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日本一“熱い街”熊谷の社長日記

組織論の立場から企業の“あるべき”と“やってはいけない”を考える企業アナリスト~大関暁夫の言いっぱなしダイアリー~

“進化”を続ける日本企業のマネジメント・スキル

2009-07-03 | ブックレビュー
昔懐かしい「マッキンゼー式世界最強の仕事術」が文庫で出ているのを見つけ(とは言っても文庫初版は06年刊のようです)、思わず衝動買いしてしまいました。

★「マッキンゼー式世界最強の仕事術(イーサンMラジエル著ソフトバンク文庫660円)」

この本はもともと01年にハードカバーで出版されたもので、今回は文庫化による廉価版出版です。01年当時はけっこう話題になった記憶はありますが、文庫化されるぐらいですから売れ行きもかなり良かったということなのでしょう。もうひとつ、私の記憶。01年当時は比較的マイナーな出版社(英治出版)から地味な装丁で出されていたと思います。それがまた米国大手コンサルティング・ファームの秘密のノウハウを、こっそり教える禁断の書のイメージでもあり何とはなくワクワクさせられたものです。

さて、中身は“世界のマッキンゼー”で勤務経験の著者が、マッキンゼーの思想、スタイル、教育等に関して、一般のビジネスマンにも役に立つような切り口で書き連ねたものです。MECEの考え方、問題解決アプローチ、インタビュー・ノウハウ、プレゼン手法、チャート作成、コミュニケーション戦略等について、具体例をひきながら説明しています。こう記すと、「な~んだ、今よくあるカリスマ・コンサルタント本じゃん」と思う方も多いかもしれません。ちょっと待ってくださいよ、忘れちゃいけないのはこの本が出たのは、今から8年も前のことであるということ。勝間和代も小宮一慶も細谷功も世に出るはるか前のお話です。でありながら、今彼らが執筆している売れ筋“コンルタント本”の大半が、この本がネタ本なのではと思うほど近しい内容なのです。

つまり流れを逆に見てみると、今「コンサルタント本」がバカ売れする時代になったことで、便乗商売的にこの本が文庫再発されたというのが正しい解釈であるようです。今回の出版元はと言えば、商魂たくましいソフトバンクですし、さもありなんですよね。10年近くも昔の本ですから、今読むとやや食い足りなさも感じさせますし(例えば「フレームワーク思考」などは、当時はまだ“門外不出”であったのか、ほとんど触れられていません)、今の「コンサルタント本」の方がはるかに実践的で中身も濃いのかもしれませんが、「原点」を知る意味ではなかなか興味深い書籍であります。余計な加工を施されていない“原石”であるという観点でみれば、至ってオリジナルな世界的コンサルティング・ファームの精神を学ぶことができる、なかなかの良書であると思います(マッキンゼー出身の“大前研一氏的”「問題解決法」の根っこが垣間見れたりもします)。

また、内容そのものをひとつひとつ見てみると、今の時代にはもはや“目から鱗”的お話はほとんどないに等しいのですが、その事実はむしろ、専門ノウハウの一般への伝播による“進化”の早さを感じさせたりもするのです。これは先の“カリスマ・コンサルタント”たちの、精力的な執筆活動の成果であると言ってもいいでしょう。8年前には経営者にとってもビジネスマンにとっても、目新しくある意味興味津々に受け止められたマッキンゼー・スタイルが、今や日本のビジネス・パーソンにとってはごく普通のマネジメント・スキルとして受け止められる時代になった訳ですから。大変な“進化”です。

