日本一“熱い街”熊谷の社長日記

組織論の立場から企業の“あるべき”と“やってはいけない”を考える企業アナリスト~大関暁夫の言いっぱなしダイアリー~

ビンラディン“処刑”という平和賞大統領の選択は正しいのか?

2011-05-04 | ニュース雑感
アルカイーダのウサマ・ビンラディン指導者が、潜伏先のパキスタンで米特殊部隊により襲撃・銃殺された一件について。国際テロ組織であるアルカイーダの指導者でかつ9・11事件の首謀者とされるビンラディン氏は、民主社会においては憎むべき存在であることは疑いのないところではあります。しかし、本作戦終了後に出された「米国民にとって最良の日」といった趣旨の大統領声明命を聞くにつけ、そもそもビンラディン氏の命を奪うことを目的としていたととれる本作戦は、果たして相手がどんなに悪い人間であってもこの“私刑”的対処が本当に人道上正しいやり方であったと言えるのでしょうか。また、ブッシュ前大統領が「戦争」と位置付けたテロ組織との戦いをまんま容認するかのような声明が、平和主義を前面に打ち出しノーベル平和賞を受賞した世界のリーダーとしてふさわしいものであったのでしょうか、個人的には考えさせられる部分が多いように感じています。

なぜなら、今回の作戦の目的は本来的には身柄拘束であるべきで、9・11事件の指揮命令の全容を解明することはテロ撲滅および世界平和維持の観点からは重要な視点であり、単に「復讐法」的な報復攻撃は問題の根本的な解決にはつながらないと考えるからです。しかし、もし米国政府が身柄拘束を目的として本作戦を進めていたのなら、「米国民にとって最良の日」という大統領声明はあり得ない話であり、少なくとも「身柄を生きた形で確保することができず誠に残念」といったものになったはずです。すなわち、本作戦がビンラディン氏殺害を第一目的としてたことは明白であり、ノーベル平和賞受賞者としてこの選択が果たして正しいものであったのか、いささか疑問に感じることろです。しかも、大統領はクリントン国務長官らと共に、“処刑の瞬間”を特殊部隊のヘルメットに仕込まれたカメラ映像を通じて生中継で見ていたと言いますから、我々日本人の感覚からすれば、とうてい尋常な神経の持ち主とは思えない残忍さも感じるのです(大統領は“ターゲット”の左目が撃ち抜かれる瞬間を、食い入るように見ていたそうです=写真?)。

なぜ、この時期に米国政府がビンラディン氏の“処刑”に踏み切ったのでしょう。聞くところによれば約1年ほど前からビンラディン氏の所在を米政府はほぼ把握をしていたそうで、約7ヵ月間にわたって入念な作戦協議がなされていたとか。あとはいつどう対処するのか、絶大な権力を握る大統領の手に委ねられていたハズです。作戦強行のポイントになったのは昨年11月の中間選挙ではないでしょうか。ここでオバマ氏率いる民主党は全米各地で歴史的な大敗を喫しました。就任時とは一転、リーマンショックから“強いアメリカ”の復権を目指したハズが、国内において効果的な政策をうちだすことが出来きず支持率を下げたばかりか、昨年のオリンピック開催地選びでも直接応援に駆け付けながら真っ先に落選するなど、国際的にも国の威厳が地に落ちた感があり、来年の再選をかけた大統領選への危機感が大きくつのっていたことはまぎれもない事実であったと思います。

10年前に9・11事件が発生した時、前年の大統領選を大接戦の末かろうじて勝利し国民支持の盛り上がりに欠けていたブッシュ大統領はこれを「戦争」と位置付けて、自らが呼びかける「復讐戦」の旗印もとに国民の支持を高めることに成功しました。これは一言で言えばアメリカ人の狩猟民族としての性を利用した“知能犯的支持率向上策”であった訳ですが、白人、黒人の違いはあっても同じアメリカ人政治家であるオバマ氏がこれを見逃すはずがありません。リーマン以降の政策的低迷による民主党の大敗と自身の支持率の低下に手を打つには、来年の大統領選に向けて策を講じるには早すぎず遅すぎずのこのタイミングは好都合でもあり、ブッシュ前大統領の戦術と同じ狩猟民族の血に訴えかける「復讐戦」の実行は、その“切り札”になりうると判断したのではないかと思うのです。そう考えると、先の平和主義者らしからぬ大統領声明は、再選に向けた国民へのアピールメッセージとして合点がいくのです。

仮に相手が、史上稀に見る国際凶悪犯であったとしても、法の下の裁きによらず“私刑”的な制裁を下すことが本当に正しい選択であるのか。しかも、もしもそれが国内の政治的な優位を勝ち取るためと言う至って私的な目的であったとしたら、なおさらどうなのか。米大統領の選択したやり方は、戦争のない世界の実現や世界の恒久的平和の実現と言う観点から見た場合、どう評価すべきであるのか。米国に対して各国民や各国メディアがどのような反応をみせてくれるのか、今後の国際世論の動向は大いに注目に値します。