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日本一“熱い街”熊谷の社長日記

組織論の立場から企業の“あるべき”と“やってはいけない”を考える企業アナリスト~大関暁夫の言いっぱなしダイアリー~

「羽田ハブ空港化反対」主張の不合理を説明する組織論的見解

2009-10-14 | ブックレビュー
前原国交相の羽田空港のハブ空港化発言で、昨日は森田健作千葉県知事が足で思い切り地面を踏みつけるジェスチャーを見せるほど怒りの態度を示しました。でもどうなんでしょうこの問題。

大臣の主張趣旨は、成田空港の使い勝手の悪さから今や韓国の仁川空港が東アジアのハブ空港として確固たる地位を築きつつあり、このままではアジアにおける国際空輸ルートの主導権は他国に奪われる運命で、将来にわたる国益の点から見て羽田のハブ空港化は重要な国家施策であると。昨日は知事の会見の他にも、成田市をはじめ千葉県の関係各市町の長が緊急会合を開き、大臣発言に猛烈な抗議姿勢を示したと聞きます。反対理由はズバリ「地域地盤沈下」。関係者は、「成田の空港化にどれだけの資金と血が流されたのか、それをムダにするな」という主張を声高に訴えかけてもいます。どちらの考えを優先すべきであるのでしょうか…?

ヒントを1冊の本に見つけました。最近文庫本化された「組織は合理的に失敗する/菊澤研宗(日経ビジネス人文庫762円)」がそれです。2000年に「組織の不条理」のタイトルで発行され、一部で評判を呼んだ組織論の名著です。戦時中の日本陸軍の戦略的あやまちを新制度派経済学の「取引コスト理論」「エージェンシー理論」「所有権理論」を使い、新しい解釈でその失敗の原因を解明するという野心的な著作です。この中のガダルカナル戦とインパール作戦の失敗はなぜ避けられなかったか、というくだりに今回の問題を考えるひとつの重要なヒントがあるように思いました。

著者は、本書の中で新制度派経済学の先の3つの理論によって、人間には完全合理的ではなく限定合理的であり、限定された情報獲得能力のために意図的に合理的にしか行動できない、そのことが不条理な現象を招き明らかな失敗へと導くという論理のもと、戦時中の日本軍の組織的失敗の数々を説明しているのです。特に、実行すれば明らかに失敗すると思われたガダルカナル戦やインパール作戦は、決断時点で止めることがその戦略における過去からのコスト負担を無駄にするという、ある一面において合理的な主張により正統化され結果として不合理な戦略選択に陥ったと説明。取引コストの節約原理を説明する「取引コスト理論」や本人と代理人の利害関係が異なることによる不条理な行動を説明する「エージェンシー理論」による適正化により回避が可能であったと説いているのです(このスペースで詳細な説明をするのは無理があるので、詳しくは本書ご参照願います)。

すなわち今回の件に引き直して言えば、「成田の空港化にどれだけの資金と血が流されたのか、それをムダにするな」という主張は合理的に思えるものの実は千葉の立場での限定合理的主張であり、取引コストの節約原理が働いていなかったり、千葉の権益と国益が異なることによる歪んだエージェンシー関係がそこには存在する訳です。従って「取引コスト理論」や「エージェンシー理論」的考え方により限定合理的なその主張を退け、羽田のハブ空港化を認める方向で進めることを検討すべきであるという結論になるように思うのです。余談ですが、過去50年間の投資を無駄にすべきではないと主張する八ッ場ダム建設中止反対派の意見にも、同様の限定合理性は指摘できると思われます。また、千葉県同様羽田ハブ化に対して関空のハブ化方針優先を主張する橋下大阪府知事は、自己の主張はしつつも羽田のハブ化の重要性は認めており、理論派の弁護士らしく森田知事に比べこの辺の理解力で勝っているように思われます。

本書の論理展開はひとつの学説にすぎないとも言えますが、森田知事をはじめ関係者の皆様にはぜひともお読みいただき、不条理のメカニズムがいかなるものであるのかを知り、自分たちの主義主張が国益との関係の中で本当に合理的であると言えるのかを、今一度自問自答し慎重な対応を検討してみてはいかがかと思います。なお、「組織は合理的に失敗する」は本件への説明だけでなく、多くの企業組織が陥りやすい不条理な行動を回避するヒントにもあふれています。戦時戦略への興味の有無はともかく、組織論、ガバナンス論に興味のある方にはぜひ一読をお勧めいたします。かなりおもしろく、ためになり、考えさせられる…、10点満点の内容です。私はこの本の中から、以前属した会社組織の“組織の意思”による合理的行動が生む数々の不条理の起因点を明確にすることができました。