01年と言えば日本が金融危機から這い上がる最中の、ある意味最も企業にマネジメント・スキルに対する吸収力のある時代でもありました。戦後の高度成長が敗戦からの再建パワーのなし得た産物であったように、日本企業は逆境を乗り越えるたびに必死に新しいノウハウを身につけスキル・アップしてきた訳です。翻って今は、昨年来の“100年に一度の大不況”からの回復局面にあり、ある意味01年当時以上に、日本企業のマネジメントには吸収力が期待できる時期でもあります。今後さらに8~10年の後には、「ブルーオーシャン戦略」など今はまだ目新しい外来の経営戦略が、ごくごく普通のマネジメント・スキルになっているのかもしれません。8年前に書かれたマッキンゼーのノウハウ本を、今改めて読んでみて、そんな事を感じた次第です。

“続”「子供に携帯を持たせるな決定の是非」

2009-06-30 | ブックレビュー
昨日の話に関連して、最近読んだ本の中身に少々ブックレビュー的に触れてみます。

本は「2ちゃんねる」創始者で現「ニコニコ動画」管理人の西村博之氏の最新刊、「僕が2ちゃねるを捨てた理由(扶桑社新書740円)」です。少々難しくなってきたと感じていた最近のネット事情に、少しはキャッチアップしておこうという目的で購入しました。前半は、クラウド・コンピューティングやWeb2.0に関する誤解の話に始まって、ネット広告の最新事情、さらにはネット、テレビ、新聞、雑誌をひっくるめたメディア論まで、口述筆記によりまとめられています。後半は、日本テレビの元「電波少年」名物プロデューサー土屋敏男氏とのメディア論対談です(この部分はかなり“埋め草”的です)。全体を通して眺めると、よくある基調講演とパネル・ディスカッションのセット・セミナーみたいな本ですが、一応最新のネット事情はおぼろにつかめる内容です。

昨日取り上げた子供向け情報フィルタリング(情報隔離)のあり方についても、本書冒頭でとりあげられるいくつかの「大いなる勘違い」のひとつとして触れられていますので、少し紹介しておきます。彼の結論は「情報のフィルタリングは教育でせよ」とのこと。事件が起きるとすぐに情報をすべてフィルタリングして子供たちから遠ざけようとするのは間違っていて、そんなことよりも見せても大丈夫な教育をすることが大切であると、昨日の私の意見とほぼ同じことを説いています。さらに彼は、大人がすぐにフィルタリングで“臭いモノに蓋”をしたがるのは、ネットやSNSや掲示板の何たるかを分かっていないからであり、「得体の知れないもの→妙なレッテルを貼る→確認せず蓋」は間違っていると述べています。全く同感ですね。

彼はこんなことも言っています。
そもそも掲示板サイトとか、学校裏サイトとか、利用している大半の人間は普通に交流を楽しんでいるのであって、悪用するのはごく一部。つまりまるでニューヨークのダウンタウンが、行ったこともない人間たちから「危険な場所」のレッテルを貼られているのと同じだと。しかも掲示板や裏サイトがイジメの温床であるかのような言われ方をされているのも、おかしい。イジメはネット・コミュニケーションが登場するずーっと前から存在する訳で、ネットばかりを目の敵にするのは得体が知れないからだとも。

本当にその通りであると思います。裏サイトでの書き込みが原因で自殺に至ったとかは確かに悲しい事件ですが、これをネットに責任転嫁をすることは間違っているのであって、むしろ小学生から若手社会人も含めた最近の若者たちが我々世代に比べて圧倒的に精神的にひ弱になっているという事実を、教育的見地からもっともっと考える必要があるように思えるのです。この点で私は個人的に、子供時代に外で遊ばなくなったことにこそその大きな原因があると感じています。すなわち我々の時代は、外で毎日近所の子供たちと集団で遊ぶことで「ガキ大将」も「ちょうちん持ち」も「使いッパシリ」もその中に自然と生まれてきて、知らず知らずに人間社会の構造や力関係、世渡りコミュニケーションなどを学ぶことができたのです。それがここ20年ぐらい、なくなって久しい訳で…。この経験の欠落こそが若者をひ弱にしていると思うのです。

