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日本一“熱い街”熊谷の社長日記

組織論の立場から企業の“あるべき”と“やってはいけない”を考える企業アナリスト~大関暁夫の言いっぱなしダイアリー~

「社長の教科書/小宮一慶」

2010-05-10 | ブックレビュー
★「社長の教科書/小宮一慶(ダイヤモンド社1500円)」

紹介が遅くなりましたが、小宮一慶氏の近刊「社長の教科書」です。タイトルに偽りなし。中小企業経営者に最低限知ってもらいたい、心がけてもらいたい、やめてもらいたいことが「原理原則50」としてまとめられています。

まずは「経営とは何か」という経営者が身につけるべき基本から入ります。注目は、よくある落とし穴「社長のアイデアを絶対と思うな。仮説と思え」、そして同族企業にありがちな「公私混同の禁止」。前者は社長の思いつきには部下は大抵反論しないが故の落とし穴です。後者は、オーナー企業と言えども、法人格を持つ会社は公のものですから、「部下がやっても許せるかが自分の行動の基準」と実にうまい線引きをしています。部下が「妻は会社に通う自分の世話をしてくれているのだから、会社に来ない妻にも給与を払って欲しい」と言ったら、社長は「ふざけるな!」と言いますよね。すなわち、社長も会社に無関係な自分の家族に形式給与を払うのは社員から見たら「ふざけるな!」であって、それが公私混同ということなのです。この考え方こそ社員が経営者についてくるための「帝王学」であると著者は言っています。なるほどですね。本章の一節が、私は他の経営指南書にない本書の素晴らしい部分であると思いました。

以降は、「ビジョン・理念」「戦略立案」「マーケティング」「会計・財務」「ヒューマン・リソース」「リーダーシップ」について、コンパクトにポイントをまとめてくれています。計数データの扱いがお得意の小宮氏が「ビジョン」とか「シナリオ」とか概念的な分野を説くのは少し珍しい感じがしますが、逆に専門分野でないからこそ仔細に入り込み過ぎないほどよい内容にまとまっているようにも思います。「会計・財務」はその得意分野をあえて約30ページに凝縮してまとめてくれています。ポイントはいつもどおり、貸借対照表の重要性(経営素人は損益計算書で「いくら儲かった」「いくら経費がかかった」ばかりに気を取られがちです)とキャッシュフロー重視の経営のすすめです。この点は、何冊もの同じようなビジネス書で繰り返し読んででも、しっかりと身につけるべきポイントですね。

と言う訳で、全般的にこの手の本は“浅く広く”になりがちなので、ガツンと手ごたえを感じる内容ではないのですが、よくある経営全般領域の指南書としてはかなりバランスが良い部類かと思います。中身は常識的かつ教科書的な内容であるので、全体を通しての印象はこの手の本の宿命として10点満点で7点といった感じですが、先にもお話ししたように冒頭の「経営という仕事と経営に対する考え方」のくだりが他にないなかなか良い事を言っていますので、十分8点でよろしいかと思いました。本の帯に「この危機のときに、リーダーは何を学ぶべきなのか?」とありますが、まさしくこの時代だからこそ必要な“経営のこころ”を丁寧に説いている1冊であると言っていいのではないでしょうか。

最近小宮氏の「日経新聞の本当の読み方がわかる本」が大変売れているようです(「日経新聞の数字がわかる本」の続編です)。こちらの方が小宮氏らしい著作かなとは思います。時間があればこちらも取り上げます。

本田直之~近刊本3冊

2010-04-23 | ブックレビュー
レバレッジ・シリーズ本田直之氏の近刊本が続々発刊されています。発刊というより“発汗”と言うイメージ?ホント、勝間和代氏とタメを張るようなペースで、まるで「稼げるときに稼げるだけ稼げ!」という感じがします。個人的には現在あまり関心はないのですが、人気沸騰のようなので一応取り上げておきます。採点はしません。


●「たった3つのクセを直せば人生がうまくいく/本田 直之(中経出版1,050円)」

書いていることは、いいことです。噛み砕いて言うと「3つのクセ」は「人のせいにしない」「言い訳の習慣をやめる」「忙しいと言う理由で後回しにしない」です。正論、正論。これまでも氏の著作でたびたび登場している内容であると思います。ベストセラーの「面倒くさがりやの…」「なまけものの…」の法則シリーズの、焦点を絞った焼き直しとも言えます。そこまではよくある話でいいとして、それにしても薄味です。内容に乏しい。1時間かからずに読み終えてしまいます。ところどころ図解でページを割いていることと、後半は「思考改善トレーニング帳」と称して「ここまでページを使ってやります?」と言う感じの“埋め草”とも思えるページが50ページ以上にわたって掲載されているので。書籍や講演、セミナーの類は一過性になりがちなので、まぁこういった継続プログラムををセットすることはそれなりに意味のある事であるとは思います。ただこのページの使い方は、ちょっと読み手をなめているかなと…。