★「組織は合理的に失敗する/菊澤研宗(日経ビジネス人文庫762円)」

売れ筋ブックレビュー~「『読む・書く・話す』を一瞬でモノにする技術」

2009-10-07 | ブックレビュー
★「『読む・書く・話す』を一瞬でモノにする技術/斎藤孝 大和書房1400円」

売れているようです。最近の売れ筋は「脳モノ本」「書き方本」「思考整理本」「読書法本」などなど。その意味では、タイトルからお分かりのように1冊で今注目のジャンルをけっこう幅広く押さえられる“お得本”かもしれません。ただ構成的にバラバラなモノを寄せ集めた訳ではなく、ステップ1~5として、各章を私なりの言葉に置き換えると、「情報の選択法」「読書法」「記憶法」「道具活用法」「編集力養成法」といったセクション構成で話は進んでいきます。

出だしの「情報の選択法」はすべての作業の基本になる行動の指針であり、なかなかの視点です。タイトルにある「読む・書く・話す」の中で、一番具体的記載がありボリューム感もあるのは、次の「読書法」です。ただ内容的には、よくある「多読のススメ」や「本への書き込み活用」など。私はむしろステップ3の「記憶法」に自分でも効果が思い当たる部分が多くあり、“読む価値あり”と思わされました。「自分の言葉で再生する」とか「信頼できる脳内スタッフを持つ」とか「批判的思考を鍛える」とか、まさに私が試みて自己鍛錬に大いに効果を感じているものと符合しています(特に「批判的思考を鍛える」は、このブログ継続効果そのもの!)。

「道具活用法」と「編集力養成法」は私的には完璧におまけ。特に「道具活用法」は、人によってはやり方を参考にされる方もいるのかもしれませんが、基本的に「三色ペンを使え」とか「手帳は1週間単位のモノを使え」とか、まぁ人それぞれやりやすい方法でいい訳でこれがベストとは思いません。あくまで「著者の場合はこれでうまくいっている」というものとして参考程度に捉えるのが正解と思います。

全体を通して言えることとして、著者は私と同年代なのですが、どうも匂いの違いをそこここで感じます。読み終えて、それは何かと考えてみると、“実業界育ち”と“学会育ち”の違いではないかなと、かなりハッキリと感じることができました。良い悪いの問題では決してないのですが、本書は正論のお話をステップを踏んでしてくれてはいるのですが、日々実業の世界に生きるクライアントを相手している私からするとやや食い足りない、なんとなく“突っ込み不足”を感じさせられる記述が多いように思いました。やはり、ビジネスシーンを想定した書き方や具体的落とし込みがあれば、もっと実践的でよかったかなと…。少々残念。10点満点で7点とさせていただきます。

売れ筋ブック・レビュー~「コンサルタントの解答力」

2009-10-01 | ブックレビュー
★「コンサルタントの解答力/野口吉昭(PHPビジネス新書760円)」

我が敬愛するコンサルタント野口吉昭氏の新作です。

まずはじめに、組織と人のマネジメントにお悩みの方々に超おススメですと言っておきます。
本書に言うところの「解答力」とは、相手を納得させて相手を動かすような話の組み立て方を言っています。すなわち、本書に書いてあることをマスターし実践するなら、このノウハウのプレゼンテーションでの活用効果は当然のこと、経営者や管理者が部下を納得させ自分が思う方向に動かすことにも十分力を発揮するであろうという内容なのです。

肝となる部分は、①「相手軸でモノを考えること」②「本質をあぶりだすこと」③「ロジックとパッションで動かすこと」の3点に集約されます。①はいろいろな所でも言われているコミュニケーションの基本項目であり、ここでは著者なりの言い方でそれを説いています。②は当ブログでも再三言っております「幹」と「枝葉」を分けるモノの分析力のこと。本書ではこれを身につける方法に言及しています。そして今回“肝中の肝”なのが③。相手を説得するのに論理的な裏付け(「ロジック」)は当然不可欠ですが、それだけでは人は動かない。納得させかつ動かすには「ロジック」に加えて「パッション」が必要であると、著者は説いています。