さらにその原因は何かと言えば、偏差値教育の浸透と学校教育のレベル低下がもたらした、「お受験」「塾通い」が当たり前になってしまった“教育の常識”の変質にこそあると思います。外で遊ぶよりも「塾通い」という子供時代の生活が、社会経験不足のひ弱な若者を大量生産するといういう構図は、まさに日本の学校教育の地盤沈下がもたらした悲劇と言えるのではないでしょうか。そんな背景がありながら、世間では子供に対し石川県の携帯電話のような「臭いものには蓋」的“過保護”フィルタリングですから、益々ひ弱な若者を作りだすことに輪をかけてしまうに違いないのです。

今なすべきは、政治家や先生などの偉いオジサンもオバサンも、偉くない普通のお父さんお母さんも、西村氏が言うところの「得体の知れないもの→妙なレッテルを貼る→確認せず蓋」的なやり方は改めて、「得体の知れないもの」はまず自ら確認して本当の姿を知ること。その上で子供たちを「現実」から遠ざけるのではなく、「現実」に相対することができる教育を施す、常にそのやり方を忘れずに愚直に繰り返していくことこそが、未来を担う子供たちを“骨太”にする大切なポイントであると思うのです。

ちなみに本の採点は、10点満点で6点。前半だけなら面白く読めてタメにもなるので8点レベルなのに、後半の安易な“ページ稼ぎ対談”はどう見てもイカさないです。このあたりが、「扶桑社=フジ・サンケイ・グループ」たる所以という気がしますね。

息抜きブックレビュー ~ 放送禁止映像大全/天野ミチヒロ

2009-06-16 | ブックレビュー
★「放送禁止映像大全/天野ミチヒロ(文春文庫714円)

今回は少々趣向を変えて息抜きの一冊です。タイトルからもお分かりのように、昭和の時代から現在に至る100以上のテレビ、映画の「放送禁止映像(一部は禁止指定はされていないもののグレーな映像を含む)」を一同に集め、どの作品のどの部分が問題になり現在“お蔵入り”となっているか等々を詳細に解説してくれています。

テレビモノでは、有名どころだけでも古くは「ザ・ガードマン」に始まって「太陽にほえろ」「大都会」「特捜最前線」「西部警察」「必殺シリーズ」「ウルトラセブン」「マグマ大使」「キカイダー」「オバケのQ太郎」「パーマン」「巨人の星」「サイボーグ009」「タイガーマスク」等々、懐かしくもそうそうたるタイトルが目白押し。他にも無名作品や映画モノも多数紹介されています。すべてがすべて放送禁止ではなく、一部音声オミットやモザイク処理、タイトル変更モノなどもありますが、これだけの“問題作品”を一同に会して紹介している書籍は、ちょっと他では見当たりません。

例えば、「ウルトラセブン」では第12話がある差別問題によって永久欠番となっており、映像化はもとより書籍でも一切紹介されていないとか、「新・必殺仕置人」では第二話のみ再放送されていないとか、「オバケのQ太郎」に至っては人種差別問題に抵触する表現から85年以降再作成の映像以外、書籍も含め現在は一切封印されているとか(以上の詳しい理由は本書をご覧ください)。まぁ調べも調べたり、とてつもなく読みごたえのある“息抜き本”であります。

こんなとんでもない大作を書いているのはどんな奴だとプロフィールを見れば、作者は私と同年代の「UMA(未確認生物)研究家」とか。一体何をして食べている人物なのかよく分からないのですが、これだけの放送禁止作品群のほとんどをその目で確認して本書を書いているという、半端じゃないオタッキーぶりにはただただ脱帽です。

放送禁止の大半の理由が「差別表現」によるもので、「差別」に対してまだまだ後進国であった昭和の日本では、今ではとても信じられないような表現を使用した作品がたくさん作られていた訳です。その意味では、ここに掲載の作品たちは現在求められているあるべき「ホスピタリティ」を探る上での“合わせ鏡”のような存在でもあり、また我々が育ってきた戦後復興右肩上がりの昭和時代のひとつの側面を知るいい機会にもなる書籍であると思われます。2005年出版の書籍を加筆・修正して文庫化したもののようですが、関心のある方はぜひ一読を。いろいろためになります。