最近の本田氏は、例えて言うなら売れてきた芸人がテレビでの声がかりが増えて、新しいネタを仕込まずに本業そっちのけで(例えば漫才師が“ひな壇番組”にばかり出るというアレです)売れたネタを切り売りして稼げるだけ稼ぐ姿にソックリ。最近の芸人で言うならオードリーのようなという感じです。彼ら一昨年の年末のM1グランプリ準優勝でブレイクして、その後はテレビ番組で安易に稼いで芸はしない。昨年のM1は出場すら辞退ですから、何をかいわんや。芸人がすっかりタレントに成り下がってしまった訳です。本田氏もコンサルタントが、売れっ子エッセイストにでもなった気分なのでしょうか。レバレッジシリーズではけっこう信奉していただけに、今の姿は本当に残念です。


●「できる人間」を目指すなら、迷うのはやめよう 22歳からの人生の法則/本田直之(監修)安達元一(ストーリー原案) (アスコム1,575円)」

これはひどいですね。中身は知りません。立ち読みですから。読む気にならなかったので。読んでないのに何がひどいか、制作の思想です。以前、氏は自身のコンサルティング・エッセンスを盛り込んだ自己啓発小説「走る人を目指しなさい」を書き下ろしました。予想通り大コケでした。今回も全く同じコンセプトですが、やはり“餅は餅屋”と言う訳で原案と監修を本田氏がおこない、実際のストーリー起こしを“プロ”の放送作家である安達元一氏に依頼して小説にしたと言う訳です。ここまで聞いて、「おっ?なんか似たようなのなかった?」とピンと来たあなたはかなりスルドイです。そうです、今話題の「もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの『マネジメント』を読んだら /岩崎夏海(ダイヤモンド社1680円)」と同じコンセプトじゃないですか。

岩崎氏は元放送作家。高校野球のマネージャーが間違えて買ったドラッカーの経営論の本を参考にチームを甲子園に導いていくというストーリーの小説です。放送作家の巧みなストーリー展開に沿って読みながら経営理論が学べるという目から鱗の企画だった訳で、昨年12月の発刊以来じわじわ売れて現在大ベストセラーです(この本また改めて取り上げます)。経営理論や自己啓発理論を今風のストーリー仕立てで作品にするアイデアは使い古されたものではあるのかもしれませんが、「走る人…」での大コケを受けて「もし高校野球の…」と同じようなプロを使っての“復讐戦”とは、あまりに稚拙な猿マネで開いた口ふさがらずです。理論的背景は片やドラッカー、片や本田直之ですから、ハナから勝負になる話ではないのですが…。それにしても「そこまでやるか?」と言う感じですよね。読んでないので中身は分かりませんから、著作そのものを批判している訳ではありません。企画スタンスが感心しないということです。


●「カラダマネジメント術!/本田 直之(マガジンハウス1,050円)」

近刊本の中ではこれが一番まともじゃないかと思います。薄味の“手抜き芸人系”と自己啓発小説やイラストレーターしりあがり寿氏との共著等“勘違い系”ばかりが続々出版される最近の氏の著作にあって、ビジネス・パーソンにおける健康管理の重要さを実践的に説いている著作としてなかなかの企画ではあると思います。有名になったからこそ可能たらしめた企画なのですが、中年サーファーである氏自身が昨年病に伏して健康への過信を反省したということろが、著作のきっかけになっている点はとても好感を持って読ませてもらえます。ただ難点をいえばかなり“ナルちゃん”なので、トライアスロンをチームでやっている話は良いのですが、けっこうひけらかしというか、カッコつけというか、くどさを感じさせる点がちょっと。若い人たちにはその辺が「自信」と映って、“憧れの中年ビジネスパーソン”なのかもしれません。おまけとして、おススメの都内ジョギング、サイクリングコースも紹介されていますが、これがまたいちいちトレンドスポット的なノリで、「君たちもこのコースを走って本田を気取ってくれ!」と言っているようです。


以上本田氏の近刊本3冊でした。さらに近々「ゆるい生き方 縛られず、ストレスフリーな毎日のヒント(大和書房1050円)」なる本が出るそうです。読まずに決めつけてはいけませんが、何となくタイトルからして“手抜き芸人系”かなと言う感じですね。氏は自身が基本的に「怠け者」であるを前提にすべての著作をしたためていますので、“手抜き芸人系”にしても“勘違い系”にしても、その意味で“アリ”だとすれば批判にはあたらな

