静聴雨読

歴史文化を読み解く

秋川雅史と美空ひばり

2007-11-07 04:15:52 | 芸術談義
フレーズの終わりを極限まで伸ばし、すぐ、次のフレーズにつなげる秋川雅史の歌い方には専門用語があるはずだが、それがわからない。とりあえず、「引き延ばし唱法」と名付けておこう。この「引き延ばし唱法」は、秋川の工夫ではあるが、発明や独創とは違う。歌謡曲、とくに演歌の歌手の多くが取り入れている歌い方だ。もっとも成功した例として、美空ひばりを挙げたい。

「悲しい酒」はひばりの絶唱といえるものだが、ひばりはこの歌を歌うのに「引き延ばし唱法」を取り入れている。それは次のようだ。

第一フレーズから第二フレーズにかけて、「飲む酒は」の「は」のところが長くなり、「の~むうさ~けは~~~」となる。後半は息が細くなり、ほとんど休止しているといってもよい。伴奏は付き合いきれずに、先を進む。そのため、「別れ涙の」の最初が詰まり、「わかれな~みいだ~の」と歌い継いでいくことになる。音符通り歌うと、「わ~~か~れな~みいだ~の」となる部分だ。他のフレーズ間の受け渡しでも同様の事態が起こる。

ひばりは、全体を極めてゆっくりと、余韻嫋々と歌う。テレビで見たときには、ひばりの眼から涙が伝わっていたことを思い出す。それほど、ひばりはこの歌を「作って」いるのだが、技巧のいやらしさを感じさせない。

ひばりは「引き延ばし唱法」の大家だが、どの歌も同じように「引き延ばし唱法」で歌っているのではないことに注目したい。例えば、「港町十三番地」では、「引き延ばし唱法」を抑えて、航海から戻ったマドロスの心浮く姿を想起させるように、弾むようなメロディを刻むのだ。同じ、酒場と酒を主題にした歌でありながら、状況に応じた歌い分けを試みていることがわかる。

秋川雅史が歌った「波浮の港」に違和感を覚えた訳を考えているのだが、なかなか難しい。この歌も「引き延ばし唱法」になじむはずなのだが。第四フレーズに「ヤレホンニサ」という掛け声を取り込んでいる(野口雨情作詞)のだが、このことばが「引き延ばし唱法」を拒んでいることに気付いた。
どう歌っても、「ヤレホンニサ~~~」とはならないではないか。

秋川雅史が歌ってうまくいきそうなのが、例えば、「荒城の月」だ。これは朗々と歌い上げればいいのだから、「引き延ばし唱法」にピッタリだ。  (2007/11)


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