“息抜き本”につき、点数はつけません。

売れ筋ブックレビュー~「地頭力のココロ/細谷功」

2009-05-27 | ブックレビュー
☆「地頭力のココロ/細谷功(ソフトバンククリエイティブ(1575円)」

著作「地頭力を鍛える」でコンサルティング・ファームの入社試験で問われる「フェルミ推定」の方法論を紹介し、昨年前半に「地頭力ブーム」をつくった著者の最新刊です。今回もまた「地頭力」を冠に配しておりますが、今回ははっきり申し上げて看板に偽りあり!この本には「地頭力」の基本となる「フェルミ推定」に関しては、“フェルミのフェの字”も登場いたしません。タイトルだけでネット書店で本を買われる方々は要注意です。ご本人の売らんかな根性と言うよりも、出版元の“二匹目、三匹目のドジョウ戦略”なのでしょう。なにせ、商魂たくましいソフトバンクさんですから。よく確認しないで購入して“孫(損)”させられないようご注意を(オヤジ・ギャグですいません)。
※地頭力→http://blog.goo.ne.jp/ozoz0930/e/beb8ee83a70e636bd80be8ea3ae1103d

さて肝心の内容ですが、最近よくあるコンサルタント的思考回路、すなわちロジカル・シンキングやフレームワーク思考について、著者なりの活用法で具体的に説明している本です。このところ、人気コンサルタントの方々の4作目、5作目あたりの息抜き的著作としてよく目にする類のもので、他の著者モノで同じような本を読んでいる方には、あえて読む必要のないものであると言っていいと思います。「WHY - WHAT - HOW」からなる「問題解決ピラミッド」の話を軸にストーリーは展開しますが、これとて決して目新しいモノではなく、今売れに売れている野口吉昭氏の「考え・書き・話す3つの魔法」にも同様のくだりがあって、そちらの方がより簡潔かつ明快かとも思われます。少なくとも「3つの魔法」を読まれた方には本作は不要かもしれません。
※「考え・書き・話す3つの魔法」 → http://blog.goo.ne.jp/ozoz0930/d/20090505

それともうひとつ、ストーリーが会話形式で進んでいく点も個人的にはいまひとつです。教える博士と教わる若者の会話形式のやり取りで、ロジカル・シンキングやフレームワーク思考についてを噛み砕いて解説しようということなのでしょうが、個人的な好みの問題もありますが、私は普通に書いたほうがよっぽど分かりやすいのではないかと思ってしまいます。このあたりも同じテーマの後発本ゆえ、著者と編集者相談による苦肉の策としての無理な特徴作りの結果ではないのかと、ついついうがった見方をしたくもなってしまいます。このような会話形式を分かりやすく感じる読者なら、他の同様の本ではなく本作を真っ先に手にとって読まれたらよろしいでしょう。

と言う訳で、私の評価は10点満点で6点。出世作をモチーフにしたせっかくのタイトルなのですから、テーマはともかく少しぐらい「地頭力」「フェルミ推定」にからめて個性的なまとめ方をされたらよかったのにと思うのですが、難しかったのでしょうか。内容的に問題がある訳ではないですが、独自の“ウリ”がある著者だけに少々残念です。

売れ筋ブック・レビュー~「社長力養成講座/ 小宮一慶」

2009-05-06 | ブックレビュー
連休最終日、もう一丁ブックレビューいっときます。

★「社長力養成講座/ 小宮一慶(ディスカバー携書1000円)」

人気コンサルタント小宮一慶氏の新作です。明らかに本田直之氏の「レバレッジ・マネジメント」を意識したと思しき経営指南書といった趣です。よくよく読めば、06年刊「なぜオンリーワンを目指してはいけないのか」という著作の焼き直し版のようです(ご本人は「グレードアップ版」と申しております)。100年に一度の大不況の折、経営者をターゲットに人気コンサルタントをして経営指南書を無理にでも書かせたいという出版元の魂胆が見え隠れします。06年と言えば、まだまだ小宮氏ブレイク前のことですから、タイトルも今風に見直しして仕切り直しということでしょうか。