これは野口氏ならではの論理展開であり、見逃せません。2代目経営者や企業の経営企画部門、外部コンサルタントが陥りやすいエラーとして、「論理的に隙のないスキームが構築できたから、皆が納得してついてくるはず」という誤った結論付けがあります。この点は、いろいろな企業で「論理的に正しい戦略であっても、なぜ人はついてこないか」という問題意識としてたびたび議論される部分でもあります。著者は、この課題を解決するのが「パッション」であると説いているのです。言葉を換えて、「Must」だけでなく「Can」や「Will」を意識させる戦略や指示の出し方こそが重要であると強調している部分でもあります。この点こそ本書最大のヤマ場であり、経営者や管理者にとって本書から学ぶべき最重要ポイントであると思います。

本書は著者が前書きで言っている通り、昨年のベストセラー「コンサルタントの質問力」の続編ではなく、まったく別の角度で書かれたマネジメント指南書であると位置づけられます。個人的にはむしろ、本書の前段階として野口氏の近作「考え・書き・話す3つの魔法」記載内容を身につけることで、より一層効果的な役立たせ方が可能になると思います。すべてのビジネス・パーソン、特に経営者、管理者の皆さんにおススメしたい1冊です。10点満点で9.5点。論点、結論の明確さ、話の平易さ等が素晴らしいと思います。内容から言ってタイトルの「コンサルタントの…」という前置きはむしろ焦点をぼかす、という点がマイナス0.5点です。実質満点、この秋の“イチオシ”ビジネス書です。

ブックレビュー~「なぜあの人は整理がうまいのか/中谷彰宏」

2009-09-11 | ブックレビュー
★「なぜあの人は整理がうまいのか/中谷彰宏(ダイヤモンド社1300円)」

メンタツこと「面接の達人」はじめ多くの著作で知られテレビでもおなじみ、中谷彰宏氏の近作です。約2カ月で4刷になっているので、興味本位で読んでみました。

テーマはとにかく「捨てる」ことの効用。この1点につきます。一貫してモノが捨てられない、部屋や机の上が散らかっている人は「運気を逃している」という教えです。「スペースが空いていない人の机や部屋には神様が降りてこれない」って本当に言いえているように思います。私がこれまで見てきた多くの企業でも、社内が整然としていない、古いファイルや書籍が書棚にいつまでも入っている、何が入っているかわからない段ボール箱がフロアに置かれている、そんな会社はたいてい問題が山積しています。問題がある部門のスタッフの机の上はたいてい整理ができていないません(特に管理者!)。そんな簡単なことに手をつけるだけで、業績がもっと伸びたり会社がもっと良くなるのに…。いつも思っています。まさに「5S」のススメ。著者のおっしゃる通りです。結局モノを捨てない、整理ができないことで「悪い運気」が社内に蔓延してしまうというのが著者の論理です。なかなか言い得ていると思います。

個人も同様なようです。「使わないモノが運気を下げる」「部屋の状態はその人の心理状態」「モノが増えると視野が狭くなる」「いらないモノをたくさん持っている人は、動きが遅く忘れ物が多い」…。なるほど、けっこう思い当たる部分多いのではないでしょうか。幸い私は会社勤め時代にオフィス移転を経験して、その時に「捨てることの効用と重要さ」を学びました。確かに考えてみると、私もそれ以降多少運気が上向きになってきたように思います。ちょっと油断しているとすぐに余計なものというのは増えてしまいますから、「捨てる」クセをちゃんと身につけないと運気が下がってしまのかと思うと怖いですね。あなたの会社内に成績が伸びない部門や、やる気が出ないという人がいるようなら、まずはその部門や人の机まわりやオフィス環境の整理整頓状況を確認してみてはいかがでしょうか。整理整頓ができていないなら、「捨てない」「汚い」「雑然」が運気・ヤル気・前向きを奪っていると考えて間違いないと思いますよ。

本書中で私が特に気に入った項目は、「探す時間にチャンスを失う」「捨てた量だけ元気が出る」「毎週1回モノを捨てる日を決める」の3つです。どれも個人・ビジネス共通に言い得ていることであると思います。深みは全くありませんが、「捨てる」という発想と行為の大切さを改めて認識させてくれる1冊です。散文的で軽妙な書き方であり、1時間でラクラク読破できます。10点満点で8点。気分転換の軽い読み物としては、なかなかなんじゃないでしょうか。欲を言えば、文庫で600円なら文句なしですね。

