日本一“熱い街”熊谷の社長日記

組織論の立場から企業の“あるべき”と“やってはいけない”を考える企業アナリスト~大関暁夫の言いっぱなしダイアリー~

〈70年代の100枚〉№72~(リズム+ホーン)×ハーモニカ=WAR

2009-05-31 | 洋楽
EW&Fに引き続き、ブラコン、ファンク系のバンドを取り上げます。

№72    「世界はゲットーだ!!/ウォー」

ウォーは60年代末期にLAで結成され、ホーン・セクションを傭する黒人バンドとして地道なライブ活動を続けていました。70年代に入り、バックメンとして黒人バンドを探していた元アニマルズのエリック・バードンが彼らを雇い、「エリック・バードン&ウォー」としてメジャーデビュー。エリックのネームバリューも手伝って、いきなり注目を集めます。しかしラテン、ジャズ、ゴスペル、ブルーズ…、黒人音楽のルーツを融合し新たなサウンドに昇華させた彼らの音楽は、ほどなく「黒人音楽に憧れた英国人リーダー」エリック・バードンの手には負えなくなり、エリックは71年のツアー中に失踪、元人気ロック・スターの“看板”は取り払われ「ウォー」単独での再出発を余儀なくされたのです。

71年単独デビュー作「ウォー」こそ空回り気味だったものの、続いてリリースされた「オール・ディ・ミュージック」からは2枚のスマッシュ・ヒットが生まれ、大胆なインプロビゼーションを繰り広げるテクニック丸出しのライブも評判を呼びます。そして72年リリースの本作「世界はゲットーだ!!」は全米№1を獲得。シングル「シスコ・キッド」が2位、「世界はゲットーだ!!」が7位を記録し、ウォー旋風が全米中に吹き荒れたのです。

彼らのサウンドの独自性の象徴は、エリックが連れてきたデンマーク人ハーモニカ奏者のリー・オスカーでしょう。彼はエリックが去った後もバンドの要として活動を続けます。ヨーロッパ系白人の彼が奏でる黒人音楽とは古くから縁深いハーモニカという楽器の独特な味わいが、ホーン奏者チャールズ・ミラーの演奏やパーカッションとの絶妙なバランスで混じり合い、まさに新しい音楽ジャンルを生み出したと言えるのです。ギター、ベース、ドラム、キーボードとホーン1名、ハーモニカ、パーカッションという変則的なバンド編成も、他にはない独特の創作物を作り得た要因であると思います。

さらに彼らの音楽は、スタジオで繰り広げられる自由なジャム演奏を後から編集するという手法にも、その大きな特徴があるように思います。決して予定調和的でないライブ感あふれるスリリングな演奏が発するインパクトの強さは、当時のどのバンドにも勝るものであり、ジャムに始まりジャムに終わる彼らの創作スタイルがあればこそメンバー唯一の白人ハーモニカ奏者リー・オスカーの演奏を、時には攻撃的に時にはメロディアスにバンドに調和させ、独自のウォー・サウンドを成立し得たと思えるのです。

彼らの音楽に込められた主張も、無視できません。「世界はトラブルに満ちている」と当時の世界の混迷とLAの実情をダブらせて歌う「世界はゲットーだ!!」は、まだまだ人種差別が色濃く渦巻いていたLA生活を、黒人の彼らであればこそ可能な強い訴えかけで表現したものでありました。「The World Is A Ghetto」って今思うとすごいタイトルです。本作は、まさに70年代前半という変革の時代の断片を象徴する作品であると言っていいでしょう。ジャケットのアイロニーに満ちたイラストも実にイカしています。

当時日本では、ビートルズを傭しPR資金豊富な東芝EMIが発売元であったため、彼らはけっこう力を入れて宣伝されそこそこ人気を得ていたように記憶しています。その甲斐あってか確か来日公演もあったような(稀にみるガラガラだったと聞いた気もしますが)。彼らの作品が及ぼした、その後のブラコンやクロスオーバー、フュージョンへの影響は決して小さくありません。昨今70年代を語る際に彼らの名が出てくることは非常に少ないようですが、もっともっと語られていいバンドではないかと思うのです。本作と併せて、よりポップでシティ派のアルバム「仲間よ目を覚ませ!」もオススメします。