どうしても本田氏との比較で見てしまうのですが、内容の仕切り方こそ違えども「レバレッジ…」同様、経営者に求められる「力」を「戦略」「マーケティング」「人材活用」「会計」「リーダーシップ」という切り口で、ポイントを伝えくれます。似たような切り口で書き込まれているものの、厳しい言い方をすれば今ひとつありきたりで鋭さに欠ける感ありです。その辺がブレイク前の著作焼き直し作の限界でしょうか。方や絶好調の現時点での渾身の書き下ろしですから、比較をするのは酷なのかもしれませんが…。

そんな中にあって、小宮氏の得意分野である「会計力」に関する項は、なかなかタメになるお話が書かれています。中でも印象的な一言、「銀行に目を向ける暇があったら、お客様と向き合え」は実に言い得ています。昨今タイトルの妙で売れている「銀行員の言うことを聞いていたら潰される」とか「銀行が金を貸したくなる企業づくりはこうしろ」とか、コンサルタントの風上にも置けないくだらない指南書を書いている輩に対して、ビシッと一言放ってくれたという感じが胸のすく思いです。さすが小宮氏。

10点満点で7点。「会計力」以外の部分は、他のビジネス書でもよく語られている類のお話といった感じなので…。“焼き直し本”ということもあり少々辛めですが、昨今の不況対策マネジメント書の水準以上は十分確保できていると思います。この方はやはり、数字をベースにしたお話に徹していただいたほうがインパクトがありますね。

売れ筋ブックレビュー~「考え・書き・話す3つの魔法/ 野口吉昭」

2009-05-05 | ブックレビュー
昨日に引き続き「ゴールデンウィーク・売れ筋ブックレビュー」を。

★「考え・書き・話す3つの魔法/ 野口吉昭(幻冬舎952円)」

我が敬愛するコンサルタント野口吉昭氏の新刊です。4月25日付で初版が出て、30日付で早くも2刷。売れてますね。タイトルが野口氏らしからぬ軽めな感じなので、やや違和感を感じつつ読み始めました。出足は、「3つ」を基準に物事をすすめることの効用についてからスタート。まぁ昔から言い古されている部分もありながら、オバマ大統領や小泉純一郎氏の物言いを引き合いに出すあたりは少し斬新かなと感じつつ、半分近くを読み終えてこのまま軽く終わるのではないかという一抹の不安も…。

ところがどっこい、さすがは一流コンサルタントはここからが違います。この「3つ」の魔力をフレームワーク思考、特に氏のお得意「ロジック・ツリー」「マトリックス」への活用に展じ、実効性ある課題解決手法の独自理論に持ち込んでみせてくれます。お見事です。特に「WHYツリー」「HOWツリー」「WHATツリー」を3×3のロジック・ツリー展開して、「原因」「解決策」「構成要素分解」に活用する実践的ノウハウの披露は、コンサルティングに関わらずビジネス・シーンへの活用効果はかなり期待できます。コンテンツ・コンサルティングを身上とする野口氏の面目躍如ですね。

ビジネス書における「良書」であるか否かの最大の判断基準として、私は「ためになる」「さすがと関心させられる」以上に、「活用できる」であると思っています。その点で考えると、本書は「良書」の最たるものではないでしょうか。昨日の須藤女史の著作に足りなくてカリスマ・コンサルタントの著作にあるもの、昨日お話した著者の「個性」「匂い」として感じられるものが本書には確実にある訳です。

