」は電車も同じことなのでここはいいでしょう。しかしながら、「客室乗務員の私語等について苦情を頂くことがありますが」は、明らかに一言多いでしょう。運転手や車掌の私語が多かったら、安全面で不安になるわけで、この部分は削除。スタッフの私語が多くても問題ないという考え方は正されてしかるべきと思います。

6も言わなくていい話かなと。これは、一般航空会社であろうがLCCであろうが同じこと。新幹線で赤ん坊が泣いていても普通は車掌に文句は言わないのであり、乗客の常識として飛行機でも同じ理解であるべきです。その手の苦情が多いということなのでしょうか。乗客の意識の問題である以上、少なくとも「サービスコンセプト」に書く内容ではないと思います。

7は全く問題なし。

8は今回の文書一時回収の発端となった部分。クレームは8の「消費者センター」等に連絡しろ、という言い回しがクレームの行政へのつけ回しだでけしからんと、お叱りを受けたことにあるようです。まぁ、私からみればそれはどちらでもいいこと。むしろ「機内での苦情は一切受け付けません」の方がマズイでしょう。サービス業におけるクレーム発声事由の早期発見、早期対応、早期解決の原則という観点からは、まず問題発生現場でクレームを受ける姿勢がなくては、サービスの向上は見込めませんから。「機内で十分なクレーム対応ができない場合があります、その場合は相談センターにお問い合わせください」との修正が必要でしょう。

以上、具体的な要修正点を指摘させてもらいました。スカイマークが既存航空会社の誤った常識を覆そうとする姿勢には共感を覚えますが、この「サービスコンセプト」を通じて「うちはサービス業じゃない、貨物輸送業だよ」と宣言しているのならそれは大きな過ちであると気がつくべきだと思います。同社が自社を貨物輸送業であるかの如くに旅客輸送を捉えているのなら、旅客の安全性確保の観点からは国交省がスカイマークの認可を即刻取り消すべき由々しき問題であるのです。その意味では、この一旦回収されたサービスコンセプト・シートがどのように修正されて再登場するのかは、航空会社スカイマーク・エアラインの経営姿勢を諮る上で大変重要な問題であると思われます。14日にも再交付されるという改訂版「サービスコンセプト」、注目して待ちたいと思います。