売れ筋ブックレビュー~「あなたの会社は部長がつぶす/山田修」

2010-03-24 | ブックレビュー
★「あなたの会社は部長がつぶす!/山田修(フォレスト出版1400円)」

売れているようです。アマゾンのビジネス書で1位を続けていたようですから、かなりな売れ行きですね。この出版社は毎度毎度ですが、“売れる”タイトルのつけ方がうまいですね。本書や「会社にお金が残らない本当の理由」のようにかなりショッキングなタイトルで目を引いたり、「社長のベンツはなぜ4ドアか?」の如くビジネス書なのに誰もが聞いてみたくなるような食いつきのよい問いかけ型タイトルにしてみたりと、いつも感心させられます。特にネットで本を購入する時代になって、書店ならばタイトルに惹かれても中身をパラパラ読んで「な~んだ」となれば買わない本でも、ネットだとタイトルがおもしろそうだと中身を見ることなく買ってしまうので、時としてとんでもないベストセラーが生まれたりするのです。先の「社長のベンツ…」などはまさしくその典型的な例で、買ってビックリ恐ろしく中身の薄い本でした。

さて本書、タイトルのショッキング加減とは裏腹に中で著者が言っている基本思想は至ってオーソドックス。経営資源の中で「ヒト」を何よりも大切にすること、組織の問題はすべてコミュニケーションに解決策があること等々、少し気の利いた組織論的ビジネス書には必ず出てくるお話がメインで書かれております。まぁこの辺は、1949年生まれの実業界での経験豊富な筆者らしい切り口であり、個人的にも共感できる部分であります。しかしながら読み進めていくうちに、方法論として「おや?変だぞ」と思しき点にいくつかぶちあたります。

それは、「ヒトを大切に」と言いながら「ヒト」の扱いに関してはかなりドラスチックな考え方を展開している箇所にあります。すなわち、著者が言うところの「ヒトを大切に」する考えは、「組織にとって大切な」という観点で考えていることであり、「大切に育てる」ということではないのです。それは曰く「痛みを伴わない改革はない」との考え方の根底にある「要らない人材はそれなりの金を払ってすべて切れ」という部分に如実であり(本人が言うことろの「鬼手仏心」だそうです。とんでもない!)、自身の経験談としても社長着任後早々に6人いた幹部を5人切った話をしています。果たしてこのような考え方が、日本の中小企業に通用するでしょうか?本書は表紙に「中小企業向け」とあるのですが(著者が本文でも胸を張って明言してもいます)、いささか疑問に感じざるを得ませんでした。

組織に有害な人材を“切る”ことがいけないことであるとは申し上げませんし、そのつど「ヒト」の入れ替えを視野に入れながら企業経営をしていくことは大切なことであるとは思います。しかしながら、「幹部6人中5人を切った」「毎年下5~10%を切って入れ替えろ」と自慢話よろしくドラスチックな考え方で人材を扱うことを吹聴する姿勢には同意できかねます。コンサルタントにとって「ヒト」を入れ替えて業績を上げたことなど何の実績にもならない話であり、むしろ氏の職業コンサルタントとしての基本姿勢が疑われる発言ではないかと思うのです。「ヒトを入れ替える」ことをで組織の問題解決をはかるのならコンサルティングは不要であり、著者の考え方には同業の末席を汚す私としても首をかしげざるを得ません。コンサルティングはもっともっと血の通ったものであるべきなのではないでしょうか。

それともう一点、人材活用における人材区分けマトリクスの2軸を「よく働くか否か」と「頭が良いか否か」で取っている点も合意しかねます。「よく働くか否か」は現状の仕事の与え方や環境によっても違うわけで短絡的な判断で活用すべき指標ではありません。「頭が良いか否か」に至っては言語道断。著者は相当頭のよろしい方なのでしょうが、そんな見方で部下を率いる経営者に本当に長きにわたって部下がついていくのか、いささか疑問視せざるを得ないと思います。「良く働かない部下をいかに働かせるか」「頭のよしあしでなく適所をいかに見つけてやるか」こそが、限られた資金と人材の下で苦労する日本の中小企業経営者のあるべき姿ではないでしょうか。このあたりを考えるに、恐らくは著者の経歴的にみて外資系企業での社長を歴任されており、外資系特有のドラスチックで個人主義的な考え方が全面的に出ているのではないかと思われ残念です。

「コミュニケーションを大切にする」という部分はともかくとして、こと「ヒト」の扱いに関しては、およそ日本の典型的中小企業には受け入れられにくいお話ではないかと思います。この著者の考え方がストレートに受け入れられ役に立つ企業は、外資系または新興のIT企業等に限定されるのではないでしょうか。少なくとも私がお手伝いしてる中小企業の社長方には鵜呑みにして欲しくない内容でありました。10点満点で5点(気持ちは「4点=赤点」です)。