ちなみに、氏の代表著作(と私が思っている)「コンサルタントの現場力(PHPビジネス新書)」に登場する独自ツール「蝶ネクタイチャート」は、本書を併せ読むことで確実にモノにすることができると思われます。「現場力」の中の説明だけでは、なかなか十分な活用法が理解しにかった「蝶ネクタイチャート」ですが、先の「原因」「解決策」「構成要素分解」の3×3のロジック・ツリーを使えば、実に分かりやすく実際に活用できるという訳です。一流コンサルタントのオリジナル問題解決ツールを、これで完璧に習得できるのですから、本書の価値はそれだけでも十分すぎるほどであると思います。

10点満点で10点と言いたいところですが、「コンサルタントの現場力」との合わせ技こそ最大のポイントと思われるので、一応9点ということで。この機会に併せて「コンサルタントの現場力」を読まれること、既読の方は読み返されることをおススメします。

売れ筋ブック・レビュー~「コンサルティング実践講座/ 須藤実和」

2009-05-04 | ブックレビュー
ゴールデン・ウィークなので、本選びの参考に…。売れ筋のブックレビューを何冊か。

★「コンサルティング実践講座/ 須藤実和( ダイヤモンド社1800 円)」

著者の上半身写真(裏面は全身!)付帯にまず驚かされます。前作もそうだったのですが、明らかな勝間和代氏へのライバル意識?「私の方がキレイでしょ?」って話?中身とは関係ないですが、マーケティングを専門とするコンサルタントのやり方として、これはどうかなと思わされます。勝間氏の場合は、徹底したマスメディア登場戦略の延長線上での帯写真登場ですけど、こちらは唐突で意図が安っぽく感じられ、「中身の薄さをルックスでカバーな訳?」とか穿った見方をしたくもなりマイナスです。第一、本来読んでもらいたい読者層を遠ざけるんじゃないかなと思いますが…。

中身は至ってオーソドックスな、コンサルティングの基礎知識とコンサルタント的モノの考え方を整理整頓して展開しています。整理整頓しすぎて、個性を感じさせないのが難点。なんと言うか、大学時代のゼミの成績優秀な女子学生のレポートを読んでいる感じとでも言うんでしょうか。初心者にはとっても分かりやすくてためになりそうだけど、深みがない、匂いがないっていう感じですね。コンサルタントモノとしては誰でも書けるレベルと言ったら言い過ぎでしょうか。ところどころに登場する具体的企業の戦略分析の例など、「おもしろくなりそうかな」と思うと終わってしまうという不完全燃焼感が一層食い足りなさを助長しているように思います。入門書なのでやむを得ないと言えばやむを得ないのですが、具体例の引き方にも原因がありそうには思います。

帯写真に登場して著者の個性を売るなら、もうひと味ふた味自前の“オリジナル出汁(ダシ)”が利いていないと…。野口吉昭氏、本田直之氏、小宮一慶氏などの個性溢れるコンサルティング・ノウハウ本を読み慣れた人には、かなり物足りない感が漂うのは確実で、最近のカリスマ・コンサルタント・ブームにあっては、いささか分が悪いです。好き嫌いは別にして、この内容で“帯写真”戦略では勝間女史にも完敗ですね。コンサルティング・ノウハウの初心者テキストとして売るなら、“帯写真”は不要です。

ビジネス書としての個人的総合評価は10点満点で6点ですが、単純に初心者向けコンサルティング的思考入門テキストという視点でなら8点でもいいでしょう。能力は高い方のようですし、次はぜひテーマを絞って個性を感じさせる著作に期待します。


売れ筋ブックレビュー~「自分を変える魔法の口ぐせ/佐藤富雄」

2009-04-30 | ブックレビュー
★「自分を変える魔法の口ぐせ/佐藤富雄(かんき出版952円)」

著者は“生き方健康学者”を名乗る医師で、健康とは体の状態だけではなく考え方であることを心と体の制御関係から説き、大脳・自律神経系と人間の行動・言葉の関連性に着目した独自の「口ぐせ理論」を展開(「口ぐせ理論実践塾」も主宰)。分かりやすい説明と容易な実践方法が多くの人に受け入れられ、講演等でひっぱりだこだそうです。この本も、発売以来ジワジワと売れ続け、各書店でけっこう上位に入っています。

