日本一“熱い街”熊谷の社長日記

組織論の立場から企業の“あるべき”と“やってはいけない”を考える企業アナリスト~大関暁夫の言いっぱなしダイアリー~

iPhone4S発表で見えた、アップルのしたたかさと先行き不安

2011-10-05 | ビジネス
昨日、iPhone5をauが独占販売かという憶測記事に関連して瑣末な文章をアップしたので、アップルの公式発表を受けて自分なりの決着をつけておきたいと思います。

各報道既報の通り、アップルの新製品発表はiPhone5ではなくiPhone4Sであったと。今朝のロイターによれば、市場には落胆が広がって同社の株価を一気に押し下げる結果になったとのことです。

我々の関心事は国内販売権の問題。既報の通りauはこのiPhone4Sの販売権を獲得したそうでソフトバンクも引き続き販売を続けるようですから、昨日の憶測記事とは違い2社競合の状態で当面iPhone利用者囲い込み競争が展開されることになるようです。利用者かの立場から見れば、キャリア選択の余地がない1社独占販売から2社競合に移行することは、サービス、価格の面から歓迎すべきことであるでしょう。通信その他のサービス状況と契約パッケージとの比較検討の上で、個々人の価値観に応じてキャリアを選ぶステージに移ることになるのですから。

さてこうなると、この時期におけるアップルのauへの販売権付与の目的はなんであったのかと言う点が気になります。「5」でなく「4S」であった、この事実を発表した段階での市場の落胆ぶりは事前にアップル社が一番良く分かっていたのではないかと思います。つまり、市場の落胆を招くような新製品の発表であるなら、従来キャリアオンリーでの販売継続では新たな顧客の囲い込みも同一キャリア内での新機種への買い替えも思うに任せないのではないかと考えるのは当然の流れと思います。そこで考えた方策は、新通信キャリアへの販売権の拡張による「4S」販売増強策です。米国では新たにSprint社に一定期間の独占販売権を付与したというもの全く同じ理由によるものである訳です。

アップルとすれば、「ソフト→au」というキャリア間の移動であろうとも新機種の販売には違いがない訳で、国内で2キャリア間のカニバリズムが発生しようともまずは台数をより多く販売することには何ら問題がないのです。仮にソフトバンク単独販売を継続したならば、スペック面の向上にとどまった「4→4S」への今回のアップグレードでは、同一キャリア内での機種変更の強い誘因要因にはなりにくいわけで、競合他社を参入させることで表面上のカニバリズムを誘発しながら自社製品の販売数を確実に確保するというしたかかな戦略をとったと見て取ることが出来ると思います。もちろんauは相当数の販売ノルマを背負わされてのスタートであることは間違いありませんから、アップルとしては「4S」販売のこの時期を考えればむしろ「してやったり」なのかなと。この部分だけを見れば、“持てる者の強み”を最大限に活かしたアップルの凄みすら感じさせられます。

気になるのは今回の市場を落胆させた4S発表にとどまった新商品戦略の方です。やはりジョブズCEO退任の影響と見ざるを得ないのでしょう。人一倍ブランド戦略に気を遣い、人並み外れたプレゼンテーション力で、新製品リリースのたびに企業価値を高めてきたジョブズ氏ならば、果たして今回のような販売数確保を優先するような中途半端な新製品戦略をとったでしょうか。今回の「4S」発表から見えてくるものはジョブズ氏後、早くも曲がり角に来たアップルの経営軸の問題ではないかと感じています。同じ手は2回は使えません。iPhone5がいつどのような形でリリースされるのか、スマートフォン戦争の行方とアップル社の浮沈はすべてそこにかかっている、そんな印象を強くさせられました。