売れ筋ブックレビュー~「チームリーダーに必要なたった1つの力/野口吉昭」

2010-03-11 | ブックレビュー
★「チームリーダーに必要なたった1つの力/野口吉昭(かんき出版1400円)」

野口吉昭氏の書き下ろし新作です。今回のテーマはなんじゃろかと読んでビックリ!ずばり「ビジョン」の重要性でした。なぜ、ビックリかというと、長引く不況下においてあれこれ活性化策に悩む中小企業の皆様のお手伝いをさせていただいていて、私の周囲でもあえて今「ビジョンづくり」に再着手し好況時からひきづる“ぬるま湯体質”打開策につなげましょうという提案に共感を得られるケースが急増しているからです。やはり“現場ありき”のわが敬愛するコンサルタント野口氏も、「今こそビジョンが大切」と同じ思いでおられたかと思うと、ちょっとうれしいですね。

氏は本書の中で、「チームリーダーは『目標』よりも『ビジョン』を語れ」と説いています。「夢」を具体化したものが「ビジョン」であり、「ビジョン」をブレイクダウンしたものが「目標」であります。氏はチームリーダーは常に「夢」を持ち、その「夢」を具体的にスタッフに意識させられる“大きな目標”としての「ビジョン」をことあるごとに語りかけよと言っているのです。そしてそのために重要なこととしては、自分の利益や成功に固執した「ビジョン」は意味がないと。そのために必要なことは「相手の立場に立つこと」であると力強く語りかけています。

このくだりは、まさしく本書の肝部分であるので少し引用します。
「自分を持ち相手の立場に立てる人は尊敬されます。その人はきっと仕事ができる人にちがいありません。相手の立場に立てない人はたとえ仕事ができても、決して人からは尊敬されません。相手の立場に立てるということは、場を読める人であり、仕事への想いと志がある人といえるでしょう。人間力の基本は“相手の立場に立てる”ということと言えます。例えば高学歴、高偏差値大学卒の官僚の最大の欠点は、相手の立場に立って考えることができないということです。権力は相手の立場に立って考える習慣を減退させていしまいます。それが現在の官僚主義の腐敗の原因と言えるでしょう」

なるほど、企業におけるチームリーダーが官僚的になったらチームリーダーとしては終わりであると言っている訳で、民間の常識とはかけ離れた官僚文化の非常識を常々力説している小職としましては、拍手喝采もの。まさに、溜飲が下がる思いです。その意味では、官僚のチームリーダーたる“キャリア組”にもぜひ読んでいただきたい1冊ですね。まぁ、収益意識はなく、自己の利益にかかわる組織既得権堅持以外の目的では組織意識もなく、“事務次官レース”という自身の出世にかかわること以外にはおよそ興味のない彼らには無用の知識ではあるのでしょうが…。彼らがこの手の話に少しでも理解を示すなら、もう少し日本の官業もよくなると思うのですけどね。

本書でいうチームリーダーとは、中小企業であるなら社長が該当するわけで、その意味では中小企業経営者にもバッチリはまる1冊です。10点満点で8点。惜しむらくは、「ビジョン」の話にはじまって、途中から「点→線→面」的モノの見方やロードマップづくりの話など得意の“野口理論”に展開し、「たった1つの力」という割にはいろいろなことを言っている点、さらに終盤には「ノー・グチ運動」「ホメホメ運動」等の言葉が登場し「すごい上司」をはじめとした「すごい…」シリーズの白潟敏朗氏的な軽めの職場管理手法に話はおよび、焦点がボケ気味になる点がややマイナスです。繰り返しますが、「官僚の最大の欠点は、相手の立場に立って考えることができないということ、それが官僚主義の腐敗の原因と言える」のくだりはこの上なく明快な論理展開で、何度読んでも気分がいいです。この部分だけなら10点満点!ぜひお手にとって読んでみてください。

ブックレビュー~「コンサルタントの勉強法」

2010-01-05 | ブックレビュー
新年早々、あまり書きたいネタがないので、昨年末読んだ本のレビューをしておきます。

★「コンサルタントの勉強法/野口吉昭(PHP研究所1,000円)」

我が敬愛するコンサルタント野口吉昭氏の新作です。ベストセラー「コンサルタントの質問力」の後に「コンサルタントの習慣術」「考え書き話す3つの魔法」が出て、翻訳本をはさんで前作が「コンサルタントの解答力」、とまぁ昨年はかなり中身の濃い“能力開発”本を立て続けに出版して、大活躍の同氏の昨年のしめくくりは「勉強法」というわけです。これまでPHP新書から出ていた「コンサルタントの…」シリーズかと思いきや、装丁も新書サイズよりもやや大きく、価格もやや高く、中身はというとやや若向き?でしょうか。なんとなく「レバレッジ・シリーズ」の本田直之氏の若者向け近作に似た“嫌な予感”を少し感じつつ本書を手にしました。