「口ぐせ」を変えると「脳」が変わって「自分」が変わるという、ということを医学的裏づけを用いつつ説いていくという、実に納得性の高い内面開発本です。内容的には難しいことは何もなくて、著者の言いたいことはとにかく「否定的な言葉を使わず、肯定的な言葉を口ぐせにすることで自分を『快』にすれば、明るい未来をつくれる」ということにつきます。読んでいるうちに明るく楽しくなり、元気づけられること請け合いです。同じ医師で物書きの故斎藤茂太さんの著作とも共通する、ホスピタリティ的ニュアンスで読み手をエンカレッジする、なんとも優しく語りかけつつ勇気づけられる本なのです。

特に印象的なくだりは、「どんなときでも第一声は『これでよかった』と言えば、脳が「これでよかった理由」や「うまくいく方法」を探してくれ逆境のストレス吹き払ってくれる」という話や、「実現させたい夢は現在形で語れば(「いつか」「うまくいったらそのうち」ではなく「私はこうします」「わたしはこうなります」と語れば)それは実現する」という話。多くの成功者が似かよったお話を経験則として語っているのをよく耳にしますが、医師が語ることで全く違った説得力が加わる感じがします。

佐藤医師の理論の根底にあるのは、「人間は生物の進化の過程で勝ち残った生き物であり、その意味では誰もが“勝ち組遺伝子”を持っている。口ぐせで頭を『快』にしていかにそれを目覚めさせることができれば、その人の可能性はどんどん広がる」という考え方。なるほど、口ぐせひとつでこんな自分でも成功へ導けるのかもしれないと、生物学的説得力をもって元気づけられる思いになれるものです。

元気もらい度100%。内容的な押しつけがましさや説教がましさはまったくありませんので、行き詰まりやストレスを感じている皆さんに絶対のおススメです。これから何か新しいことをしようと考えているあなた、何かとマイナス・パワーが充満しやすいあなた、これを読んで明日からプラス思考で自分がめざす「成功」を手にしましょう!

再編集版なので書籍的には10点満点で8点?おススメ度は文句なし10点です。かる~く読めますので、先行きに行き詰まり気味の方の気分転換に最適です。

売れ筋ビジネス書<ブックレビュー>4・20号

2009-04-20 | ブックレビュー
★「仕事の見える化/長尾一洋(中経出版1300円)」

最近とみに増えてきた「見える化」関連書籍。「見える化」は小職の専門領域なので、この類のビジネス書は出れば必ず読むようにしております。最近、日経の2面下に出ていた大きな広告によれば「たちまち増刷」とか。売れてるようです。

さて中身ですが、結論から申し上げると提示している方法論は実践的であるように見えて実のことろ全く実践的でない、そんな印象です。言っていることは至極正論で、本当にこの通りに徹底できれば間違いなく効果は得られるのでしょうが、この通り実践できる企業がどれほどあるのかという点でいささか疑問符がついてしまうのです。

本書の中で盛んに出てくる、“目玉仕掛け”とも言えるメールでの「見える化日報」は、皆に役立つ情報ツールとしてメールでの「日報」を上席だけでなく、関係担当者にも見えるように一斉同報通知して、意見交換、情報の共有化をはかろうというもの。具体的には、本人の日々の記録と1社1枚の情報を「日報メール」で皆に見えるようにして、上席からの意見、同僚からのアドバイス、関連部署からの情報などを得られる状態、すなわち「見える化」して情報の活性化をさせるスキームなのです。

