案の定、普段と違う移動先の新居所(老人保健施設)に戸惑いを感じたの
か、ここは違う、ここは寝る処ではない、とダダをこねた。自分の家の近くだよ、
と たしなめる が聞き入れない。不安心理を露骨に出し頓狂な声を挙げる事、
しきりである。家(元の施設)へ帰る、家へ帰る、と声を張りあげて聞かない。新
施設の看護師さんも なだめる が馬耳東風。聞き入れない。しばし落ち着かせ
る事に関係者は専念した。30分が経って、漸く落ち着いた。施設長さんが新し
く仲間入りした某○○さんです、よろしく、と紹介した。60名程の入所の方々は
各々違った病状の持ち主で各対応もまちまちだ。鼻からゴム管を通して流動食
を流し込んでいるのか、きつそうな顔つきで懸命に胃袋に落とし入れる。前か
がみで口から よだれ を垂らし 鈍い眼つきで視界不明の処に眼を遣っている
方も居られる。看護師の介助で、おやつ を食している方も居る。人生いろい
ろ、人さまざま、人もいろいろ、と、歌の歌詞を思い出す。人の生きざま は多様
なのだと、つくづく思い知らされる。―人生の悲哀を感じる―。かつては気丈で
健常で普通の日常生活を営んでいた方々だ。痴呆症という病に罹り今は施設
入りだ。どの家族も心を痛めているに違いない。仕事と施設通いに、へとへと
と疲れている家族も居られるに違いない。私の母も条件は同じだ。新しい施設
に慣れるまでは本人も家族も大変だと思う。でも、それが天(神、自然の摂理)
から与えられた運命・宿命なのだと甘んじて受け入れなければならない。輪廻
転生の摂理には従うしかない。それが人間の業の償いなのだ。母もこの世で、
現世で、試練を受けているのだ。来世の為の試練なのだと子の私は思ってい
る。この現実を、現状を、甘受しよう。一日も早く新施設に慣れ、新しい仲間と
共に 甘美な生活? が送られる様に祈ろう。それが、せめてもの私や家族が出
来る精一杯の対応なのだ。施設の皆様、今後とも、よろしく、お願い致しま
す。・・・