結論から申し上げますと、テーマが「勉強法」であるだけに中身は確かに濃いものではありませんが、しっかりと野口イズムが根底に流れており「もしや」の心配は杞憂に終わりました。よかったです。野口氏お得意のコンサルタント的「3つの論理展開」で今回もテーマに明快に切り込んでいます。今回の「3つの論理」は、「点の情報」「線の情報」「面の情報」という切り分けで「情報」を分類し、「面の情報」の吸収に力を注げというものです。「点の情報」の代表例は新聞、「線の情報」は雑誌であり、「面の情報」は書籍であると。同感の極みです。蛇足ですが、ネット情報もまさに「点」と「線」の情報のみ。「面」の情報を持つ者が利用するなら「点の情報」「線の情報」も役に立つのですが、「面の情報」を持たない者にとって「点の情報」「線の情報」は、「点」のまま「線」のままに終わってしまうわけです。

さらにもう一点ポイントは、「フレームワーク思考」で「情報」を「知識」に変え、さらに「コンセプト思考」「ゼロベース思考」で「知識」を「認識」や「見識」に高めることこそ究極の勉強法であるとあり、まさにまさに私あたりが日常的に心がけていることを実にうまい表現でまとめてくれています。納得、納得です。ただ、「面の情報」の重要性やこの「情報」を高めていくくだりに関して言えば、経験の浅い若い読者にはちょっと難しいように思います。少なくとも若い人は、野口氏の他の著作(「コンサルタントの解答力」「考え書き話す3つの魔法」あたり?)をよく読んでからでないと、すんなりは入っていけない嫌いがあるかもしれません。その意味では、野口氏の「勉強法」は実は経営者や管理者を対象とした「勉強法」なのかもしれないと感じさせられました。また、彼が「面」づくりに役立つ書籍164冊を本書内で一覧表示してくれてもいます。これまた我が家の書棚にもある本ばかりなのですが、これだけでも「勉強のための本選び」の基準を知る上でけっこう参考になると思います。

テーマが軽いので中身に乏しいようにも感じますが、野口氏としては標準レベルの著作であると思います。実に簡単に読み終わりますので、難しい本の合間の息抜きにいかがでしょうか。10点満点で8点。

ところでところで余談ですが…
“レバレッジ”本田直之氏がまた変な本を出してます。イラストレーターのしりあがり寿氏との共著「本田流 しりあがり的 額に汗する幸福論」なる本がそれです。見開きページで、片面は彼なりの「ライフスタイルの美学」を説いて、もう片面で寿氏がそれを4コマ漫画にするという、もういい加減お付き合いできません状態の“おバカノリ自己啓発本”です。前作の“勘違い自己啓発小説”に続いてかなり“寒い”出来です。本田さん、ホントどうしちゃったの?って感じですね。当然、私は立ち読みのみなのでレビューしませんが…。

ブックレビュー~「ドラッカー戦略/藤屋伸二」

2009-12-04 | ブックレビュー
●「ドラッカー戦略/藤屋伸二(日本能率協会マネジメントセンター1500円)」

ドラッカー本です。本年6月に出版された同じ著者の「ドラッカー入門」の第2弾的位置付けのようです。今回のテーマはドラッカーの「経営戦略」。前作は、その平易さ読みやすさから、11月で既に8刷を重ねるヒット・ビジネス本となっています。PFドラッカー氏に関してはいまさらですが、「マネジメントの父」「経営学の巨人」など幾多の近寄りがたいほどの賛辞的形容で語られる、まさしく“経営の神様”です。20世紀のアメリカに出現した巨大企業の組織分析をGMを題材に実践し、マネジメントの重要性を初めて世に説いたまさに“巨人”です。私などは、大学時代に経営学のゼミに所属し「マネジメント」を読まされ(原書ではなく翻訳版、しかも要約版)、「難しくて何もわかんねーよ!こんなもん何の役に立つんだよ!」などとのたまって開き直っていたりしたのですから、今の仕事を考えると何とも恐ろしや…です。

著者の藤屋氏はドラッカー研究に熱心な経営コンサルタントで、ドラッカーの理論を応用してクライアントの問題解決にあたっているそうです。このシリーズは「図解で学ぶ」とあるように、見開き単位でドラッカーの理論をワンテーマごとに取り上げ、右ページは文章で簡潔に解説、左ページは図解(あるいは箇条書き整理)を用いて至って分かりやすく視覚にも訴えかけてくれる構成なのです。言ってみると左ページはホワイト・ボード状態で、“ドラッカー理論の見える化”ができるといった様相なのです。こんな工夫で、「戦略の本質」「3つのマネジメント」「組織のあるべき姿」「コスト管理の5原則」などなど、ドラッカーの基本的な理論の“さわり”を実に平易に紹介していくれています。