売れ筋ブック・レビュー~「ビジネスで失敗する人の10の法則/ドナルドRキーオ」

2009-08-28 | ブックレビュー
★「ビジネスで失敗する人の10の法則/ドナルドRキーオ(日本経済新聞出版社1600円)」

売れているようです。私が購入したのが2カ月ほど前。当時初版のこの本、最近書店で見たら6刷だったような。けっこうな売れ行きです。実は書店で見かけて、途中まで読んで忘れていて、うずたかく積まれた本の山の下敷きなっていたのを思い出しました。

著者は元コカコーラ社長。現在投資銀行の会長を務める傍ら、マクドナルド、ハインツ、ワシントン・ポストなどの取締役を兼務する現役ビジネス・パーソンです。私が購入した理由はタイトルですね。売れている理由も同じでしょうか。「成功する人の10の法則」だったら購入しなかったでしょうが、「失敗する人の…」と言われると自己確認をしたくなる人間の習性でしょうか、ついつい読んでみたくなります。「10の法則のうち1つでもあてはまるならあなたの仕事は高確率で失敗だ」と帯裏にあり、ますます読んでみたくさせられます。でも、中身は至ってオーソドックスなものです。実は、私が途中まで読んで“積ん読”化した理由はその辺にあるのですが…。

10の法則は、「リスクをとるのを止める」「柔軟性をなくす」「部下を遠ざける」「自分は無謬だと考える」「反則すれすれのところで戦う」「考えるのに時間を使わない」「専門家や外部コンサルタントを全面的に信用する」「官僚組織を愛する」「一貫性のないメッセージを送る」「将来を恐れる」そしておまけとして、「仕事への熱意、人生への熱意を失う」となっています。そしてこの中で、“最も重要”と付されているのが一番目の「リスクをとるのを止める」と論じています。これは要するに「過去の成功に胡坐をかく」とか「守りに走る」とかそういうことで、ユニクロの柳井正社長の「1勝9敗」と同じようなこと、「失敗を恐れず挑戦することの重要さ」を言っています。実例としてゼロックスの大成功の後の凋落をあげ、同社は実はPC開発で技術開発面で他社より約5年も進んでいながら“ボックス・タイプの人間がリスクをとならなくなった”ために、複写機販売に固執し商機を逸したと。リスクをとることで仮に失敗をしてもそこから得るモノは多く、実は前に進んでいるのだと。言い古されてはいますが、おっしゃる通り正論ですね。

著者が本書内で言っているように、この「最重要点」を含めて書かれていることは「革命的なことはなにひとつ書いていない。すべて常識的なことばかり」であります。少し意地悪な言い方をすれば、10の項目の中身は関連という以上にダブりもあって、MECEでありません。その辺が読んでいてちょっと気持ち悪い感じも…。ならば、今なぜこの本なのか、アメリカでなぜこの本が企画され、売れたのかを考える必要がありそうです。答えは明白です。「コカコーラ=強いアメリカの象徴」ということを考えれば、今の大不況下、強いアメリカを象徴的に作ってきたビジネス・パーソンにその経営術を語らせることで、不況に苦しみながらも元気を求めているアメリカの経営者にエールを送ろうというものに違いないのです。ですから、中身はある意味どうでもよろしい。革新的でなく常識的なセンでいいわけです。今だからこそ、USAブランドのコカコーラが語ることが大切な訳です。だから表紙もコカコーラ・カラーなわけです。日本でこの表紙にする意味はあまり感じません。

と言うわけで、決して悪い本ではありませんが中身は至ってオーソドックス故、経営における“常識”を持ち合わせているという自負をお持ちの経営者なら、この本を読む時間を他の本を読む時間に充てたほうが有益でしょう。10点満点で6点。日本語訳がビジネス書としてこなれていない点も気になりました。最近では「デキる人の脳」や「ネコに学ぶ…」のように、一流コンサルタントが訳または監修し、あちらの書籍を日本のビジネス・パーソン向けにより分かりやすくまとめあげるやり方が続々出ているだけに、翻訳家に任せきりの作り様はちょっと残念です。もし私が監修するなら、例えば「官僚組織を愛する」に関して、官僚制度的管理の利点は中小企業においても活用する価値は大いにありなのですが、その上に立つ人たちが官僚的にならないことが大切であるといった論点での具体的解説を加えた方が、より実践的で生きた書籍になると思いました。

