日本一“熱い街”熊谷の社長日記

組織論の立場から企業の“あるべき”と“やってはいけない”を考える企業アナリスト~大関暁夫の言いっぱなしダイアリー~

経営のトリセツ35 ~ 「無駄」という名の「資産」活用法

2008-07-03 | 経営
どこもここも聞こえてくるのは値上げの話題ばかり。一般市民は一斉値上げに“音あげ”気味です。と言うわけで、一昨日の続き的に「経営のトリセツ」を…。

値上げ、値上げで苦しい時、企業はどうしたらよいでしょうか。前回お話ししたように、値上げの正当性の検証をして“便乗”に乗せられないことも大切ですが、何と言っても「利益の積み増し」の努力をすることが、一番の乗り切り策であることは確かです。

「利益の積み増し」などと言うと、「そんなに簡単にいくなら苦労しないよ」という声が聞こえてきそうですね。確かに、「利益の積み増し」=「売上増強」というイメージが強いのですが、「経費削減」も「利益の積み増し」の大きな要因であることをお忘れなく。

「売上」は増えてもまんま「利益」になる訳ではありませんが、「削減」は減った分がすべてストレートに「利益」上乗せとなる効果があります。値上げラッシュの今、すぐできる社内努力の基本は、値上げで苦しくなる分を別のどこかの「削減」で埋め合せきないかと考えることでしょう。デフレ時代に実践した「無駄の排除=削減」を今再び活かす時なのです。

90年代以降のデフレ不況期に、どこの企業でも「経費削減」は多かれ少なかれ取り組んでいるハズです。その折りに平時には気がつかなかった「削減」できる「無駄」の多さに驚いたのではないでしょうか。お忘れの向きもあるといけませんので、「無駄」な「経費」の「削減」の基本をおさらいしておきましょう。

「経費」は大きく分けて3種類、「エネルギー関連」「オフィス関連」「オペレーション関連」に分けられます。「エネルギー関連」は、イコール業務用の光熱費。一昨日都市ガスは一定金額で交渉の余地なし、のような話をしましたが業務用は違います。法人の場合、使用ロットに応じて単価設定されており、定価制ではないので交渉の余地ありです。

電力、ガス、水道すべて、値上げ申し入れには妥当性検証で最低限の値上げに抑える押し返しをしましょう。今回は手遅れかもしれませんが、できることなら、先に現単価の値下げ交渉に打って出て、後から出される先方の今回の値上げ提示と相殺で結果「据え置き」を勝ち取るのが理想です。折衝事は何事も先手必勝ですからね。工場などお持ちで、エネルギー使用量が多い企業はぜひとも折衝してください。

「オフィス関連」は主に管理部門の運営経費です。対策は無駄の「節約」。とにかく無駄な電灯の消灯や無駄な機器の削減など徹底的にチェックが必要ですね。コピー枚数の節約(プリンターで印刷できるものはコピーより安価なプリンターを使用する等)は、「常時消灯運動」同様社員への意識の浸透が不可欠です。消耗品、備品の購入は、セクションごとバラバラ発注ではなく、全社まとめてロットを稼ぎ、さらに人手を介さず低コストのネット通販利用の可否検討がポイントでしょう。

先の「エネルギー関連」もそうでしたが、法人契約モノは、相場が分からず相手の言い値で高い契約になっているケースがあるようですから、見直しの最重要ポイントです。コピー機の利用契約、賃貸契約、保守契約、セキュリティ契約等々、契約モノはすべて見直しの対象とするべきでしょう。デフレ期に見直したものでも、ダメ元で再チャレンジ。まず行動あるのみです。契約モノはとにかく情報を取ることです。同業他社はいくらを提示するか、知り合いの会社は同様のサービスをいくらで契約しているか。知ってびっくり、大いなる「払い過ぎ=無駄」に気がつかされることもあります。

「オペレーション関連」は、人と物流にかかるコストです。人件費はナーバスな問題なので、いきなりの給与カットはどうかと思いますが、これを期に思い切った人員の有効活用をはかることは大切です。二人でやっていた作業を工程の見直しで一人で完結させ、浮いた人員を他で活用して臨時雇用を減らす等は最低限実施しなくてはいけません。各部門の責任者に業務効率化手案を競わせて、人員の有効活用に成功している例も聞いています。もうひとつは、残業の管理徹底。無駄な残業、付き合い残業はないか、この点の管理を徹底しただけで、大幅なコスト削減になった例はたくさんあります。

物流は、何と言っても車両の台数ですね。全員が車で出かける場合まで想定して、営業に1人1台の車を配備しているとか、多数の車両を所有している会社も間々あります。本当に必要な最低限の車以外は削減の対象として思い切った見直しをしてみるのもいいでしょう。車両に限らずですが機器類は、ひとつひとつ「なくなったらどうなるか」を考え、どうみても「なくなったらどうにもならない」「なくなったらあまりに非効率になる」もの以外は、削減対象として検討すべきかと思います。

「削減」の話が長くなりました。最後に本論、「無駄」に関する私の持論です。

企業というものは、たいていその成長過程において「無駄」に目をつぶって大きくなっていきます。「無駄」を気にするより「成長」優先だからこそ大きくなるわけです。この「無駄」を「無駄」のまま抱えていることで、いざ困った時に「無駄」を「削減」してら自ら救援物資を生み出すことができるのです。すなわち、いつ起きる可分からない「有事」を考えて、ある程度の「無駄」に目をつぶることは企業経営のバッファーの取りおきになると言えるのです。言い換えれば、企業はその成長の過程において知らず知らずに「無駄という名の資産」を蓄えているのです。

今回の一斉値上げに、苦しむ企業はとりあえず苦しみが「緩和」されるレベルまでは、「無駄」を「削減」し「利益」に換えますがやり過ぎはいけません。それは、資産である「無駄」の急激な「削減」で社内を必要以上に疲弊させてしまう恐れがあることと、次なる「有事」に備え多少の「無駄」はとって置く必要もあると考えるからです。

経営者が徹底的にやれる限りの「無駄」の「削減」が必要と考えるなら、それは企業の存続が絶望的に危うい状態であり、その段階では経営者はもはや自社の資産の活用である「無駄」の「削減」をはかるより先に、抜本的な支援策を外に求める決断をすべきなのです。