今更ながらドラッカーの理論を読んで分かることは、すべての経営指南書(いわゆるビジネス書の類)はドラッカーを基本に書かれていると言っても過言ではないということ。すなわち、どんなビジネス書よりも先に、企業経営者はまずドラッカーを読み、ドラッカーを知るべきであるということであると強く感じさせられます。その意味で、このシリーズはドラッカー入門編としては最適の部類に入るのではないかと思います。ただし、掲載されている内容はあくまで“見出し”的な情報にすぎないので、深い内容は一切なし。私が考える本書の使い道は、各項目は見開きの左ページ下に出典が掲載されているので、その辺を参考にどの著作からドラッカーを読むか決めるのに使うのがいいように思います。

そんな使い方が出来ると言う点で、よくできた“ドラッカー・カタログ”といった趣きですので、10点満点で8点とします。ドラッカーを読んだことのない悩める中小企業経営者には、ぜひともおすすめしたい1冊です。このカタログ的書籍を読むだけでも、改めてドラッカーのすごさがよく分かると思います。まさに「マネジメントはドラッカーに始まりドラッカーに終わる」。「学生時代にもっと勉強しておけばよかったなぁ」と、今さらながら我が過去に反省しきりの小職であります。

「頭の体操」VS「地頭力」

2009-11-13 | ブックレビュー
ブックレビューするほどの書籍ではないのですが、最近出た「頭の体操BEST/多湖輝(光文社800円)」を読んで、ちょっと気がついたことがあるのものですから書いておきます。

高度成長の時代に大流行した「頭の体操」。我々世代は、学生時代に少なくとも1冊は買って読んだことがあるのではないのでしょうか。当時千葉大心理学課教授だった多湖輝氏の大ベストセラーです。シリーズは66年の第一集発売以来23巻まで発売されて、累計の売上は1200万部突破と言いますから印税だけでも億をはるかに超える額でして、これでひと財産築かれたと言う訳です。それはさておき、今回出たのは過去のシリーズ23巻2000問の問題の中から、選りすぐりの100問を1冊に集めたまさしく“ベスト盤”。書店の平積みで見かけて、思わず買ってしまいました。

表紙を見た瞬間に購入を決めた理由は、その懐かしさとともに「これはもしや元祖『ロジカル・シンキング・テスト』では?」という勝手な思いつきでした。今時にあえて“ベスト盤”が再発されるのですから、出版社の狙いはビジネスマンの自己研さんにおける昨今の「ロジカル・シンキング」ブームの流れに乗らんとしたものに違いないと。そんな訳で買って読み進めてみました。結論を申し上げると、ロジカルに解ける問題はせいぜい約1割、残りはトンチの域を出ないものがい多い印象です。もちろん、トンチも発想の転換を必要とするものですから、“やわらかアタマ”づくりの訓練にはいいのかもしれませんが…。確実に言えるのは、この内容を言い得た「頭の体操」というタイトルが当時としては抜群に冴えていたということです。

ただ、やはり時代の流れはいかんともしがたい感じです。この程度のトンチ問題集が大ヒットした昭和の高度成長期と、フェルミ推定のような高度な問題解決力を問う「地頭力」モノがこぞって読まれるような昨今の書籍事情の違いたるや、かなり大きな開きがあるように思えます。どちらも、主な読者層が学生やビジネスマンであることは変わりない訳で、昔懐かしい「頭の体操」を買ったが故に、はからずも伸び盛り層、働き盛り層の思考力の格段の進歩が浮き彫りになったように思えた訳です。働く人間の思考の進歩がビジネスの進歩を支えてもいる訳で、我々ビジネスパーソンは時代に乗り遅れないために日々勉強を続けていかねばいかんのだと、つくづく思いました。もちろん、何十年かぶりに「頭の体操」を読んで、多湖輝さんの頭の良さは並みではないと改めて感心させられはしました。

「頭の体操」はレビューすべき書籍ではないので点数はつけません。もちろん良書ではありますが、ビジネス・パーソンが今現在この本を読んで「これは面白い!」と思うようでは、少々マズイかもしれませんね。ちなみに多湖さん現在もご健在のようで、任天堂DSの人気ソフト「レイトン教授と不思議な町」を監修するなど、ご活躍中だそうです。

売れ筋ブック・レビュー~「意思決定力/本田直之」

2009-11-05 | ブックレビュー
★「意思決定力/本田直之(ダイヤモンド社1429円)」

本田本の最新作です。系列で言うと、「面倒くさがりやのあなたがうまくいく55の法則」「なまけもののあなたがうまくいく57の法則」と同系列。副題に、『「決断」を仕組み化する55のルール』とあります。まさに、“3匹目のドジョウ”と言った感じですね。このシリーズは、ハッキリ申し上げて軽い!若手ビジネスマン向けなのでしょうか…。