新盆に「清志郎」を読む

2009-08-15 | ブックレビュー
今日はお盆の15日。お盆は古くから祖先の霊が子孫のもとを訪れて交流する行事であるとされ、中でも人が亡くなり49日法要が終わってから最初に迎えるお盆を、初盆(はつぼん)または新盆(しんぼん、にいぼん、あらぼん)と呼び、特に厚く供養する風習があるのです。都会育ちの私などには、全くなじみの薄いことなのですが…。

という訳で、今年は忌野清志郎さんの新盆であります。と、やや強引な流れではありますが、ミュージック・マガジン社から待望の彼の追悼本が出ましたので新盆にちなんで紹介しておきます。

★「忌野清志郎 永遠のバンド・マン(ミュージック・マガジン社1500円)」(MUSIC MAGAZINE増刊)

何が「待望の」なのかと申しますと、他の出版社の追悼本がミュージシャン清志郎の歴史を振り返る的編集であるのに対して、同社には人間清志郎を追い続け音感業界には関係のない人間にまでも取材&草稿させてきた「ミュージック・マガジン」誌ならではの追悼本刊行を期待していたからに他なりません。果たして、期待通りの素晴らしい追悼本がこうして手元に届けられました。渋谷「屋根裏(懐かしい!私も高校時代足を運んだ伝説のライブハウス!)」時代から昨年の「完全復活」まで、約30年の長きに渡り事あるごとに取り上げ、音楽的側面にとどまらない取材を続けてきた同誌の全原稿(じゃないかもしれませんが…)に加えて、新たに今回書き下ろされたいくつかの原稿で構成されたこの追悼号。一冊まるごと「人間清志郎」を浮かび上がらせ、音とは切り離された活字の世界ならではの伝え方によって、その素晴らしい人間性を伝えてくれています。

どの時代の原稿からも感じられるのは、「人間清志郎」はその音楽以上にロッカーであったということ。ロックやブルースをこよなく愛し、思うことあらば歯に衣着せずに世間にモノ申し、一方で家族を大切にし、平和を訴える…、そんな清志郎の姿はロッカーそのものであります。何が本物のロッカーかって、「家族を省みないのがロッカーだ」などと勘違いする輩が多いこの世界にあって、正々堂々と家族を語り家族愛を前表に出して、その世界総和としての「愛と平和」を語る正直さが素晴らしい訳じゃないですか。「愛し合ってるかい?」は決してポーズの決め台詞などではなくて、彼の魂の叫びだった、そんな事実をこの30年分の原稿たちが雄弁に物語ってくれているのです。

彼がなぜ原発に対してあんなに批判的であったのか、なぜジャーナリズムや政治に対して批判の目を向け続けたのか…。それらの根底には愛する家族を守りたい、子供たちの時代には今よりもっと平和で暮らしやすい世界であって欲しい、そんな願いが込められていたのだと改めて知るに至り、自分はなぜもっと早く清志郎を理解しファンになっていなかったのかと、今はただただ悔やまれるばかりです。本誌ではそんな清志郎の“もうひとつの「家族」”であるギタリスト三宅信治への、今井智子のインタビューがまた素晴らしいのです。三宅はアマチュア時代に自ら志願して清志郎の運転手を務め、長い年月を彼のプライベート・スタッフとして過ごし、RC休止後には遂にバックバンド「ナイスミドル」のバンマスの座に座るに至るという、ある意味音楽界の“ジャパニーズ・ドリーム”を地でいくような経歴の持ち主です(あの名曲「JUMP」は、なんと二人の共作!)。彼が語る“ボス”清志郎の思い出エピソードは、清志郎のスタッフに対する「家族愛」に溢れていて思わず目頭が熱くなるのです。

私は70年代末期に登場したパンク・ロックや、その流れを汲み80年代にもてはやされたニューウェーブ・ロックがどうも好きになれません。パンク・ロックの登場は確かに衝撃ではありましたが、そのどこまでも暴力的でアナーキーな音楽からは、音楽に対するあるいは世の中や人生に対する愛情が微塵も感じられないからです。これらの音楽に欠けていた、人々を和ませ、安らがせ、コミュニケートさせ、平和をサポートする世界共通言語の音楽が持つ本来の役割の大切さを、清志郎の生きざまを伝える本書から改めて認識させられるのです。彼に与えられた「キング・オブ・ロック」の称号の本当の意味は、「キング・オブ・アフェクション(愛情)」であったのだと気づかされる良書でありました。私をはじめ生前の「人間清志郎」をよく知らなかった人が読むと、本当に“目から鱗”の一冊だと思います。

野口吉昭講演会~組織は現場から変える!

