日本一“熱い街”熊谷の社長日記

組織論の立場から企業の“あるべき”と“やってはいけない”を考える企業アナリスト~大関暁夫の言いっぱなしダイアリー~

大切にしたい、ネット販売時代の「対面営業」

2011-05-26 | 経営
ネットニュースのJ-CASTさんのページで営業に関する原稿を書かさせていただいておりますが、私の原稿に対するコメント欄への反応を見るに、ネット世代の「販売」に関する意識の違いには驚かされることばかりです。連載開始前に編集者の方から、その辺の事前レクチャーはいただいてはいたものの、予想以上の現実にやや面食らっております。とにかくネットで販売できるものは、コストが圧倒的に安いのだからあえて人的営業、対面販売するなんて今時ナンセンス、と言わんばかりの反応が続々なのです。

特に訪問販売に対しては「時代錯誤」と切り捨て、嫌悪感にも似た敵対的な感情をあらわにすることが著しく、全否定に近い反応を見せられてちょっと驚いています。私が銀行にいた数年前でも新規先訪問営業は常識でしたし、今でも基本は変わらないと思います。コンサルティングの立場から見ても、飛び込み営業を拡販の軸としているビジネスモデルは企業は規模を問わずまだまだ沢山ありますし、実際熊谷の我が家にも事務所にも、毎日ではありませんが結構いろいろな訪問営業がやってまいります。もちろん、私自身玄関先まで出て話を聞くケースは決して多くはありませんが、個人的には相手の顔を見ながら話が出来る分だけ“顔のない”見知らぬ先からのメールセールスや電話セールスよりは、相手の風貌や話しぶりによっては聞く気にさせられるものです。

ネット販売が悪いことであるとは思いませんが、基本的にネットで販売を競うモノは購買側の可否判断は客観的データ比較に偏らざるを得ず、決定は価格に依存する部分が圧倒的に大きいと言えます。「カカクコム」のようなページがもてはやされるのも、まさにこのようなネットの特性を表わしたものであると言えるでしょう。その意味では「ネット営業」なる言葉自体は存在するものの、どうも「営業」というものとはかけ離れた世界であるように思えてなりません。と言いますのも、私の持論は「価格営業は営業に非ず」でして、「価格」争いをしてモノを販売したり仕事を獲得したりすることは営業の仕事ではないと思って止まないからなのです。では「営業」の仕事とは一体何なのか?

私は、「営業」とは商品を売る仕事ではなく付加価値を売る仕事である、と事あるごとに話をしています。そう自社の付加価値、自身の付加価値、言ってみればこの商品を売ると「もれなく何がついて来るのか」をアピールして、その部分を他社と比較してもらい買ってもらうのが「営業」の仕事であり「営業」の醍醐味でもあるのです。そのために求められるモノがコミュニケーションであり、コミュニケーションのないところに「営業」は存在しないのです。法人営業、個人営業問わず、飛び込み先でも既存取引先でも、コミュニケーションを重ね、自分や自社への信頼感を勝ち取って取引獲得につなげることこそが正しい「営業」のあり方であり、ネット時代になったからと言ってすべて価格のみでモノが決まり「人的営業」は不要などということはあり得ないですし、それでは寂しすぎます。

子供の頃から外の社会的サークルの中で遊ばずに、テレビゲームと塾通いで育った世代はどうもコミュニケーション力に欠けるように思います。コミュニケーション力の欠如とIT礼賛の体質が、価格偏重の「ネット営業」を究極の販売手段と崇め「人的営業」を非効率で不要なものと切り捨てる、そんな流れを生んでいるのではないかと感じさせられもします。彼らがビジネスシーンの中核を担う時代になったときに(もうすでになりつつあるのかもしれませんが)、果たして世の「営業」の常識はどうなってしまうのか、なんとも不安な気持ちにもさせられます。商売においても、人と人との直接対話があるから生まれるプラスアルファの「付加価値」こそがビジネスの喜びであったりもする訳で、相手の顔を見ることのない価格偏重の商売が幅を利かすなら、あらゆるものが客観的データばかりで判断されたネットゲームと化してしまい、日本のビジネス先行きはあまりに暗いのではないかと思うのです。

現在J-CASTさんでやらせていただいている連載では、ネットの世界では味わえないコミュニケーションを軸とした「人的営業」「対面営業」の素晴らしさや面白さを、少しでも若い世代に伝えていけたらと思っています。

★J-CASTにて好評連載中「営業は難しい~ココを直せばうまくいく!/大関暁夫」★
http://www.j-cast.com/kaisha/column/kokonao/index.php