中身で言っていることは全く問題のない正論です。自分で意思決定をすることの大切さを、角度を変えていろいろな観点で説いています。どれも皆基本的な事ばかり。例えば著者が言う「内部要因思考」とは、すなわち自己責任主義のこと。言い換えれば、「人のせいにしない」「言い逃れをしない」「問題から逃げたりしない」というごくごく基本的な自己啓発ルールです。また「クライテリアを明確にせよ」とは、「判断基準を持て」ということでありますし、「意思決定過程にプロコンを活用せよ」とは「メリット、デメリットを検討しろ」ということ。どれもごくごく普通のことを、少しカッコいい表現で取り上げている訳です。やはりこの辺に、若者ウケ狙いという感じが…。

他にも「目的感を持て」とか「断る、やらないという選択肢を持て」とかの、そこここの自己啓発本にもよく登場する“おススメ行動”も、本田氏的表現で書かれています。私が共感するのは、「紙という客観ツールを活用する」と言うくだりと、「絶対やらないことリストを作る」のくだり。これは私が研修等の場面でも人によく話していることなのですが、「見える化」で言えば前者はまさに「思考の見える化」。後者は「諾否基準の見える化」です。以下私の持論ですが、「思考の見える化」は自分一人の場面では「紙」、二人以上の場面では「ホワイト・ボード」が必須アイテムです。「諾否基準の見える化」は、「やりたいことリスト」の裏に「やりたくないことリスト」を書き出してパウチし、毎日視覚に訴えて刷りこむことをおススメしています。

全編おっしゃる通りなのですが、“3匹目のドジョウ”ともなると「55の法則」「57の法則」に比べ、内容はかなり薄味な感じがします。先の「クライテリア」や「プロコン」など、ごく普通のプロセスをカッコ良く見せたりして、若者にはけっこう受けるのかもしれませんが、経営者はじめオジサン層にはちょっと物足りない一冊でしょう。「55の法則」「57の法則」が共に10点満点で6点でしたから、さらに薄味なこの本は5点ですね。本田氏も最近は勝間和代氏よろしく、儲けばかりを考え始めたのでしょうか?そろそろもう少し本格的なビジネス書を書き下ろして欲しいと願ってやみません。

売れ筋ブック・レビュー~「フォーカル・ポイント/Bトレーシー著・本田直之監訳」

2009-10-27 | ブックレビュー
★「フォーカル・ポイント/ブライアン・トレーシー著 本田直之監訳(ディスカヴァー1500円)」

ブームに乗って続々発刊されている“本田本”の1冊です。本田氏が「最も影響を受けた本」だそうで、自身が廃刊になっていた本書の翻訳権を取得し今回の発刊に至ったそうです。著者はアメリカで有名なビジネス・コンサルタントで、現在は著名スピーカーとして講演を中心とした活動を展開しているようです。本書は2002年の発刊です。

一言で言えば、最近はやりの自己啓発本の総ざらい的1冊であると思います。「重要なことに絞り込む」「シンプルにする」「レバレッジをかける」と言った自己啓発のポイント指導はまさしく本田氏のそれでもあり、売れっ子ビジネス書作家である彼のネタ本的重要書籍を直接読むことができる機会であると言う点で、とても興味深い1冊であります。中身は当然、本田氏のレバレッジ・シリーズとダブる部分は多くありますが、レバレッジ部分にばかり話が集中している訳でもありませんので、氏をはじめ神田昌典氏、勝間和代氏など昨今の売れっ子の自己啓発作家たちがつくりあげた時流の原点的自己啓発本としてかなり面白く読める良書であると思います。

ポイントとなる著者の示唆、例えば「ゴールを決める」「ゴールを紙に書く」「ゴールに締切をもうける」「今すぐ行動する」「ノーと言うことを学ぶ」等々は、内外の成功者や自己啓発に関する著名スピーカーらがその著作や講演で口々に言っていることばかりであります。成功者の多くが口々に本書の中身と同じようなことを言っているということは、裏を返せば、成功する人たちの成功の要因における最大公約数的なモノはここに書かれているような内容に集約されるということにもなる訳です。そう考えると、本書は世に流通する成功の秘訣に関するネタ元がここに存在するかのような説得力をもって読む者に迫ってくる感じがします。

ただ少しばかり気になるのは、「プライベート・ライフ」の充実に関する記述と、経済的な充実すなわち「お金」に対する考え方、に関する記述です。前半の「自己啓発」に関する部分も根底にあるものはアメリカン・スタイルの合理主義的モノの考え方ではあるのですが、こと「プライベート・ライフ」や「お金」に関する部分については、日本とアメリカの文化や歴史的背景の違いが大きい部分でもあり、そのまま受け入れるには少し抵抗感があるように感じました。本田氏は、裸一貫でMBAを取得しにアメリカに渡り、アメリカ人として現地に入り込んで死に物狂いで生き抜いてきた経歴があるので、おそらくスムーズに受け止められるのでしょうが、我々一般的日本人には意訳的解釈とでも言うでしょうか、その考え方を受け入れるには少々アレンジが必要ではないかと思いました。