2009-08-13 | ブックレビュー
10日の日に、新宿紀伊国屋ホールに「コンサルタントの質問力」でおなじみ野口吉昭氏の講演を聞きに行きました。今回の演題は、「組織は現場から変える!」。最新刊「ネコに学ぶ組織を変える9つの教え」をベースにした新しい組織論のお話です。

まず野口さん、著作は何冊も読んでいますが、本人の話を聞くのは全く初めて。著作の印象からは、けっこうマジメで堅物のイメージを抱いていたので、にこやかな表情と柔らかい語り口に、まずビックリさせられました(って勝手に私が思い込んでいた先入観のせいですが…)。適度なジョークで会場をなごませながら、実に上手に演題を展開していきます。講演のベースになっている新刊「ネコに学ぶ…」は、スティーブンCランディン氏の著作で、野口氏は監修者という立場でのかかわりです。本書は、“9つの命を持つ”と言われるネコの特性になぞられて、構成員が組織に媚びる“犬型”の組織運営からの脱却をはかりイノベーションを起こして今の時代を勝ち残る組織をつくろうということが主題です。ちなみにランディン氏は、元気の出る組織をつくる秘訣をいた「フィッシュ!」で一躍注目された、マネジメントや教育をベースに持つ作家兼映像製作者であります。

本の中では、海外のネコちゃんにまつわる諺「ネコは9つの命を持つ」というところから、9つのポイントをあげてイノベーションにつなげる心構えを説いています。その9つにここでは具体的には触れませんが、全体のキーワードになりそうなことは「好奇心」じゃないかなと読みとれます。イケてるモノ・コト・場所にうるさいとか、「これいいじゃん」と喜ぶとか、そんなことが書かれている訳で、それらの裏にあるのは「好奇心」という感じでなのですね。講演では、その辺は最後に少し触れてましたが、主に前段となる今の時代を解くキーワード「パラダイム」についていろいろな観点や、いろいろな分野から実例をひきながらかなり入念に解説してくれました。ちなみに、「パラダイム」とは一般的に「時代の思考を決める枠組み、構成」とかいう解釈になるのでしょうか。もともとは科学用語から出てきたようですが、本来の科学の世界で使われている意味合いとなやや異り、そんな意味あいで一般的に流通しているように思います。

その「パラダイム」を知ることだけでなく、「パラダイム」を察知したらいかにしてそこに飛び込んでいくかということ、すなわちいかに「イノベーション」を実現できるかこそがこの時代の生き抜くポイントであり、そのカギを握る組織やビジネス・パーソンの行動をキャッツ(=ネコ)から学ぼうという流れで1時間半の講演が構成されていた訳です。沢山の実例の中に数々の有名企業の話や、著名ビジネス・パーソンの話がちりばめられ、とても分かりやすく適度に刺激を与えてもらいつつ最後は主題に落ち着かせるお見事な講演であったと思います。

実は「ネコに学ぶ…」の本の方は、はじめに読んだ時点ではいまいちピンとこないなぁと言う印象だったのですが、この日の話を聞いて思いがけずスッキリ。野口さんがあえてこの本を監修した理由が非常によく理解できました。あちらの本の日本語版というのは、どうしてもその主題の伝わり方が少し弱いケースがあって、その意味では自作の本に関連する講演会よりもむしろこういった訳本に関しての開くことのほうが意義深かったりするんですね。と言う訳でレビューですが、本自体は10点満点で7点、講演まで含めると9点といった感じです。

野口さんの話しておられたことは大半、私自身が自社で実践が出来ていると感じられましたので、個人的には少しばかり元気づけられた気分で新宿を後にしました。
いろいろな意味で、得るところのアリの講演会でありました。
野口さん、ありがとうございました。

