日本一“熱い街”熊谷の社長日記

組織論の立場から企業の“あるべき”と“やってはいけない”を考える企業アナリスト~大関暁夫の言いっぱなしダイアリー~

「4S」翌日の「ジョブズ氏訃報」で、現実味をおびるアップルの“正念場”

2011-10-06 | ビジネス
アップルコンピュータのスティーブ・ジョブズ前CEOが亡くなったとロイター電が伝えました。アップル社の公式メッセージだそうです。はからずも3日連続でアップルネタを書くことに。世界中の注目を集めた新型iPhoneの発表が昨日。「4S」がユーザー、支持者、市場を落胆させた翌日に、彼らにさらなる落胆を与えることになるでしょう。

なぜ「5」でなく「4S」だったのか、なぜ商品戦略よりも販売戦略に注力したのか、すべての答えはジョブズ氏の容体にあったことが、リリース翌日の「ジョブズ氏の死」でより明確になりました。ジョブズ氏なら中途半端な「4S」のリリースも販売戦略優先のプロダクト・プラン移行もGOしなかったのではないか、イメージやブランドを何よりも重視してきたこれまでのアップル社の新製品リリースの流れを見る限り、誰もが思うことです。アップル社の今後は一層不透明になってきました。よりよい「5」のための「4S」ではなく、やはり止むにやまれぬ「4S」であったのかと・・・。

どこの世界でも、カリスマとは生きてこそカリスマであり、例え一線を退いていようともその威光は存命の限り明確な後ろ盾として企業を支え続けていくものです。しかし、一度亡くなってしまえばそれはもう「伝説」以外のなにものでもなく、「精神」として内部には影響力を持ちつつも競争相手にとっては畏怖心を振り払う好機になるのみです。ジョブズ氏の死でアップル社の株価がどれだけ下がるのか、氏の影響力の大きさはまずそこに現れてくるでしょう。氏が作り上げた強固なブランドイメージは、これを機として崩れていく危険性を大きくはらんでいます。

その意味では、競争相手にとってもジョブズ氏の死は大変大きな出来事です。「兵法」などもあるように、相手が弱った時こそ一気呵成の最大のチャンスであり、ここぞとばかりに攻め方を変えてくることも含め、スマートフォン戦争はジョブズ氏の死を境に大きく流れが変わるかもしれません。それは取りもなさず、これまでのアップル社の戦略が製品の中身の素晴らしさもありながらも、ジョブズ氏の計算し尽くされたイメージ戦略がプラスオンあって築きあげられたものであるからに他なりません。「5」ではなく「4S」、そして「ジョブズ氏の死」、この立て続けに起きたアップル社がらみの“凶報”は、強固に塗り固められたイメージのコスチュームをひきはがし、“裸のアップル”としての戦いを強いられることになるのではないかと思っています。

引き合いに出す例が違うのかもしれませんが、小手先戦略を繰り返すストリンガーCEO就任以降のSONYに創造性が感じられなくなりブランド・イメージを下げた原因は、経営ビジョンの“曇り”でした。今アップル社はジョブズ氏の後ろ盾なき体制下でまず何をめざすのかを、再度明確にし外に対して公言する必要があるでしょう。「4S」を巡る戦略にはそれが見えません。昨日「5」が「アップルの正念場」と申しあげましたが、同社の「正念場」は「5」のリリースを待たずに意外に早くやってくるかもしれません。