この手法の問題点は、まずメールというやり方で直属の上席以外の皆が果たして見るかと言う疑問。そんな多くのメールが各人に入るのはむしろ“迷惑メール”状態な訳で、見ずに捨てられるのがオチではないのかなと…。この先には、皆が見ない以上意見は出ないだろう、という疑問も。さらに効果的な教育コメントを上席がどの程度返せるかということ。自身のコメントが衆目にさらされるとなれば、仮に読んでいる者が少ないと思ってもかなりのプレッシャーはあるでしょうから。要するに、これらのハードルをすべて越えられるなら、有効な「見える化」手段ともなるでしょうが、それができる組織はよほどスタッフが訓練され組織が活性化された一部の大企業に限られるのではないかと思うのです。中小企業はそんなに“甘く”はないですね。

著者はNIコンサルタントなる企業のトップですが、本論はコンサルタントが机上で考えた「見える化」手法であり、理論的に正しくとも中小企業独自ではほとんど役に立たない手法であると思われます。実はNIコンサルティングというのは、この手の「IT日報」システムを売るシステマチック経営コンサルティング会社であり、長尾氏はこれまでにも「すべての見える化で会社は変わる(実務教育出版)」「IT日報が営業チームを強くする(同)」など、本書類似の記載内容を記載し自社システムのPR目的と思われる著作を複数出しています。要は、今回もあとがきにあるように同社のシステム&コンサルティング・セールスが大きな目的であるわけなのです。

「机上論だ」などと言おうものなら、「当社システムを採用しコンサル契約をしていただければ机上論で終わらせません」との反論が返ってくるんでしょうね、きっと。

10点満点で5点。「日報」に至る前の冒頭部分で書かれている「見える化」の考え方は良いお話なので、赤点ではありません。“見える化本”には厳しくてすいません。

売れ筋ビジネス書<ブックレビュー>3・31号

2009-03-31 | ブックレビュー
連日のブックレビューです。

★「マンデー・モーニング・リーダーシップ/デビッド・コットレル(東洋経済1300円)」

過去のベストセラー「チーズはどこへ消えた?」や「なぜ、エグゼティブはゴルフをするのか?」と同じ類の、物語風マネジメント・ブックです。リーダー・シップをテーマに全米で40万部以上を売り上げたというベスト・セラー。一人の中間管理職が著名なコーチとの毎週月曜朝のミーティングを8週にわたって実践し、リーダーシップの勘どころを学ぶと言うストーリーです。

さすがリーダー・シップ理論の本場アメリカ産と言った感じで、基本が染みてくるようにジワジワと理解できます。コーチが教えてくれることは日本のリーダーシップ本にも、あちこちに書いてある一般的な事ばかりなのですが、情景の絵づらが想い浮かぶような様が実に暖かく、まさに「リーダーシップ=コミュニケーション=ホスピタリティ」を全体のストーリー展開の中で学ばせてくれる工夫が素晴らしいです。

コーチの話で白眉は、最終週8週目。リーダーたるものは「常に学びの領域にいなくてはならない」というくだりです。
「自分の力を最大限に発揮するには、居心地のいい場所で満足していてはいけない。向上を目指し続ける必要がある」
「人は学び続けなければならない、ということは誰もがあっさりと同意する。だけど現実には、向上するための具体的な目標を立てないかぎり、何も変わらない」
「目標を立てると、いまの居心地のいい場所から出て行かざるを得なくなる」
などなど…。
実に明快で、読みすすんでこの章に至ると誰もが背中を押される思いでしょう。

主人公と同じ管理職もさることながら、中小企業経営者にとっては長く経営に携われば携わるほど普段意識をしにくくなるであろうリーダーシップについて、学びの多い物語であると思います。堅苦しくないので1時間コースで軽く読めます。パコ・ムーロの「エグゼクティブ」シリーズも個人的に好きでしたが、これも負けず劣らずです。

10点満点で9点。
マイナス1点は、ところどころアメリカ的な組織論を前提としていると思しき部分があり、若干ですが気になると言えば気になるので…。好みの問題もあるかもしれませんが、個人的にはかなりの良書であると思います。でも日本では売れないかな?