日本一“熱い街”熊谷の社長日記

組織論の立場から企業の“あるべき”と“やってはいけない”を考える企業アナリスト~大関暁夫の言いっぱなしダイアリー~

ブックオフへの旧勢力出資は、書籍業界大変革の発火点

2009-05-13 | マーケティング
ブックオフコーポレーションは13日、筆頭株主のアント・DBJ投資事業有限責任組合が大日本印刷、丸善、講談社、集英社、小学館、図書館流通センターの6社に同社株式を譲渡する契約を締結したと発表したそうです。これは大変なニュースです。

そもそもブックオフは、「古本屋さん」を新たなビジネスモデル化して大成功した書籍販売業界バスターだった訳です。同社登場以前の「古本屋さん」は、どの店も言ってみれば街の片隅で、じいちゃん、ばあちゃんの店番が暇つぶしの小遣い銭稼ぎ程度の商売として細々営業していた訳でチェーン展開などあり得ず、再販制度に守られた書籍業界は棲み分け済みの弱小ビジネスとして問題視することはなかったのです。

古本屋をチェーン展開できなかった最大の理由は「目利き商売」という、買い取り価格決定に専門的知識が必要とされている点でした。ところが、ブックオフは「目利き不要」の全店統一買取基準を設けて、バイトでも買取業務ができるというまさにコロンブスの卵的ビジネスを生み出したのです。そして、急成長と多店舗展開、さらにはそのビジネスモデルをまねた同業の乱立と、若者の“活字離れ”と相まって時代の寵児的掟破りビジネスの出現に、書籍出版業界には大きな衝撃が走ったのでした。

新刊本対中古本、この戦いは減少しつつあるパイを奪い合う、言ってみれば減少する総和をゼロサム・ゲームで争う不毛な戦いだった訳です。特に新刊本業者にとってみれば、防戦一方の死すべき運命を背負わされた苦しい戦いに違いありませんでした。今回の新刊本陣営のブックオフ出資の流れは、まさに敵の軍門に下り新旧手を組んでの消費者取り込み戦略にようやく決断したという結果である訳です。

考えて見ればネット書店のアマゾンも早くから、新刊本と併せて中古本も同じページから購入できるという、消費者により幅広い選択権を与えた販売方式を構築しており、ある意味今回の出資は遅すぎる決断であったとも言えるのです。書籍ヘビーユーザーの私などは、本の種類や購読目的によって新刊と中古の使い分けをしており、アマゾンの新旧併売方式は非常に重宝している訳です。消費者の側に立てば容易に分かるサービスのあるべき方向感であり、既得権益を守りたがる古い業界体質がここまで決断を遅らせたのではないかと考える次第です。

商品の流通方式が消費者の意向に合わせる形で変革を遂げることは、大変好ましいことであり、消費者志向の新たな流通方式が軌道に乗った場合、その変革の速度は想像を絶するスピードになることが間々あります。例えば、音楽ネット配信のアップル社itunesミュージック・ストアはipodという革命的音楽再生機器の普及との相乗効果で音楽ソフト販売における流通革命を起こし、03年サービススタート以来5年足らずで音楽ネット配信の圧倒的なシェア拡大を後押しし、今や国内でもCDの売上は激減(音楽の国内ネット配信販売は、06年の段階でシングルCD販売枚数を既に上回っています)、リアルのCDショップ・チェーンは縮小の一途を辿るに至りました。

今回の書籍流通革命につながる出資の決定は、このような観点から業界における大変革の発火点になりうると見ています。新たなビジネスチャンス開拓の観点から見れば、我々のような対消費者エリアのビジネス・パーソンにとって目が離せないマーケットになりそうです。書籍業界の“ipod探し”、かなり興味をそそられるテーマですね。