ブックレビュー「なまけもののあなたがうまくいく57の法則/本田直之」

2009-07-22 | ブックレビュー
★「なまけもののあなたがうまくいく57の法則/本田直之(大和書房1000円)」

またまた出ました本田直之モノ。今度は正真正銘書き下ろし新刊です。とは言いつつも、以前当ブログでも紹介した「面倒くさがりやのあなたがうまくいく55の法則」の続編的一冊です。その前作はなんと25万部を売ったそうで。ちなみに当ブックレビューの評価は6点でしたから、「評価の良し悪し」と「売れるOR売れない」は必ずしも一致しない訳です。その理由のひとつがタイトル。このシリーズ、タイトルに記された読者ターゲットが、前回が「面倒くさがりや」今回が「なまけもの」。この手の言葉を言われて思い当たる人って多いですよね。女性が「冷え性が完全に治る」と聞いて、読んでみたくなる人が多いのと同じような話で、“タイトルの勝利”という印象はかなり強いです。というわけで、「評価」はともかく今回もけっこう売れるのでしょう。

さて内容。つくり、進行、テーマ掘り下げの深浅何をとっても、かなり前作に近いです。明らかな“二匹目のドジョウ”狙い?ですね。書かれている「57の法則」ですが、私から見て“目から鱗”と言えそうなものは4~5項目あるかないか。「テレビをやめてラジオにする」とか「他人を家に呼ぶ」とか「時間の強制力を利用する(締切設定のことです)」とか、ごくごくありふれたビジネスマン向けライフスタイル指南であり、個人的印象は「う~ん」ですね。気が利いているのは、57項目よりもむしろ前書き部分でしょう。「なまけもの」を3つのタイプに分けて「前進型のなまけもの」をめざそうという投げかけは、「なまけもの自認者」は読む価値ありです。

本田氏の基本理念である「レバレッジ(=てこの原理)」はまさに、氏が「面倒くさがりや」で「なまけもの」であるが故の工夫であり、「レバレッジ」シリーズを複数読んだ上で、打ち明け話的存在としてこの本を読むならそれなりに面白いとは思います。一方この本を単独でノウハウ本として読むとすれば、さして得るものは多くないように思うのですが…。まだまだ社会人経験浅い若手“なまけもの”には、学ぶものがけっこうあるかもしれません。表紙のイラストが可愛いので、発行元が想定してる今回の読者ターゲットは意外に若いOL層なのかもしれませんね。

さて点数ですが、前作同様10点満点で6点。本田氏ファンの私ですが、これは氏の著作としては亜流であり、中身の軽さはあまり感心いたしません。逆にテーマが軽い分、この手の本は売れるのかもしれませんが、個人的には同系の前作1冊読めば十分という印象です。それよりも、最高傑作「レバレッジ・マネジメント」に続くレバレッジ・シリーズの最新刊の早期発刊に期待します。本書はどちらかと言えばヤング・ビジネスマン向け指南書の印象で、“本田本”ファンの中堅以上のビジネス・パーソンには、むしろ前回紹介の本田氏訳&監修「デキる人の脳」の方がおすすめです。

売れ筋ブック・レビュー~「デキる人の脳 / ノア・セント・ジョン」

2009-07-14 | ブックレビュー
★「デキる人の脳/ノア・セント・ジョン著・本田直之訳(三笠書房1400円)」

またまた出ました本田直之モノです。今回は訳者として登場です。本屋の店頭で本田氏の名前を見つけてしまい、躊躇なく購入しました。原書は全米ベストセラーです。

茂木健一郎氏をはじめ最近注目される“脳のしくみモノ”的側面もありますが、「喜ぶとドーパミンが分泌され…」といった医学的な分析は皆無。「意識して脳の思考はわずか10%。潜在意識での行動が90%」という事実に基づいて、潜在意識を変化させ前に進ませる脳をつくる習慣づくりを説いています。著者はコーチングの第一人者。ですから、言葉で投げかけることの重要性を強調し、セルフコーチング的に自分にくりかえし「いい質問」をすることで、世の3%の成功者がなし得ている無意識の活性化をはかることをポイントとしています。要は行動のブレーキになる「負」のスパイラルを習慣により無意識のうちに取り除き、行動を抑制しない自分をつくるお話です。