プライベート・ライフを含めた「自己啓発」と「お金」の指南というと、「金持ち父さん」ことロバート・キヨサキ氏が思い浮かびます。同じアメリカの成功者ですから、当然似たような主張や示唆も見受けられもします。キヨサキ氏の場合、あくまでビジネス・パーソンの立場からの指南であるため、過去の具体例にこだわり過ぎるあまりその事がかえって分かりにくさを生んでいるのに対し、トレーシー氏の場合コンサルタントの立場から、よりポイントを明快に整理した形で指し示している点で断然読みやすいと思います。

この手の本は、読む人によって合う合わないがあるとは思います。私個人は先のアメリカン・スタイル云々を除けばけっこう共感できる部分も多いので、10点満点で8点とします。個人的には最近、その日本人離れしたと言えそうなライフスタイルがやや鼻についてきた本田直之氏ですが(この本を全面的に礼賛する姿勢から、氏のアメリカナイズ的思想がますます良く分かります)、彼のような生き方を目指したい人には必読の一冊でしょう。

なんか変??? 「走る男になりなさい/本田直之」

2009-10-23 | ブックレビュー
このところ、本田直之氏関連の書籍が次々と出版されています。ひとつは、洋書の翻訳本「フォーカル・ポイント(ディスカヴァー・トゥエンティワン1500円)」、本人著の「意思決定力(ダイヤモンド社1429円)」。この2冊は近々ブック・レビューいたします。今日の話題は、まさに今日見つけた「走る男になりなさい(サンマーク出版1365円)」です。

★「走る男になりなさい/本田直之(サンマーク出版1365円)」

「先日「意思決定力」が出たばかりなのに、また出たの?」と驚いて手に取ると、その中身はなんか感じが違います。なんと小説なのでした。帯によれば、著者初の「自己啓発小説」とか。ストーリーは、出版社広告営業部に勤める27歳の岸田海(かい)が、ある日突然、新雑誌創刊準備室へ異動を命ぜられます。海を待ち受けていたのは、性格も考え方もバラバラ、“わけあり”な8人の仲間。売上を立てなければ、創刊準備室は解散、そして解雇という状況下で、主人公・海が、さまざまなスキルを身につけ、困難に打ち勝ち勝っていく「成長物語」。 うーん、どんなもんでしょう。

小説形式で読ませながら、自己啓発ネタを散りばめるという発想は悪くはないかもしれませんが、できそこないのトレンディ・ドラマ的スト-リがいかにも陳腐な印象です。なんとなくトレンディな場所や設定を選びながら、散文的な描写の短い章立て場面単位で展開するストーリー。一昔前に売れた片岡義男を思わせる若者向けの小説といった風情です。私あたりの感覚では、「どうしちゃったの?コンサルタントの本田さん」って感じです。昨年の「レバレッジ・マネジメント」あたりまではかなりの高水準で持論を展開していたのに、その後売れた“軽め路線”「面倒くさがりやのあなたがうまくいく55の法則」あたりからちょっと雲行きが怪しくなり、同じ路線の啓発本「なまけもののあなたがうまくいく57の法則」、そして今月刊の「意思決定力」では、中身の軽薄化とともに対象読者層が一気に若くなった感じです。

本田氏は若者に人気なんでしょうか?確かに1年の半分をハワイで過ごすとか、サーフィンを趣味としつつソムリエの資格も持つとか…、なんともミーハー受けしそうな一面が若者に支持される気もします。今日立ち寄った本屋では、本棚に勝間和代とともに本田直之コーナーの“サシ”があって、この二人だけ別格扱い。「なるほど世間では、若者が憧れるトレンディなコンサルタントとして勝間氏同等に扱われる存在な訳だ」と妙に納得したのでした。いや~、それにしても「自己啓発小説」はないでしょう。「夢をかなえるゾウ」ほど練られた中身ではありませんし、いっそ普通に小説処女作だったら許せるかもしれませんが…。最近の本のバカ売れ傾向でなんか勘違いしてますか?

私のレビューでは“軽め路線”は点数も軽めでして、「面倒くさがりやのあなたがうまくいく55の法則」「なまけもののあなたがうまくいく57の法則」は、10点満点でそれぞれ6点、6点でした(ちなみに「レバレッジ・マネジメント」は9点)。そして、今回は遂にダメでしょうの“赤点”4点です。個人的には、この路線の本田氏とは決別です。