以前紹介した医学博士の佐藤富雄氏が書いた「自分を変える魔法の口ぐせ」と若干似たことろもあり、佐藤氏が言う「脳を喜ばせる」ことがノア氏の言う「心のブレーキをはずし成功に導くこと」につながるように思えます。2冊をセットで読むとより一層、成功と脳のはたらかせ方の関係が見えてくるように思います。共通して言っていることは、自分に対してネガティブな発想は何のプラスにもならないということです。
★「自分を変える魔法の口ぐせ/佐藤富雄」ブックレビュー↓http://blog.goo.ne.jp/ozoz0930/e/706e51a9c4e697ce1117a327e535f880

さて訳者本田氏の出番ですが、各章の終わりに本編に関連した本田氏からの習慣づけに関するコメントが2~3ページづつ記されており、これがなかなかイケています。例えば『「忙しい」「時間がない」は単なる言い訳。これを言った瞬間に思考はストップし自分を向上させられない。今日から二度と「忙しい」と口にしない』ススメや、『誰かのせい、何かのせいにすることでそこで思考は停止する。できない理由を探さない』ススメなどは、私の周囲でもよく見かける光景であり習慣づけをおススメしたいですね。単なる訳本で終わらせず、本田流のエッセンスが詰まっています。

10点満点で9点。「脳」の話なので、実感のあるようなないような、人によって説得力を感じる感じないの差が出そうな気がしますが、日頃コーチングを受けている私には、かなり説得力をもって迫ってくる一冊でした。本田ファンは必読です!

売れ筋ブック・レビュー~「過去問で鍛える地頭力/ 大石哲之」

2009-07-09 | ブックレビュー

★「過去問で鍛える地頭力/ 大石哲之(東洋経済新報社1500円)」

「地頭力」と言えば、コンサルタントの細谷功氏が一躍ベストセラーを放ったテーマで、その後も「地頭力」を冠に付した著作を出しています。てっきり本書も細谷氏の著作と思いきや、さにあらん。細谷氏の近作は、以前ご紹介のとおり名ばかり「地頭力本」でありますので、ならばとの同業者が名乗りをあげてこられたと言った感じです。

大石氏はコンサルタントの転職ナビを運営する大手ファーム出身のコンサルタント。「過去問」とはまさに、大手ファーム入社試験の「ケース面接」で出された問題を集め、その考え方を披露することで結果的にロジカル・シンキング的思考を身につけてもらおうという趣向のようです。すなわち、表向きは「過去問」の模範解答集ですが、決してファーム志望者向けの本という訳ではなく、むしろ広く一般ビジネスマン向けにロジカルな頭すなわち「地頭力」を鍛える材料を提供してくれてる書籍なのです。

全20問収録で、前半は「東京都内にタクシーは何台あるか?」といったフェルミ推定系10問、後半は「おしぼりの売り上げを伸ばすにはどうするか?」といったビジネス・ケース系10問。フェルミの方は、細谷氏の代表作「地頭力を鍛える」ともダブる部分が多いのですが、後半は実際のビジネスの中で具体的な相談事をいかなる思考経路でより正統性の高い解決策に導くか、まさにコンサルタント的MECEな分析での問題解決法が披露されています。前半、後半とも、それぞれ思考の組み立て方法を学ぶことがメイン・テーマであり、「過去問」を切り口に「地頭力的思考回路紹介」をするあたりは、さすが転職ナビ管理人といった感じがします。

本書は一言で言えば、問題、課題の本質をいかに捉えるか、そのためのロジカル・シンキング・トレーニング本ということになると思います。ロジック・ツリー、マトリクス思考、フレームワーク思考などの具体的な活用方法を、「過去問」の解決過程に沿って紹介していきますので、事前に一冊ロジカル・シンキングに関する本でも読んだ上で本書を手に取ると、とても楽しく読めるのではないでしょうか。

10点満点で7点。「過去問」を使いながら、ロジカル・シンキングの基本を教えると言う切り口はかなりおもしろいと思います。マイナス点は、20問の問題のひねくれ度にややバラつきがあって、本質を探る過程が本当にロジカルと言えるかどうかやや疑問なものもあるように思えた点。言い方を変えると、ロジカル・シンキングを教えるのに、果たして適切な実例ばかりであるか否かはやや疑問ということです。まあでも、時間つぶし的“脳トレ本”として考えればイケてる部類であると思います。